メディア掲載  国際交流  2013.03.27

震災復興の原点「いま私に何ができるのか」を想う

JBPressに掲載(2013年3月25日付)

 東日本大震災から2年がたった。メディアは連日、震災復興の特集を組んで被災地の実情を伝えた。がれきの山は片付けられ、企業は操業を再開し、学校も表面上は普通に授業を行っている。しかし、依然として仮設住宅で暮らしている被災者、家族がバラバラになったままの家庭が非常に多い。

 震災、津波、原発事故によって肉親や友人、自宅や職場を失い、心に深い傷を抱えている上に、復興の停滞により二重三重の苦しみが続いている。その実情を目の当たりにして、改めて「いま私に何ができるのか」と心に強く想った人は多いはずだ。


■中央の復興ビジョンと地域の現場のギャップが埋まらないのはなぜか

 震災復興の基本的な考え方として、将来の大津波に備えた安全な街づくり、地域の産業高度化の実現を目指す新たな産業基盤の構築といった大きなビジョンが掲げられている。東北3県を単純に元の姿に戻すのではなく、日本の将来モデルとなる地域経済社会を新たに創造することを目指していた。

 しかし、最近の報道によれば、各地域の現場では、大きなビジョンに向かう最初の段階で、行政面の規則と住民や企業の要望との間の溝が埋まらずに、身動きが取れなくなっている。防潮堤の建設を巡り合意形成ができないために街づくりが進められない、農地の転用規制が制約になって新たな産業基盤整備が停滞する、といった状況だ。

 震災復興の大きなビジョンは、中央省庁が一流の専門家の意見を集約して提示した。しかし、東北の被災地の現場では、そのビジョンを実際に実現する作業が進んでいない。

 国の政策を各地域できちんと実現していくには、各地域の実情や住民の要望に合わせて施策の中身を調整=カスタマイズする必要がある。震災以前、各市町村の行政組織は正常に機能し、地元住民の意見集約の仕組みなどもワークしていたはずである。その行政の土台が今回の大震災により、根底から崩れた。

 平時であれば国の施策を地域の実情に合わせてカスタマイズする機能は十分備えていても、これほどの緊急事態に自力で対処できるほど豊富な人材を持っている自治体はない。加えて、震災後に多くの住民が地域外に移転した。震災後の地域の実情と地元に残った住民の要望はいずれも震災前と大きく異なる。

 大きく変化した前提条件の上に住民の合意形成を図る仕組みの構築ができていない。これが国の施策を各地域の実情に合わせてカスタマイズすることを極めて困難にしている。これでは国の施策があっても地域の現場が動かない。震災復興が停滞するのは当然だ。


■被災地域に不足する中核リーダー

 日本人は戦略や目標を決めるまでに時間がかかる。しかし、一旦大方針が決まれば、それを実務レベルにブレークダウンして、効率的かつ迅速に完成度の高い製品やサービスを作り出すのは得意である。

 震災被災地が現在直面している問題はビジョンや戦略の問題というより、むしろ後者の実施プロセスの問題が大きいように見える。これは本来日本人が得意な分野の問題であるはずである。それにもかかわらず、ここまで停滞しているのはなぜだろうか。

 それは行政機関の深刻な人手不足に原因があると考えられる。緊急時に必要な行政職員は平時の数倍に達するはずだ。とくに豊富な行政経験を積んだ中核リーダーが不足している。

 平時の問題を解決するための行政組織では、今回のような想像を絶する緊急時対応は不可能である。緊急時対応は節目ごとに迅速かつ的確な判断と決断が求められる。住民、企業等関係者全員が満足する解決策はない。不満を持っている人たちを何とか説得し、早期に復興を実現することによって、結果的に全住民に納得してもらうしかない。

 しかし、それにはそれを実現できる有能なリーダーが必要である。リーダーは街づくり、教育、医療・社会福祉など様々な分野で必要とされる。しかも、それぞれの分野のプロであることが求められる。小さな地方自治体の中にその役割を担える人材が揃っていることはありえない。

 ではどうするか。他の大きな自治体の力を借りるしかない。全国の大規模な自治体にはそうした実務に精通した中核リーダーがいる。現在、各自治体の行政運営の最前線で指揮を執っている中核リーダーを被災地の自治体に振り向けることはできない。

 しかし、以前そうしたポジションで辣腕を発揮し、大きな成果を上げた経験のあるリーダーが、今は一線から身を引いているケースは多い。70歳以下でまだ気力体力とも充実しているリーダー人材は多く残っている。そうした方々に対して被災地の行政運営の最前線に立つことをお願いする。

 同時に、各自治体の中から希望者を募ってその中核リーダーとともに被災地を支援する若手・中堅職員のチームを編成して被災地に派遣し、2~3年の間、被災地に常駐して支援事業に取り組ませる。震災復興事業の中で緊急時対応の経験を積んだ人材は、派遣する側の自治体にとっても将来貴重な存在となることは間違いない。若手・中堅職員の人材育成にも絶好のチャンスである。


■四川大地震の復興時に功を奏したペアリング支援

 2008年5月に中国の四川省で大地震が起きた。その地震は死者6万9197人、負傷者37万4176人、行方不明者1万8222人(2008年7月時点)と被災者の数は東日本大震災をはるかに上回るものだった。

 その復興支援策として中国の中央政府は、北京市、上海市、広東省、山東省といった全国の主要な自治体と被災地の市町村レベルの個々の自治体を1対1で結び付けて責任の範囲を明確化し、個々の被災地の復興を全国の主要な自治体の支援に任せた。これが成功して復興は順調に進んだ。これは中国語で「対口支援」、日本ではペアリング支援と呼ばれている。

 日本でも東日本大震災直後に、関西広域連合が独自にこれを実行している。岩手県を大阪府・和歌山県、宮城県を兵庫県・徳島県・鳥取県、福島県を滋賀県・京都府が担当して支援を行った。また、東京都の杉並区では群馬県の東吾妻町とともに友好都市である福島県の南相馬市を支援している。

 しかし、中国とは異なり、今までのところ十分な成果を上げているとは言えない。それはペアリング支援に対する国の予算・施策面のサポートが不十分だったためである。

 震災後2年経ってようやく、国土交通省が来年度予算の中でこのペアリング支援を促進する予算を95百万円計上し、新たな取り組みが始まろうとしている。予算項目は「広域的地域間共助の推進」。予算規模は小さいが画期的な取り組みである。

 まず、国が仲介役となって、これまでの支援実績や行政運営能力などを考慮して、全国の自治体と被災地の市町村の適切な組み合わせを決める。各分野で専門的な知識と豊富な経験を持つ有能な人材を抱える全国の地方自治体が被災地の復興推進に必要な人材を派遣すれば、現在の震災復興を停滞させているボトルネックの多くが解消するはずである。

 国土交通省のこの画期的な取り組みを足掛かりとして、今後全国の自治体が腰を据えて被災地を支援し、震災復興が一気に加速することを強く期待したい。全国の自治体が震災復興支援に本気で取り組むようになれば、震災直後にほとんどの日本人が心に抱いていたあの一言を、多くの人たちが思い出すはずである。

 「いま私に何ができるのか」

 もう一度新たな気持ちで震災を考え、全国民の力を結集して震災復興を推進する時が来ている。