メディア掲載 財政・社会保障制度 2013.03.22
第3回カナダ
財源と提供体制が「公」中心 州ごとに施設の統治法に違い
カナダの人口の2012年末時点で3500万人。移民政策効果もあり増加を続けている。2012年の医療介護費は、2074億加ドル(18兆6660億円:1加ドル90円換算)でGDP国内総生産の11.6%の見込みである。一人あたり医療介護費は5948加ドル(約53万5千円)。
カナダの医療制度は、オーストラリアと同様に財源確保と提供体制が「公」中心である。しかも、民間病院と民間医療保険のウエイトが低く公的制度の性格がより強い、医療制度の設計に関して州政府に大きな権限が与えられているという特徴がある。2012年の医療介護費の財源構成を見ると州政府が最大の拠出者であり、カナダの医療制度の運営責任者が州政府であることを意味している。
ただし、州政府の財源には連邦政府から移転されたものが含まれる。地域包括ケアのガバナンスの仕組みとしては、医療公営企業を州政府が直轄する方法と、公立医療関連施設を指導・監督する行政機関を地域別に設置して間接的に統治する2つの方法が採用されている。
医療公営企業の経営に直接関与することで州内の医療経営資源を州政府が一元的にガバナンスしているのが、太平洋に面するブリティッシュ・コロンビア州(以下BC州)である。人口464万人、2012年の医療介護費見込み額265億加ドル(2兆3850億円)。
医療公営企業という大規模地域包括ケア事業体を複数束ねる制度設計思想は、オーストラリアNSW州と全く同じである。BC州は、ヘルス・オーソリティという地域医療公営企業を5つ、プロヴィンシャル・ヘルス・サービシーズ・オーソリティ(以下PHSA)という専門医療公営企業を1つ設置している。PHSAは、小児、臓器移植、癌の3分野で高度医療をヘルス・オーソリティに代わり提供する。
ヘルス・オーソリティの中で一番大きいのがフレイザー・ヘルスである。担当人口は160万人、事業規模26億加ドル(2340億円:2011年6月期)、職員2万6000人、参加医師2500人、ボランティア6500人、急性期病院12、精神医療から在宅、外来ケア、介護施設、公衆衛生に至るまで地域住民が必要とするケア全てを品揃えしている。
これに対し、行政機関を地域毎に設置して間接統治する方法を部分的に取り入れているのが、大西洋側にあるケベック州である。(図3)ケベック州の人口は808万人、2012年の医療介護費見込み額は440億加ドル(3兆9600億円)である。平均人口45万人単位で医療社会サービス局という行政機関を設置した上で、その下に平均人口8万5000人単位で医療社会サービスセンターと呼ばれる公的ケア提供複合体を置き指導・監督、財源配分している。サービスセンターは、当該地域にあるコミュニティサービスセンター、介護施設などの公立施設を合併して設立したものであり、自らが提供できないサービスは民間事業者と契約して確保している。
ケベック州の場合、1961年に病院保険、1971年に医療保険、1997年に公的薬剤費保険を導入することで他州に先駆けて皆保険を実現、介護・福祉についても医療と一体となって提供することを目標に掲げていた。しかし、公立・民間の各施設・事業者間の連携が不十分だったため、2004年12月に新法を制定し、地域単位で医療・介護・福祉サービス提供体制のガバナンスを強化する改革を行ったのである。
首都オタワのあるオンタリオ州は、2000年代前半、個々の公立施設がバラバラに経営され、医師をはじめとする医療従事者間の求心力が働かない状況だった。そこで2006年に「地域医療システム統合法」を施行させた。その改革の目玉は、人口1355万人の州内に14の地域医療圏を設定し、ローカル・ヘルス・インティグレーション・ネットワーク(地域医療統合ネットワーク:略称LHIN)と呼ばれる行政機関(法律上は株主資本のない会社)に地域包括ケアの運営を現場密着で行わせることにある。LHINの経営執行責任者であるCEOには医療経営専門家を抜擢する一方、LHINの理事会には個々の施設経営の発想ではなく地域医療圏全体の観点から判断するように求めている。LHINの最大の特徴は、財源配分と施設整備計画作成の権限を一元的に有する一方、自らは地域包括ケア体制作りの調整役に専念する点にある。
オンタリオ州の2012年の医療介護費見込み額は791億加ドル(7兆1190億円)である。したがって、各LHINの予算規模は大きい。ちなみに、最大のLHINであるトロントセントラルの2011年6月期の予算規模は44億加ドル(約4000億円)であった。トロントはカナダで最も医療資源が集まった地区であり、トロントセントラルが所管する医療機関数は177、約半分の患者が他のLHIN地域から来た人々である。