コラム 国際交流 2013.03.14
或る特定の目的を達成するために、正確な情報をタイミング良く得ることは難しい。"情報"という言葉が初めて現れたのは明治9 (1876)年。『佛國歩兵陣中要務實地演習軌典 (Instruction pour le service et les ma nœuvres de l'infanterie légère en campagne)』が訳出された際、"敵情報告"の略語として生まれた。因みに筆者が調べた限りでは、著者のジャン=ピエール・ギヤール大佐は、フランスの画家アンリ・ルソーの母(エレオノール・ギヤール)の祖父だが、正確かつ詳細な情報に関して専門家にご教授願いたいと思っている。
繰り返しになるが正確な情報が必要としている人にタイミング良く届くことは希である。換言すれば人々の心を乱す不正確な情報が氾濫している。昨年の訪中時、中国の友人は、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授と共同論文を著したこともある王緝思北京大学国際関係学院(SIS)教授の発言に言及して、「米国政治に関し、中国人が発表する資料の多くが誤謬に満ちている」と語った("An Overview of American Studies in China," in All-China American Studies Directory, 2008を参照)。彼は続けて「ジュン、ハーバードの基準で考えると、出来の悪い学生のfree essaysやterm papersのような低い水準の論文が横行している。結果的に、真面目で優秀な読者が増えず、真面目だが米国を知らない人は誤情報を鵜呑みにするから大変だ!」と不満を漏らした。それに対し筆者は「悪情報は良情報を駆逐する。ノーベル経済学賞を受賞されたジョージ・アカロフ先生が唱えたgeneralized Gresham's Lawの通りだね」と応え、また慶應義塾大学の渡辺靖教授が、日本でも多様な米国情報、また愛憎混じり合う対米観が氾濫し、"知米"をはじめ"拝米"、"排米"、"嫌米"...と、18種類の"米"の存在をご著書(Soft Power Superpowers, 2008)の中で指摘されている、と伝えた。
昨年末に話題になったウォートン・スクールのマウロ・ギーエン教授の著書(Global Turning Points: Under standing the Challenges for Business in the 21st Century, Cambridge University Press, November 2012)の中で最も印象に残った言葉は"Complexity is a key feature of contemporary global society"だ。こうした状況では、情報に関して、「グレシャムの法則」が益々支配的になってくる。すなわち人々に「分からせる」能力よりも、「分かった気分にさせる」能力が評価され、巧みな言葉で「単純明瞭で分かり易い」説明をする事が、訥々と複雑な事象を厳密に説明する事よりも評価される時代なのだ。勿論、恣意的に迂遠(ウエン)で晦渋(カイジュウ)な説明をする必要は全くない。が、現下の問題は本当に複雑かつ難解、しかも不確実性を伴うものなのだ。この状況で我々は何をなすべきか。筆者は、informed citizenryの形成を念頭に、「意を決して正確かつ質の高い情報をグローバルに発信すること」だと考えている。そして今、最新版の世界のシンクタンク・ランキング("2012 Global Go to Think Tanks Report and Policy Advice," January 2013)を眺めている(小誌2012年3月号を参照)。