10月に発表されたIMF世界経済見通しによれば、来年、日中韓3国のGDPの合計が16.3兆ドルに達し、米国のGDP(16.2兆ドル)を上回る。21世紀はアジアの時代と言われ、世界経済の中心は欧米からアジアにシフトしつつある。日中韓3国のGDPが米国を上回るのは、それを示す象徴的な出来事である。
◆アジアの時代の中核を担う日中両国の相互依存
世界経済を展望すれば、米国は財政の崖に直面し、財政支出の削減に苦しむ一方、欧州は財政危機を背景とする金融不安の泥沼から抜け出せる展望が見えていない。世界経済をリードする役割を担うのはアジア、とりわけ東アジア地域である。昨年のアジア全体のGDPの中で、日中韓が占めるウエイトは77%、日中両国では71%である。
足元の成長率だけを見ると、東アジアと言っても中国が元気なだけで、日本と韓国の存在感は希薄である。しかし、中長期的には東アジア3国の連携が重要だ。
1979年以降、30年以上に及ぶ中国の経済発展を支えてきたのは改革開放政策である。中国はこの基本路線を変更することはないと見るべきであろう。中国経済は今後も外国企業、とりわけ日韓両国企業とともに発展する道を歩み続ける。
現在、中国国内市場で最も積極的に投資を拡大させている外国企業は日本企業である。今年の日本企業の対中直接投資額は70億ドルを上回り、米国、韓国、台湾の約3倍、ドイツの約5倍に達する勢いである。尖閣問題で一部の企業は投資計画を見直すかもしれないが、日本企業の大部分は引き続き積極的に中国ビジネスを展開するスタンスである。
今後、中長期的な中国経済の発展を支えていくのは日本企業であることは間違いない。中国にとって日本企業の重要性は今後ますます高まっていく。もちろん日本企業にとっても中国市場の重要性が増し、両国の相互依存関係は深化し続ける。
◆アジア経済圏の発展メカニズム
アジア全体に目を転じよう。日本がかつて安定成長を維持していた1980年代まで、日本の輸出総額に占めるアジア向けのウエイトは約30%。それに対して欧米向け輸出は約50%を占めていた。この時代の日本企業の主要なターゲットは欧米市場だった。
それから30年が経過し、2011年の日本の輸出総額に占めるアジア向けのウエイトは56%まで上昇、欧米向けは28%にまで低下した。ちょうどアジアの半分だ。先行きのアジアと欧米の成長率の違いを考えれば、アジア向けのウエイトが今後も増加し続けるのは明らかである。
日中韓3国とASEAN諸国およびインドとの間では、完成品と部品の貿易が増大し続けている。多くの日本企業は中国市場で販売する製品を中国国内で生産しているが、部品はASEANから中国に輸入するケースも多い。これは韓国企業も同様である。日中韓3国が順調に協調発展を持続すれば、それが東アジアとASEAN・インドとの間の貿易投資関係の拡大を促進する。それにより日本のアジア向け輸出・投資はさらに増大する。
以上の事実から言えることは何か。世界経済の中心は確実にアジア、特に東アジアにシフトしつつある。その中核は日本と中国だ。日中両国はウィン・ウィン関係にあり、その相互依存関係は今後ますます深化する。
そこに韓国も加わって東アジアが発展すれば、ASEAN・インド諸国にもその勢いが波及し、アジア域内で水平分業型の経済緊密化が進展して、アジア全体が成長する。これが今後の世界経済をリードするアジア経済発展のメカニズムである。
◆日本経済再生のカギはアジアの発展を見据えた公共事業にある
このようなアジアの発展を展望すれば、日本経済再生のための処方箋は明らかだ。アジアの発展を日本の活力に変える方法を考えるべきである。
日本のバブル経済が崩壊したのは1990年。ちょうどこの頃から世界経済のグローバル化が本格化し始めた。日本企業は1980年代まで、欧米諸国向けの輸出に注力していた。しかし、その後の円高、貿易摩擦等を克服するために、現地生産化を進めざるを得なくなった。
1990年代以降、日本企業の生産拠点の現地化が大幅に進み、20年余りの間に日本の経済構造は大きく変化した。世界経済の中心はアジアに向かってシフトしつつあり、日本とアジア間の往来は格段に増加した。
これだけ大きな環境変化が生じている現在、道路やダム建設といった従来型の公共事業を実施しても経済効果が乏しいのは当然である。逆に、アジアの時代にふさわしい公共事業を実施すれば、大きな経済効果を生み、日本の潜在成長力を高めることができる。アジア地域でのビジネス展開に力を入れている日本企業の利便性を高める交通運輸インフラを整備すれば、以前は想像もつかなかったほど大きな効果を生むのである。
◆アジアの時代にふさわしい交通インフラ整備による経済効果
かつて日本の高度成長期に最も経済誘発効果が大きかった公共投資は、東名高速と東海道新幹線だった。現在それらに相当するのは、日本と中国・アジアの主要都市を結ぶ航空網である。その利便性を高める交通運輸インフラ整備が日本経済再生の起爆剤となる。
第1に、東京駅と羽田・成田空港、名古屋駅と中部空港、大阪駅・新大阪駅と関西空港の間をノンストップの専用新幹線で結ぶ。これで各主要駅から空港までの移動時間は10~20分に短縮される。
第2に、日本と中国・アジアの主要空港との間の便をシャトル便化して30分~1時間毎に1便を出発させ、空席があればどの便でも待たずに乗れるようにする。
第3に、リニアモーターカーの予定路線に現在最速の新幹線を5年以内に運行させ、東京―名古屋を1時間、東京―大阪100分で結ぶ。併せて、首都圏、主要都市周辺の道路網を整備し、空港・主要駅へアクセスする道路事情を改善する。以上の国内交通網整備により、首都圏、中部圏、関西圏、北九州圏の高速連携を実現する。
以上のインフラ整備により日本の主要都市と中国・アジア主要都市間の移動時間の大幅短縮が実現すれば、次のような経済効果が期待できる。
第1に、日本全体の交通利便性が大幅に向上し、日本企業の生産性、国際競争力が向上する。
第2に、中国・アジアとのビジネスを重視する国内企業が交通の利便性をフルに活用できる条件のいい立地に移動する需要が高まり、オフィス・住宅建設需要が誘発される。
第3に、日本の法人税を中国、韓国並みに引き下げれば、アジアでビジネスを展開しようとする世界中の企業が東京をアジアの統括拠点とする動きが広がる。
第4に、主要都市間およびその周辺地域の連携が強化され、東京の経済発展の波及効果が日本全国に広がりやすくなる。
以上の経済効果の帰結として、設備投資が拡大し、雇用が増え、企業収益が改善する。税収も大幅に増加し、巨額の累積財政赤字からの脱却も可能となる。
これを実現するには新たな財源が必要である。必要な財源は総額で10兆~20兆円程度であり、1年に必要な財源はその数分の1である。年間26兆~28兆円にも達する社会保障関係費の負担に比べれば小さな金額だ。日本経済が再生するまでの間、社会保障給付水準の低下を若干我慢するだけで、日本経済を再生できるのである。
公共事業は効果がないと思い込んでいる発想を切り替えさえすれば、日本経済の再生は難しくない。財政破綻のリスクが現実のものとなる前に、日本経済を危機から脱出させることは十分可能である。