コラム  国際交流  2012.11.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第43号(2012年11月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない。ハーバードにいる一研究者である筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 今年のウィンブルドンでは、アンディ・マレー氏が74年ぶりに英国人として決勝進出を果たしたが、筆者は当時英国出張中で、熱心に応援するケンブリッジ大学の友人達と共にテレビ観戦していた。日頃は"何事に関しても冷静"な英国人気質(British phlegm)をさりげなく誇る彼等に対し、「今日は意外にも愛国心からか、燃えているね! これはBritishそれともScottish?」と皮肉交じりに冷かしていた。
 確かに愛国心・国粋主義(nationalism/民族主义)の取り扱いは難しい。北京天则经济研究所の王军客員研究員、そしてハーバード大学に在籍経験を持つデンバー大学の赵穗生教授やウォーリック大学のクリストファー・ヒューズ教授等の見解を考えつつ、ネット上で激昂する"网络民族主义(cyber nationalism)"の沈静化を願っている。今は、中国の友人達が日本との交流を理由に"同国人から批判を受けないだろうか?"との懸念から、メールや電話を含めコンタクトを日本や欧米に居る中国人に限定しているのが残念だ。
 愛国心の取り扱いに悩んだのは現在の人間だけではない--①ワシントン大統領は、「告別演説(Farewell Address)」の中で、「似非(えせ)愛国主義の欺瞞行為を警戒せよ (Guard against the impostures of pretended patriotism/要提防虚假爱国主义的装腔作势)」と語り、また②陸奥宗光外相は回顧録『蹇蹇録』の中で「政府は固(もと)より之(これ)(愛国心のこと)を鼓舞作興(サッコウ)すべく毫(ゴウ)も之を擯斥(ヒンセキ)(排斥の意)排除するの必要なし。然(しか)れども其(その)愛國心なるものが如何にも粗豪尨大(ソゴウボウダイ)(激しく荒々しいの意)にして之を事實に適用するの注意を缼(か)けば往々却(かぇっ)て當局者に困難を感ぜしめたり」と告白した。更には③憂国の弁護士、正木旲(ひろし)も『近きより』の中で太平洋戦争直前の日本の世相に関し、「愛国者と憂国者とが離ればなれになっている。愛国者は... 名誉を得、金をもうけているが、憂国者は職を追われ、悪宣伝され、生命の危険にさえさらされる」と記している。そして個人的には、訪中が当面難しくなれば、現地の中国の友人を通じて資料を購入している筆者のグローバルな知的視野が矮小化すると心配している--小誌前号で触れたシュンペーター(熊彼特)の名著(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung/«经济发展理论»)の新訳が6月に出版されたが...。かくして中国の人々が、鄧小平の如く"冷徹な国際感覚を奥に秘めた愛国主義(pragmatic nationalism/务实民族主义)"を抱いてくれることを願っている。さもなければ、英国の友人達から「ジュン、アジア人同士が互いに争い国力を消耗すれば、嘗て仏独両国が争って国力を失った時のように米露だけが得をするよ!」と皮肉を言われるだけ、と懸念している。

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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第43号(2012年11月)