その他  外交・安全保障  2012.10.24

美根慶樹インタビュー~著書「21世紀の中国:軍事外交編~軍事大国化する中国の現状と戦略」紹介

 10月に『朝日選書』から「21世紀の中国:軍事外交編~軍事大国化する中国の現状と戦略」を上梓した美根慶樹研究主幹に著書の内容などについてインタビューした。

著書紹介は、こちらからご覧ください。



【聞き手】この本を書いた動機は何でしょうか?


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【美根】 中国は近年著しい経済成長を遂げています。そのGDPは2010年に日本を抜いて世界第2位となり、このまま成長を続ければ、米国に追いつく日もそう遠くないと予想されています。軍事面ではもともと軍事大国で、現在もさらに増強を続けています。中国は象にたとえられるように非常に大きく、かつ多様で、しかも最近は特に変化が激しいので、政治・外交・軍事・経済の諸側面にわたって客観的に分析することは容易ではありません。しかし、日本にとって中国はいろいろな意味で重要なパートナーであり、またライバルでもあります。そうした日本にとって中国を正しく理解することは大変重要なことです。また、今年は中国共産党の全国代表大会が5年ぶりに開かれ、新しい指導体制が決定されます。
 このようなことから、キヤノングローバル戦略研究所で研究会を組織して、中国を研究することにしました。研究会にお集まりいただいた10名余りの先生方は、研究者・学者として、あるいはジャーナリストとして、長い間ずっと中国の状況をフォローし、研究し続けてきた学識豊かな専門家の方々ばかりです。そういう先生方と議論し、一緒に研究しながらまとめたのが、今回『朝日選書』から出版する「21世紀の中国」です。今回の「軍事外交編」に続いて、「政治社会」「経済」についても書いて、3部作とするつもりです。


【聞き手】「軍事外交」という言葉は独特の意味があると思いますが、どういうことを表していますか。


【美根】 外交と軍事は昔から対置して見られる傾向がありました。外交が非強制的あるいは平和的手段であるのに対し、軍事は強制的手段であると考えられてきました。しかし、実際には軍事を外交目的達成のために活用、あるいは利用することが行われています。そうすると単に外交的手段を用いるのと比べ、非常に効果が上がることがあります。特に、中国においては、軍事と外交が密接不可分の関係にあり、国家目標を達成するための重要な手段になっていると言えると思います。日本もそういう時代がありました。今の中国もかつての日本と同じで、軍事力を手段として外交目的を達成するという形になっていると思います。従って、軍事と外交をバラバラにみては中国の本質が捉えられないと考えて、軍事の専門家である茅原郁生さんと一緒にこの本を書いた訳です。


【聞き手】今回お書きになった「軍事外交」の中で最も力を入れた点はどういうところでしょうか?


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【美根】 中国のきわめて活発な軍事外交が何を目的としているかを余すところなく描写・分析することです。
 中国は1964年に核兵器を開発し、核実験にも成功しました。長距離ミサイル(ICBM=大陸間弾道ミサイル)も開発しており、相当以前から「軍事大国」と言っていいと思います。そのうえ最近では毎年二桁を超えるペースで軍事予算を増やしています。本書の中では、軍備や軍事予算などの数量的な面も詳細に説明しました。
 中国はなぜそのように軍事力を増強しているのでしょうか。このことに懸念を抱いているのは日本だけではありません。アジアの周辺諸国はすべて心配しています。
 中国には中国の独自の目標があります。中国は、台湾を含むいわゆる第一列島線の西側について特殊な主張をしています。その広大な海域の底である大陸棚、海上にある島々について自国領であるとしています。出遅れた海洋について権益を確保し、さらに拡大し、海洋大国になりたいという目標をもっています。また台湾を中国に統一することは中国の悲願です。それらの主張が相互に絡み合っています。それに加えて、宇宙へ進出し、宇宙利用の最先端に立つことも国家的課題にしています。これらの目標を達成して「偉大な中国」になる。そのためにはまだまだ軍備に投資する必要があると考えています。
 こうした中国の目標達成の努力に対して、どの分野でも米国が立ちはだかります。中国は冷戦時代のソ連のように、軍事力で米国に拮抗することを目標にしているとは実証できません。しかし、その軍事力増強は、米国からも脅威とみられ、米国と対立する結果に陥る恐れがあります。また、中国軍の側にも、歴史的な理由に基づく対米不満や競争意識があります。さらに中国は現在の一党独裁体制を維持するために軍事力を必要としています。
 本書の中では、中国がこれら内外の諸難問にどのように対応しようとしているのかを明らかにしようとしました。


【【聞き手】最近、尖閣諸島の領有権をめぐって日中関係は非常に緊張しています。


【美根】 2010年9月に、中国の漁船が我が国の海上保安庁の巡視船に体当たりした事件がありました。研究会を始めたのは時期的にはその前後ですが、尖閣諸島問題が今日のように困難な問題になることを予想していた訳ではありません。この本を書いた動機は、上に述べたように、広く政治・外交・軍事・経済の諸側面において日本にとって重要な国である中国を正しく理解することが喫緊の課題だと考えたからです。
 日中関係はうまく行っていないと考える人が多いと思います。しかし、中国や中国人が本質的に日本を嫌っているのではないと思います。今年ノーベル文学賞を授与された中国の莫言氏がメディアに対するコメントの中で、自分の作品を日本人が非常によく理解してくれて日本に感謝していると述べています。日本を密接な関係のある国として冷静にみている中国人は多いと思います。他方、日中は、歴史的には対等の立場で付き合ったことが少ないのです。長い間、政治的、文化的に中国が優位でありましたが、明治以後は日本の優越的な関係になったりしています。今後の日中関係を考えるうえで、日中両国が平等の立場に立ってどう付き合っていくかということを両国ともに真剣に考える必要があると思います。
 日中関係を独仏関係と比較してみることができます。独仏は国力・軍事力が拮抗している隣国同士として、これまで何度となく戦争をしてきました。しかし、この関係もノーベル賞を授与されたEUに象徴されるように、争うことが何の価値も生まないことを学んだと言えると思います。日中は必ずしも人口や国力が拮抗している訳ではありませんが、お互いが対等な立場の中でどのように争いを起こすことなく付き合っていくかということ学ぶべきだと思います。



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