コラム  国際交流  2012.10.05

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第42号(2012年10月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない。ハーバードにいる一研究者である筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 レーニンに倣う訳ではないが、我々が今「何をなすべきか(Что делать?)」と問うならば、それは"イノベーション"であろう。しかも全てのレベル--一人ひとりの"個人"、政府や企業そして学校等の"組織"、国家や産業界等の"制度"、更には"グローバル・システム"--において"イノベーション"が求められているのだ。イノベーションと言えば、小誌16号(2010年8月)で触れたシュンペーターの『経済発展の理論(The Theory of Economic Development)』の中の言葉、「ビフテキと理想とを最初に共通の尺度で並べる能力と理由を持つことが出来る頭脳(the brain that was first able and had the reason to reduce beefsteak and the ideal to a common denominator)」が示唆的だ。しかも、彼が「郵便馬車をいくら連続的に加えても、決して鉄道を得ることはない(Add successively as many mail coaches as you please, you will never get a railway thereby)」と指摘した通り、新たな均衡点に到達するには、不連続的な発想と勇気ある実践を必要とする。
 このためには優れた"ヒト"と共に優れた"組織"、更には優れた"制度"と"世界システム"を同時に案出しなければならない。歴史は遡るが第二次世界大戦の勝敗を別けた技術の1つとしてレーダーが挙げられる。周知の通り、レーダーに関し重要な要素技術の1つが"日本発の技術"、八木・宇田アンテナであった。が、諸外国が開発に懸命になっていた1937年3月、陸海軍と逓信省、それに大学の専門家が集められ「電波研究会議」が開催されたが、「電波で敵を発見することは不可能」という見解が多数派を占める。また海軍も「自ら電波を出すことは奇襲を得意とする帝国海軍の伝統に反する」という判断を下していた。しかし、同年6月、或る海軍技術士官は、ジョージ六世戴冠記念観艦式の際に訪英した重巡「足柄」艦上で英軍の防空訓練を観察中に実用段階のレーダー技術を目撃し、また同年7月、ウィーンで開催された万国短波学会に出席した別の海軍技術士官は、ドイツ海軍によるレーダー開発成功の噂を聞いている。が、不幸なことに、当時の日本は7月7日に勃発した盧溝橋事件で本格的な戦闘状態に陥り、艦艇改修や予備艦の復帰作業に忙殺されてレーダー開発が次第に忘れ去られていった。しかも、特命検閲使として海軍技術研究所を訪れる海軍大将は"革新的兵器"を繰り返し要求する一方、「明日の戦闘に間に合わないものは駄目だ」という注文をつけていた。こうした環境では、優れた日本の研究者もさすがに隠れた実力を顕在化させることは出来なかったであろう。そして今、我々は"強い日本"を創り直すため、日本の研究者が世界の研究者と切磋琢磨出来るような組織的・制度的イノベーションを少しでも多く実現しなければならない。
 以上の問題意識から"強い米国"を如何に創るのか、10月18日夜のAnnual Alfred E. Smith Memorial Foundation Dinnerで予定されているオバマ大統領とロムニー候補の演説に関し、友人達と囁き合う毎日だ。

全文を読む

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第42号(2012年10月)