はじめに
本稿の目的は、英国ブレア労働党政権によるNational Health Service(以下NHS と略す)の民間経営治療センター(Independent Sector Treatment Centre)の取り組みに着目し、その施策が医療提供やNHS の財政へ与えた影響を検討することである。ブレア政権は「第三の道」を選択し、官と民が協働するPublic Private Partnership(以下PPP と略す)を提唱し、医療分野においても積極的に民間部門を活用した。また、ブレア政権は医療政策において、公平性の向上とサービスの近代化を目指した。政権発足時は長い待機時間が深刻な問題であり、さらに,救急対応によって予約手術や検査がしばしばキャンセルされていた。待機時間を削減し、患者選択を拡大し十分な医療供給を提供することは重要な政策課題であった。そういった背景のなか、2003 年から一部の予約手術と検査のみを行う民間経営治療センターが開始された。本研究対象である民間経営治療センターは、従来のNHS と民間部門との外注関係とは異なる。従来は、民間部門がNHS から受託し民間病院として医療を提供していた。しかし、民間経営治療センターは、NHS の看板を掲げ、NHS として施術や検査の一部を提供するPPP の一形態である。通常の民間病院はNHS 以外の患者も扱うが、民間経営治療センターは、民間所有にもかかわらず、NHS 患者のみを対象としている点が特徴的である。
このように、民間経営治療センターは、ブレア政権の目指したPPP の一形態であり、また待機時間の削減と患者選択の拡大を目的としているため、ブレア政権の医療政策をみる上で、この施策の検証は不可欠である。また、この施策がNHS の財政にどのように影響を与え、民間部門との関係がどのように変化したかについて検討することも重要である。...
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