メディア掲載 財政・社会保障制度 2012.09.21
筆者は、2011年7月7日の日本経済新聞「経済教室」に施設経営社会福祉法人の財務データ推計を発表し、東日本大震災復興事業のために全国の社会福祉法人が共同拠出すること、その先例モデルとして大阪府の老人福祉施設が実践している社会貢献事業(特集鼎談脚注21頁参照)が評価できるとして政策提言した。その結果、予想を大きく超える反響があり、社会福祉法人の経営者や施設長、経理担当者、行政当局と意見交換する機会を得て、2000年の社会福祉基礎構造改革が道なかばである実情を詳しく知ることができた。また11月に開催された民主党の提言型政策仕分けで、特別養護老人ホームの財務状況調査の指示が厚生労働省に出され、特別養護老人ホーム全体で約2兆円の内部留保があると報告されたことは周知の通りである。
そして2012年7月3日、財務省が、予算執行調査の一環として実施した特別養護老人ホームの財務状況の追加調査と障害福祉サービス事業者の財務状況調査の結果を発表した。このうち特別養護老人ホームに関する財務省調査結果には先の厚生労働省調査になかった重大な指摘が含まれている。すなわち、①内部留保の大きい施設ほど生活困窮者等に対する利用者負担軽減事業に消極的である、②内部留保額上位の施設には多額の有価証券を保有している施設があり、総資産に占める保有有価証券の割合が7割に達する施設もある、③会計処理が不適切であると見受けられる施設(貸借対照表の借方・貸方がアンバランス等)も散見された、という事実を踏まえ、④社会福祉法人の財務諸表等についてはホームページでの公表を義務づける等により透明性・公正性を高めるべき、という指摘である。
筆者も財務データ推計に際し、約1,200の社会福祉法人の財務諸表を見たが、借方と貸方が一致しない貸借対照表を監督官庁である県や市に提出している社会福祉法人が少なからずあることに驚いた。市販の経理ソフトを使っていれば、借方と貸方が不一致の貸借対照表が作成されることはあり得ない。知人の税理士によれば、「これらの社会福祉法人では初歩的な会計知識もない者が経理を担当し、かつ法人資金が経営者たちの私的目的に流用されている疑いが濃い」のだそうだ。また、指摘②も筆者の調査実感と一致する。