その他  グローバルエコノミー  2012.08.31

山下一仁インタビュー ~APEC CEOサミットに参加するにあたって~

 山下研究主幹は、2012年9月7~8日にロシア・ウラジオストックで開催されるAPEC CEOサミット(「課題への対応と可能性の拡大」("Addressing Challenges. Expanding Possibilities")に招待され、「70億人のための食料」("Food: feeding seven billion people")と題するセッションにおいて講演し、パネリストとして参加します。 APEC CEOサミット参加にあたり、ロシアの国営通信社イタル・タス通信東京支局のゴロヴニン支局長より、書面によりインタビューを受けました。以下に再録します。


1.来たるウラジオストクでのAPECサミットにどのような意義を見出しておられますか?

 ①APECの中で大きなエコノミーである、日本、ロシア、中国、韓国を含む極東地域で開催されること、②ロシアがWTOに加盟する年に開催され、ロシアがAPECのみならず、WTOの貿易ルールにもコミットするという点で、有意義なものと考えています。


2.APECサミットと併行・関連して開催される経済人のAPEC CEOサミットに招待されているようです。

 APEC CEOサミットは、この地域の経済界のリーダーたちが一堂に会し、APEC諸国の首脳たちと意見交換するとともに、この地域の様々な問題について、議論することになっています。私は、そのうちの食料安全保障というセッションでディスカッションするために招待されました。食料安全保障以外のテーマについても、さまざまな方と意見交換することを楽しみにしています。ただ残念なことに、我が国はAPEC諸国のなかで経済規模が大きいのに、APEC CEOサミットのホームページにリストアップされている34人のうち、日本人は私一人だけとなっています。APECは大平元総理の提唱になるものであり、我が国からのより積極的な参加が必要だと思います。


3.この度のAPECにおいて、どのようなテーマが最も興味深いものであるとみておられますか?

 以下のテーマです。

 ①APECの首脳会議(サミット)において食料安全保障が主要な4つのテーマの一つとして掲げられたこと

 ②現在の貿易はテレビや自動車などの最終財のみならず、素材や部品などの中間財の貿易が活発に行われており、特に東アジアの地域で顕著です。しかし、東日本大震災で日本の部品工場が操業できなくなったため、アメリカの自動車工場の操業が困難となるなどの不安定要素もあります。このようなことも考慮されたのだと思いますが、この地域における信頼すべきサプライ・チェーンの確立も、食料安全保障と並んで主要なテーマとして掲げられたこと。


4.多くの人が、今年世界で新たな食糧危機の起こる可能性がある、とみています。この意見に同意されますか?

 穀物価格の上昇が輸入途上国にある程度の影響を与えると思いますが、原油価格が上昇していないことから、2008年ほどの事態にはならないと思います。

 詳しくは、こちらのCIGSコラム「穀物価格の上昇」を参照してください。


5.食糧価格が高騰するという否定的現象を、世界経済のために未然に防止することは可能でしょうか?

 食料安全保障は、食料を買える資力や所得があるかどうかということと物流のインフラが整備され食料にアクセスできるかという二つの要素から構成されます。日本のような所得の高い先進国で、食料危機が起こることは、周辺で軍事的な危機が起こり、外国の農産物にアクセスできないという場合をのぞき、考えられません。しかし、途上国では、この二つの要素が共にない場合が多いのです。従って、食料供給を増やすために、農業の技術革新を一層推進すること、途上国の貧しい人の所得の向上に努めること、途上国の物流インフラ整備に努めること、貿易面では2008年にインド、中国、ロシアなどが採ったような、輸出税、輸出制限などの貿易歪曲的な措置を採らないことが重要です。


6.食糧生産拡大のための主な資源(源泉)は何にあると見ておられますか?そこで、ロシアの役割はどのようなものでしょうか?

 農業、つまり食料生産にとって、他の生産要素に代替できないもっとも重要な生産要素は、水と土です。これらの資源を枯渇しないような持続的な農業が必要です。しかし、アメリカ、オーストラリア、中国の農業については、この点で大きな問題があります。ご関心があれば、小著「フードセキュリティ」(日本評論社)を参照してください。

 地球温暖化は防止すべきですが、ある一定の温度上昇までは、農業生産に良い影響を与えるという説があります。温暖化が進行すれば、ロシアの食料基地として重要性が増す可能性があります。


7.ロシアの極東地域を訪問されたことはありますか?

 残念ながら、初めてです。初めての訪問を楽しみにしています。