コラム 財政・社会保障制度 2012.08.23
スーパーコンピュータの出現により、あらゆる分野の進歩が期待できるようになった。私たちの住む世界は資源に限界があるとされ、経済学では資源配分について考えてきた。資源配分は資本主義経済の資源配分メカニズムである「市場メカニズム」に任せておけば、個人や企業が利益や私的な満足(利己的追求)を追求し、「価格」が基準となって資源配分の問題を解決すると考えている。しかし、ビッグデータ(Big Data)1 のような大量の情報を使って資源配分ができるようになれば、市場と貨幣を媒介する現在の仕組みだけでなく、配分方法の規範とディスカッションのみで資源配分ができるような新たな仕組みができるかもしれない。そうすれば、現在の消費社会(脱工業化社会)から新しい社会が生まれ、社会の効用・厚生(幸福度)が上がるかもしれない。
こういったビッグデータの処理は税の分野においても期待される。課税・賦課は大量の情報処理である。日本国民に対して国・都道府県・市町村のカテゴリーで、納期限に合わせて納付書を送る業務である。国・都道府県・市町村には、大量の納税・滞納データが存在する。これもビッグデータのひとつである。この情報は国や自治体にとって、財源確保のあらゆることに使える宝のデータであるが、現在は情報量が多すぎて、処理ができなかったり、上手く使いこなせていないだけだったりする。これらのデータにいわゆるビッグデータを加えて、納税者の消費行動形態が把握できれば適正な課税が実現できるかもしれない。滞納者の性格や行動様式が分析できれば滞納の確保はもちろん未然に滞納を防げるようになるだろう。脱税者もみつけることができようになるかもしれない。
もともと社会には情報の非対称性が存在する。最近ではインターネットが普及し、ウィキペディアやツイッター、フェイスブックなど、相互による情報発信、情報発信の多様化がなされ、私たちは以前に比べると多くの情報を得やすくなった。情報の非対称性は不公平であり、どのように是正していくかという課題がある。最近では、たとえばインターネットを使っていると、バナー広告に自分が数日前に検索したデータに関する情報が出てきたり、買い物をしたお店や企業から興味がありそうな商品を紹介するメールが定期的に送られてきたりする。まるで生活を監視されているような感覚に陥ることがある。コンビニのPOSデータがマーケティングに使われているのは有名な話だが、企業は個人情報やインターネット上の検索・購買行動などをデータ化しビジネスに活用している。
人間の可能性は無限大である。しかし、どのように行動するか、何を実現するかという問題意識と倫理観(正義ではない)、そしてそれらを実現する制度が重要で、ビッグデータの有効活用もそれ次第である。情報の非対称性を是正し、万人が豊かになっていく過程においては、ビジネスにおけるビッグデータの活用に関するルール化や、今以上の情報セキュリティの法制化などさまざまな課題がでてくるだろう。人間をコントロールするために使われるのではなく、社会の発展・進化にむけて使いこなせるようになれば、新たな富になる。そのためには政府だけでなく個人や企業が、安全に楽しく享受できる情報社会はどういう社会であるかを考えシェアしていくことが重要である。
1 「ビッグデータとは、従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。多くの場合、ビッグデータとは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている」。
IT用語辞典を参照。 http://e-words.jp/w/E38393E38383E382B0E38387E383BCE382BF.html[最新アクセス 2012年8月23日]