メディア掲載 国際交流 2012.08.07
本年前半の中国経済はやや減速している。これは鉄道関連の投資が昨秋以降停滞していることや金融引き締めの影響で高速道路、地下鉄、空港、ダムなど地方政府が管轄するインフラ建設にブレーキがかかっていたことが原因である。しかし、本年後半には金融緩和等を背景にこうしたインフラ関連工事が動き出すほか、来年は新政権発足の初年度にあたるため、5年に1度のインフラ建設の波が押し寄せる。したがって、今年の後半から来年にかけては成長率が加速すると考えられる。
インフラ建設は経済発展が遅れている内陸部を中心に新たな産業集積形成を促進し、中国の高度成長を支えている。その主役は高速道路と高速鉄道である。武漢、重慶、成都、西安といった内陸部の主要都市の経済発展が急加速したのはリーマンショック後であるが、その主因は内需刺激策として実施された高速道路・鉄道建設による交通の利便性向上である。日本でも昭和の高度成長期に経済誘発効果が最も大きかった投資は東名高速と東海道新幹線だったと言われている。日本では、東京、名古屋、大阪、福岡の1本の線をつなげばそれで十分効果的だったが、中国は国土が広く大都市の数もはるかに多いため、多くの高速道路と高速鉄道が必要である。そのため経済誘発効果が日本に比べて長い期間にわたって続く。主要都市を結ぶ高速道路・鉄道網がほぼ完成するのが2020年頃であることから高度成長の推進力はまだしばらく中国経済を支え続けることになる。
日本企業にとって中国の経済発展に伴う中国国内市場の拡大は大きなビジネスチャンスである。10年以降、日本企業の対中投資ブームが続いており、昨年は対中直接投資金額が前年比55%と急増し、今年も1~5月累計で前年比16%増と伸び続けている。この数字を見れば、日本企業が好機を捉えて中国ビジネスを積極的に拡大している姿が浮かび上がる。この投資拡大が大きな収益を生み出し、日本企業の活力源となることは間違いない。日本企業の収益増大は法人税収や所得税収の増大につながり、財政収支も好転させるため、日本政府にとってもありがたい果実を生む。
日本政府がこうした日本企業の中国ビジネスをサポートする有効な方法がある。それは航空網の利便性向上による移動時間の短縮である。すなわち高度成長期の高速道路・鉄道建設の応用編である。羽田、成田、中部、関空各空港から中国主要都市までの飛行時間は2~4時間程度である。しかし、オフィスを出てから飛行機に乗るまでの待ち時間が2~3時間を要する。これを1時間程度に短縮できれば、企業にとっての利便性は格段に高まり、日本の主要都市の対中投資環境は大幅に向上する。その実現方法は、第一に、主要都市中心部と空港を結ぶ高速鉄道建設による移動時間短縮(所要時間を10~20分にする)、第二に、日中主要都市間のフライトのシャトル便化による空港での待ち時間の短縮、第三に、主要都市周辺地域の道路網の整備、東海道新幹線高速化等による国内移動時間の短縮である。総投資金額が20兆円かかるとしても、日本の景気が好転すれば税収増により10年程度で回収できるはずだ。5年間だけ社会保障支出を抑制して財源をひねり出すことも選択肢の1つであろう。中国の高度成長が続く今こそ、日中両国が高度成長のエンジンとなることを証明した交通インフラ建設効果を応用し、日本経済再生のエンジンとするチャンスである。