コラム 国際交流 2012.05.11
野田佳彦首相が2011年9月13日の所信表明演説の中で語った「誠心正意」は、周知の通り、勝海舟の『氷川清話』からの引用だが、同書の中に「小楠は能弁で南洲は訥弁だった」という記述がある。即ち、幕末の英傑、横井小楠と西郷隆盛は共に雄弁だったが両者は対照的で、前者は滔々と、後者は訥々と語ったらしい。ところで同僚の山下一仁氏によると「平成の開国」に反対する声が未だ大きいらしい。「平成の開国」に向け、山下氏に加えて幕末と同様、訥弁・能弁を問わず優れた論者を多く必要としているのかも知れない。さて、小楠と南洲の最期は共に悲劇的だが、小楠暗殺に与した津下四郎左衛門に関して森鷗外が1915年に著した史伝が興味深い。曰く「歴史の大勢から見れば、開国は避くべからざる事であつた。... 智慧のある者はそれを知つてゐた。知つてゐてそれを秘してゐた。... 智者は尊王家の中にも、佐幕家の中にもあつた。しかし尊王家の智者は其智慧の光を晦(くら)ますことを努めた。晦ますのが、多数を制するには有利であつたからである」と。