メディア掲載 財政・社会保障制度 2012.04.02
昨今の厳しい経済・社会状況下では、現状を認識し、基本に立ち返り、自分たちに合った徴収を行うことが税徴収の効率化につながる。本稿では、このように行動している自治体の取り組みを通じて効率的な税徴収を検討することを目的とする。
日本をとりまく財政状況は相変わらず厳しい。平成20年に起きた世界同時不況のあおりを受け、国の税収が落ち込んでいる。税収よりも国債発行額が上回るというねじれた財政となり、国の長期債務残高は690兆円を超え、国と地方を合わせた、いわゆる国の借金は890兆円にも及ぶ。今年は、昨年の東日本大震災や夏の大雨の影響、タイの洪水によるサプライチェーンのダメージなどにより一層厳しい財政状況が予想される。
一方、自治体の財政状況をみてみると、自治体自体の借金は横ばいであるが、不交付団体を除く自治体は多かれ少なかれ地方交付税交付金に依存しており、国の財政に大きく影響を受けかねない。税源移譲で税収のパイは拡大したが、地方税の滞納、特に個人住民税の滞納が増えている。国民健康保険料や介護保険料、保育料、住宅使用料などの未収金も多額になっている。
このような状況で税徴収を行うには、あらゆる手段を使って効率的に確実な徴収を行うしかない。自治体の中には差押や捜索、公売、換価などの滞納処分や延滞金徴収を行っていないところも存在する。多額の税滞納は財政を悪化させるだけでなく、納付をきちんと行っている住民に対しても不公平を生じさせている。このまま不公平な状態が続けば、住民がモラルハザードを起こし、徴収事務自体への支障が出てくることも懸念される。納税者の収入は限られている。自治体の実情に合わせて、効率的で確実な徴収ができるかがカギとなる。
筆者は10年にわたる研究の中から、コールセンターやクレジット収納などの積極的な民間活用や公金一括徴収、タックスアムネスティなどの新たな手段を提案しているが、基本的なスタンスは、自治体がやるべきことをきちんと行うことが最も重要で、徴収のさらなる効果を生みだすものとして、これらの手段があると考えている。自治体が自らの公権力を発揮し、やるべきことをきちんと行い、自治体の実情に合わせた創意工夫を重ねていってほしいと常々考えている。
本稿では、自己点検しトライ&エラーを繰り返しながら臨機応変に改善を重ねて成果を挙げている大分県大分市と群馬県前橋市の事例と、持てる資源を活かし、草の根的に自助努力している長崎県平戸市と熊本県嘉島町の事例を取り上げ、効率的な徴収を検討する。・・・