中国経済は本当に大丈夫なのか?最近、そう聞かれることが多い。その質問の背景には次のような懸念材料がある。第一に、成長率の低下である。2010年の成長率は10.4%だったが、昨年は9.2%と伸びが鈍化しており、今年は8%台になるとの予想が一般的である。第二に、不動産価格の下落である。上海、北京の不動産価格はつい2、3年前には30~50%もの高い上昇率に達したこともあったが、最近は前年割れの水準にまで低下しているとの統計データが公表されている。第三に、地方債務問題である。リーマンショック後の経済刺激策の一環として地方政府が手がけた不動産開発の一部が不良債権化し、その資金調達に利用された金融会社向けの融資が焦げ付いている。以上を捉えて、景気失速、バブル崩壊、不良債権問題深刻化といったリスクを次々と指摘されれば、不安になるのも当然である。
では実際はどうなのか?一言で言えば、足許の中国経済の状態は短期的には良好で、大きな問題はない。その判断の根拠は次の通りだ。
第一に、成長率の低下は中国政府が実施してきた緩やかな金融引締め政策の効果によるものであり、政府が意図した通りの結果である。これによってインフレ圧力を抑制することに成功した。消費者物価上昇率は昨年7月に、警戒ラインの5%を大幅に超えて前年比6.5%に達したが、その後低下傾向を辿り、11月以降は4%台前半に落ち着いている。
第二に、不動産価格の下落は行政的手段による半ば強制的な取引停止の影響により、売買が成立しなくなっているために生じているだけで、実需は衰えていない。北京、上海の市街地中心部の価格は低下していないほか、内陸部の成都、武漢等では依然前年比10~20%前後の値上がりが続いている。名目成長率が15~20%という高い伸びを続けている中国では不動産価格が平均的に同程度の上昇率に達するのはおかしなことではない。最近の北京、上海等での値下がりは、政府の強引な取引規制により生じたものである。買い手は値下がりを期待して買い控える一方、売り手である不動産業者は実需の強さを知っているため値引き販売はしない構えである。この両者のにらみ合いが続き、取引量が激減している。その状況下、資金調達力の乏しい中小業者だけが、資金繰りに窮してやむなく値引き販売を強いられ、それが統計データ上の価格下落として現れているだけである。したがって、当面は不動産価格の長期下落が生じる可能性はなく、それが不良債権化するリスクもない。第三に、地方債務問題も銀行監督当局による厳しい資産査定の結果、楽観はできないが中国の財政余力から見ればコントロール可能な範囲内であるとの評価に達している。
以上のように、一見深刻な不安材料に見える現象も実はそれほど大きな問題ではない。だからといって先行きについて手放しで安心できる訳ではない。内需の拡大や高い賃金上昇率による根強いインフレ圧力、欧州財政危機・金融不安による輸出減少リスク、地方財政問題などは中国政府も引続き警戒が必要であると見ている。さらに中長期を展望すれば、所得格差、都市農村格差、環境破壊、官僚腐敗、情報統制等多くの解決すべき難題を抱えている。ただ、中国の現在の財政余力、金融緩和余地の大きさを考慮すれば、当面、短期的には以上のダウンサイドリスクに対して十分な政策対応力を残していると言える。その意味で足許の中国経済の安定性は高いと見るのが自然である。
【2012年2月15日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】