コラム  国際交流  2012.01.11

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第33号(2012年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない。ハーバードにいる一研究者である筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 ノーベル経済学賞受賞学者のダニエル・カーネマン教授は、近著(Thinking, Fast and Slow, October 2011)の中で、人間の判断力に関する極めて興味深い考察を提示している。即ち、人間が判断を下すための思考方法には①瞬時に判断するための直感と②或る程度の時間を要する理論的推論方法の2種類があり、しかも容易に想像出来るが、両者が下す判断は必ずしも一致するとは限らない。

 最近、我が研究所(CIGS)の仲間でTPP推進論者の山下一仁氏に対し次の様に語った--「テレビ番組で山下さんが他の方々と議論されている様子を拝見している時、私はガリレオを思い浮かべました。科学の知識を持たないものの、純真で敬虔なキリスト教徒の人々に向かい、天動説の学者が『皆さん、地球が動いていると感じますか?』と言葉巧みに、しかも勝ち誇ったかのように語っている。こうしたなか、ガリレオ先生は分が悪い。彼は殆んど直感を頼りに判断する人々に理論的推論の必要性を辛抱強く説いている...」、と。勿論、①の直感による判断が常に問題だ、という訳ではない。政治的判断に関しては、ハーネマン教授が指摘する通り①による判断が圧倒的である。が、諸要因が複雑に絡み合う経済現象に関し①による判断だけを頼りにすると大きな「火傷」をしかねない。

 昨年12月22日、日本銀行の白川方明総裁は、「グローバリゼーションと人口高齢化: 日本の課題」という表題で講演をされ、その中で日本は、グローバル化と高齢化という2つの変化に対し、国家全体として「対応能力」を発揮出来なかった点を指摘されている。過去15年間で世界の貿易量は実質で年率6.0%、実質GDPは年率3.7%増加した。一方、日本の対外取引の実質額と実質GDPはそれぞれ年率2.6%、0.8%の増加だ。巷間、たとえ対外取引が拡大したとしても、日本の所得は増えないとの判断が流布している。が、日本経済の歩みが世界のグローバル化の進展と噛み合っていなかったが故に、日本の所得が十分増加しなかった、と考えるべきではないか。従って白川総裁が主張される通り、グローバル化を「最大限に活用」することこそが、日本経済再生の戦略であると考える。・・・



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第33号(2012年1月)