メディア掲載  国際交流  2011.12.27

政治家の"プロ魂"に厳しい目

電気新聞「グローバルアイ」2011年12月21日掲載

 スポーツや芸術では当然のことだが、ビジネスにおいても「プロフェッショナル魂」は国境を超えて賞賛される。またグローバル化は、日本の伝統的な「プロ魂」にも新しい視点を与えてくれる。大震災発生時、被災地で800万軒に達する停電が生じたが、その復旧速度に米国の危機管理の専門家は驚きを隠さなかった。門外漢の筆者ですら復旧にあたった関係者の「プロ魂」に日本人として誇りを感じた次第だ。かくしてグローバル化は、日本人の「プロ魂」に「温故知新の風」を吹き込んでくれる。

 こうしたなか或る米国の友人が日本の政治家の「プロ魂」を質した--国際会議で彼等はいつもヘッドフォーンを着けている。国益が複雑に絡み合う国際政治は駆け引きが難しく、また英語も重要であることを彼等は理解していないのか、と。確かに小国のシンガポールでは、ケネディ行政大学院出身のリー首相やシャンムガラトナム副首相が外国の政治家や一流の専門家との直接対話を怠らない。また日本の代表的国際人の1人、寺澤芳男氏は最近「私の履歴書」の中で「英語を話せない日本の政治家は外交の舞台でポツンとしている」と述べられた。筆者は見方を変え、次のように答えた--日本には外国語に堪能で優秀な外交官がいるから大丈夫。また政治家にとり枢要な資質は、正確な判断と断乎たる行動に必要な専門家集団の編成能力だ。 すると友人が再び質問した--そうであるなら日本の専門家の「プロ魂」も重要だね。でも彼等の多くは最先端であっても未邦訳の海外文献を知らない。また日本国内とは対照的に国際舞台では沈黙しているのでは、と。

 確かに「外交の舞台でポツンとしている政治家」が「国際舞台でポカンとしている専門家」を頼りにし、その結果、内外で渦巻く現下の危機が更に悪化することこそ憂慮すべきかも知れない。かくして日本の政治家に要求される「プロ魂」は実に厳しい。繰り返すが①迅速で正確な情勢判断、それに基づくヴィジョンの提示と適切で具体的な目標設定、②国家と歴史に対する責任感と行動力に加え、③世界一流の専門家を目標の達成時期に合わせて巧みに編成する能力が政治家として極めて重要なのだ。

 超大国アメリカの政治家、ウッドロー・ウィルソンやロナルド・レーガンは、信条やスタイルこそ違え、全世界に対しヴィジョンを唱え、優秀な専門家を選抜し、しかも彼等の人心を掌握し政治家としての「プロ魂」を示した。日本の政治家も、日本がアジアの小国から世界の大国に成長する過程でプロ魂を巧みに変質させてきた。小村寿太郎外相はハーバード大学から特別入学を許されたぐらい英語が堪能で国際情勢も知悉していたが、日露戦争時、名文家のヘンリー・デニソンに作成させた外交文書を通じて欧米列強の政府高官を感心させた。また今年の震災発生時、関東大震災との対比で注目された帝都復興院の後藤新平総裁も、ドイツの偉大な戦略家ハンス・デルブリュックの原書を自ら邦訳した多才な専門家だ。と同時に彼は専門家を組織化して世界に通用するシンクタンク、満鉄調査部等を創設した。

 円高を背景として企業買収等新たな形で日本人の活動が一層世界に広がっている。一方、ハーバードで学ぶ日本人学生数は今年百人を切り、アジアのなかでも既に少数派となっている。日本の政治家と専門家の「プロ精神」にグローバルの視点をどう取り込むのか。先人の努力に学ぶと共に将来の新しい方向性を模索する日が続いている。