約2万人の死者・行方不明者を出した東日本大震災発生から7か月。「全国の社会福祉法人は、今こそ存在意義を示す時」と訴えるのが、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹の松山幸弘氏だ。松山氏は、全国の社福が復興資金を拠出し、被災地全体を網羅できる大規模な社福を設立することで、迅速かつ効率的な復興を目指すべきと提言する。
■被災地再生は既存の自治体の枠を超えた発想で
―このほど、宮城県や岩手県は復興計画を相次いで発表しました。
その具体的な内容はさておき、医療・福祉に関しては、各県などがそれぞれバラバラに復興計画を作成している点には疑問を感じます。バラバラに計画を立てると財源の奪い合いが起こる上に、被災者ニーズとのミスマッチ、重複投資が拡大するからです。今回の被害の甚大さや被災地の広さ、被災者の居住地の移動を思えば、特に医療・福祉については既存の自治体の枠を超えた発想で復興計画を作るべきです。
―被災地全体を見渡した計画という意味では、東北大学は「東北メディカル・メガバンク構想」を打ち出しています。
■医療と福祉は別々の事業体で
―具体的にどのような復興計画が考えられるでしょうか。
その点については、当研究所と日本政策投資銀行で共同提言「東日本大震災復興に向けた具体策と課題」を出しています。その主なポイントは、(1)医療と福祉の復興を別々の事業体で行う(2)医療の経営形態は広域地方独立行政法人(非公務員型)または社会医療法人とする(3)日本の社会福祉法人全体で拠出し、東日本被災地に大規模社会福祉法人を一つ設立する―の3点です。
■国の財源に頼らない手法の模索を
―こうした要素を盛り込むには、規模の大きな財源を長期的に確保する必要がありそうです。
財源の確保は重要な課題です。各自治体や大学の復興計画は、国からの長期にわたる補助金が得られることを前提に組まれていますが、そうした計画ばかりが乱立すると、補助金の奪い合いになる可能性もあります。
確実な復興を実現するためにも、国の財源に頼らない復興方法も考えるべきなのです。
―しかし、復興のための財源は巨額になると思われます。それを捻出できる組織が国以外にあるでしょうか。
社会福祉法人を日本全体で見れば、拠出負担能力があると思われます。なぜなら、全国の(施設経営)社会福祉法人全体の年間収支差黒字額は4000億円を超え、純資産も約13 兆円と推計されるからです。黒字法人のみの黒字額合計であれば、年間5000億円に達します。その2割に当たる1000億円を毎年拠出してもらうことにしても、黒字法人の純 資産が減ることはありません。差額の4000億円が加わるので、純資産は増え続けます。この財源によって、被災地復興のための共同事業を手掛ける大規模社会福祉法人を設立するのです。これなら、国や地方自治体の福祉事業のように、施設種類ごとの縦割り行政の弊害が生まれることはありませんし、集めた寄付金の配分も現場の判断で速やかにできます。
―赤字の法人も少なくありませんが、そうした法人からも資金を捻出すべきということでしょうか。
赤字の法人については、任意拠出というルールでいいと思います。また、社会福祉法人の中には、既に十分な社会貢献を果たしている団体も見受けられますから、そうした法人についても任意拠出ということでよいと思います。
■時限措置として社福への課税も検討すべき
―そうなると、「社会貢献を果たしている」ということを客観的に評価できる仕組みが必要になります。
そうですね。毎年の支出を純資産で割った「社会還元度指数」などは判断基準の一つとしてもよいのではないでしょうか。この数値は高ければ高いほど、収益の社会還元に長年積極的に取り組んできたと判断できますから、例えば「社会還元度指数が1以上なら資金は任意拠出」というルールを定めるといった方法があり得ます。
―いずれにしても、この方法を実現するとなると、社会福祉法人から大きな反発が予想されます。実現は難しいように思えますが。
そうとも言い切れません。社会福祉法人が共同で資金を出し合い、単独では実現が難しい事業に取り組んだ事例はほかにもあります。例えば大阪府内の約400の老人福祉施設は、生活困窮者を救済するための事業を共同で実施しています。
それでも、全国の社会福祉法人が動かないのであれば、復興のための時限措置として、社会福祉法人に対する課税を検討すべきではないでしょうか。