コラム 財政・社会保障制度 2011.09.22
医療経営者から見た財務諸表公開
(1)情報公開は双方向
2007(平成19)年4月1日に施行された改正医療法によりディスクロ-ジャー(情報開示)が強化されて、既に4回の決算年度が経過した。それまでは、医療法人が都道府県等に提出する財務諸表(財産目録、貸借対照表、損益計算書等)を閲覧できるのは債権者など利害関係者に限られていた。それが誰でも都道府県等の所轄官庁に請求できるようになった。しかも、社会医療法人や特定医療法人といった税制優遇を受けている法人に限定されず、既存の持ち分のある医療法人も情報公開の対象になった意義は大きい。
医療に限らず情報開示はブランド戦略そのものである。情報公開の対象になっている以上、その請求者から電話等で公開されたデータについて追加質問が来る可能性がある。このことを事務部門に周知徹底すると同時に、質問が来た場合に誰が対応するのかも事前に決めておくことが望ましい。実際、筆者が情報公開制度に基づき医療法人の財務データを集め一部の法人に電話でヒヤリングを試みたところ、真摯に回答してくださる法人があった一方で、情報開示の対象になっていることを理解できず憮然とした対応をするところがあった。追加質問にまで回答する義務はないのであるから、その質問内容を吟味した上で冷静に対応する組織カルチャーが求められる。
医療経営者にとっては、自らの経営内容を見られること以上に、自分もライバルやベンチマーク(目標)とする医療事業体の財務データを入手できるようになったことのほうが重要である。例えば、同じ医療圏にあるすべての医療法人の財務諸表を集め既に公表されている公立病院の財務諸表と合わせてみれば、当該医療圏における自らの強み・弱みが財務データの観点から分かる。そうして蓄積した情報は将来における医療連携、買収・合併の判断材料にもなりうる。また、医療圏外にベンチマークとする医療法人があるのであれば、その財務諸表を入手した上で相手にヒヤリング、意見交換することが有益である。ちなみに、米国のIHN(Integrated Health care Network:多様な機能を有する医療施設群が経営統合した非営利地域医療ネットワーク事業体)では、ブランド競争している相手と医療評価データのみならず医薬品、診療材料、医療機器の購入価格からIT投資の意思決定プロセスに至るまで情報交換している。・・・