メディア掲載 財政・社会保障制度 2011.08.10
政府が新成長戦略の柱として創設する総合特区制度の基本方針案が明らかになった。総合特区制度とは、規制緩和や税財政支援を集中させて成長力の高い地域を創出することを目的としたものであり、本年6月に根拠法が成立した。報道によれば、8月に閣議決定したあと募集を開始、年内に第1弾の地域を決定する方針である。
総合特区制度の前提である新成長戦略の最重点分野は医療である。そして、医療サービスは全国津々浦々で提供され、医療施設や大学医学部が配置されている。一方、基本方針案には特区の数は「少数に限定」と明記されているとのことである。したがって、医療をテーマにした総合特区の提案で都道府県の間で競争が始まると予想される。そこで、今回は医療における各都道府県の実力を比較するデータを紹介してみたい。
医師を集める力に大きな格差
医療で総合特区に選ばれるための最重要インフラは、医師を集める力である。これは、研修医マッチング結果で計測できる。研修医マッチングとは、医師免許を得て臨床研修を受けようとする者と臨床研修を行う病院の双方の希望が一致した場合に「研修医と病院の組み合わせ」を決定する仕組みである。
表① 2010年度研修医マッチングの結果
(出所)医師臨床研修マッチング協議会の公表資料より筆者作成
表①は、2010年度のマッチング結果を都道府県別、病院種類(大学病院か否か)別に示している。マッチ者数を募集定員で割った充足率の全国平均は74.8%である。しかし、都道府県別に見ると、東京都92.9%から宮崎県40%まで、格差が大きい。医師集めで頼りにしたい大学病院の充足率が50%以下の都道府県が12もある。そのため、まだ表面化していないが、公立病院と国立大学付属病院を経営統合することで医師集めの魅力を高め、総合特区に立候補することを考えている県がある。公立病院と国立大学附属病院の経営統合は、医学部設置要件から直営病院所有をはずし、医学部にとって臨床教育・研究のフィールドとなるメガ非営利医療事業体を創るということである。この改革は崩壊しつつある地域医療の再生に直結するため、是非政策的に後押しすべきである。
隠れ補助金の存在都道府県単位保険料率の算定にあたっては、まず所要保険料率が計算される。所要保険料率とは、保険収支実績から計算される保険料率に各都道府県に責任のない年齢構成と所得水準の影響を排除する計算をしたものである。
表②協会けんぽの都道府県単位保険料率と隠れ補助金(2011年度見込み)
(出所)全国健康保険協会「都道府県単位保険料率の算定に関わる基礎データ」より筆者作成
表②のとおり、この所要保険料率には最高の北海道の10%から最低の長野県の8.93%まで差がある。2008年10月の制度変更時からいきなり所要保険料率を適用すると、北海道などは保険料率アップが大きくなる。そこで、2018年3月まで10年間かけて徐々に所要保険料率に近づける調整を行う激変緩和措置が採用された。これは、所要保険料率より高い保険料率の都道府県が所要保険料率より低い都道府県に補助金を出していることを意味する。
その"隠れ補助金"は、「(所要保険料率―調整後保険料率)×加入者総報酬額」で推計できる。表②にはその結果も示した。北海道、大阪府、福岡県が得ている補助金は100億円を超える。それを負担させられているのが東京都、静岡県、長野県など。競争条件を比べる際に見逃せない視点だ。
医療介護の産業的インパクト
次に医療介護が地域経済にどの程度の比率を占めているか、つまりその改革が地域経済にもどの程度のインパクトを与えるかをみてみよう。
表③都道府県別の医療介護費用額と名目GDP比(2008年度)
(出所)政府公表資料より筆者作成
表③は、都道府県別に見た医療介護費用額が名目GDP(県内総生産)に占める割合である。2008年度時点で、わが国の医療介護費用額40兆7,700億円の名目GDP比は8.07%であった。しかし、(最高)高知県14.98%~(最低)東京都4.50%と地域によって大きな差がある。名目GDP比が10%を超えている所が21もあり、これらの道県では既に医療介護が最大産業になっているところも多いと思われる。上手に医療提供体制を改革すれば、地域経済の活性化に直結する。「少数限定」の特区に指定されるかどうかは、正にこうした地域の命運を握っていると言えるかも知れない。