メディア掲載 国際交流 2011.06.03
2009年秋冬期以降、中国市場は日本企業にとって絶好のビジネスチャンスとなっている。その背景には2つの変化がある。1つ目は消費者ニーズの高度化である。中国の一人当たりGDPは今も4千ドル程度と依然低い。しかし、主要都市の水準はそれをはるかに上回っている。07年に深圳、無錫、蘇州が初めて1万ドルを超えた後、08年には上海、広州、09年に北京など、続々と1万ドルクラブに入っている。中国では一人当たりGDPが1万ドルに達する頃から平均的な消費者の買い物の中味が贅沢になり始める。以前は日本の製品に対して「品質は良いが値段が高すぎる」と言っていた人たちが、日本製品を買いたいと思い始める分岐点がそのあたりだ。それまでは中国国内メーカーのテレビで満足していた人たちがシャープ、ソニー、パナソニックなど日本企業の高級薄型液晶テレビを欲しがるようになるのである。
もう一つの変化は内需の拡大である。中国では07年10月からインフレ抑制のため金融引き締めを実施していた。そこにリーマン・ショックが重なったが、約1年で2けた成長軌道に戻り、09年秋冬期には2年ぶりに内需が本格的に力強い拡大を見せ始めた。ちょうどそれが主要都市における消費贅沢化の波と重なったのである。衣食住どの分野でも、日本のファッション、日本からの輸入食品や日本料理レストラン、日系メーカーの家電、自動車など、日本製品・サービスの評価が高まっている。こうした日本ブームとも言える中国人の消費行動の変化を背景に、多くの日本企業で中国事業の売上高、収益が過去最高を更新中であり、中国市場は今や日本企業にとってドル箱となっている。
しかし、それでもまだこの追い風をフルに生かし切っている企業は少ない。原因は販売力不足である。外国企業が日本市場を開拓するには日本人に任せるしかないのと同様、中国市場の開拓は中国人に頼るしかない。ところが多くの日本企業の中国現地法人は販売も製品開発も日本人中心の体制のままである。以前の加工貿易型ビジネスの時代であれば主な販売先が日米欧の先進国市場だったのでそれでよかった。しかし、今のターゲットは中国国内市場である。中国に進出している日本企業は経営体制の抜本的見直しが迫られている。それには販売や開発を中国人幹部に任せるだけでは不十分である。彼らに思う存分実力を発揮させるには、日本の本社が現地法人の中国人幹部に対して十分に権限委譲し、彼らの素早い経営判断をサポートする迅速な意思決定を行うことが不可欠だ。すなわち本社の経営体質の転換が迫られている。これらの条件を満たした企業は少ないが、その結果は明らかだ。典型例は日産自動車である。3大自動車メーカーの中で唯一中国系合弁相手の販売網を活用してシェアを伸ばし、最も後発ながらシェアは日本のトップである。
東日本大震災の影響で海外市場においてジャパンブランドが傷ついたと心配する声をよく耳にするが、中国では日本企業の評価は全くと言ってよいほどダメージを受けていない。震災後に評価が大きく低下したのは日本政府と東京電力だけである。したがって、今の中国国内市場は日本企業にとって過去最高のチャンスが続いている。1社でも多くの企業が早く経営体制を整えて、この中国市場の絶好の追い風をフルに活用し、大きな果実をつかんでほしい。それこそが日本の震災復興にとって、最大のエンジンになるはずだ。
【2011年6月1日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】