メディア掲載 財政・社会保障制度 2011.06.03
私は2002年に出版した「人口半減:日本経済の活路」(東洋経済新報社刊)において米国で急成長していたIntegrated Healthcare Network(略称IHN)を紹介した。その後も毎年米国のIHNを訪問してIHNのマネジメントが進化し続ける姿を観察、加えてオーストラリア、英国、カナダといった医療制度が米国と全く異なる国々でも公立病院を核にしたIHN構築が進められていることを調査してきた。私が10年近く「日本版IHN」と言い続けた甲斐もあって、最近では医療行政当局や県医師会などから講演会に呼んでいただく機会も増えている。しかし、一方で「IHNは日本では不可能」という批判を医療ジャーナリストなる専門家などから受けている。そこで、本稿ではまずIHNの本質を理解するためのポイントを列挙し、続いて日本版IHN構築による医療改革について私見を述べることとしたい。
水平統合ではなく垂直統合
米国の医療界でIHNという概念が明確に認識されたのは、米国病院協会(AHA)が95年に発行した「The1995-96 AHA Guide to the HealthcareField」でIHNの定義付けを行った時である。その定義とは、「地域コミュニティに対して幅広い医療サービスを提供するために協力し合う病院、医師、その他の医療従事者、保険者、コミュニティ組織が形成するグループ」であった。米国では80年代後半から同じような機能を有する病院同士が合併する水平統合のブームが起きた。しかし、水平統合により規模の経済性を追求することでは医療の質向上とコスト節約を同時達成することは困難であることがすぐに明らかになった。そこで登場したのが、異なる機能を持つ医療施設、医療従事者が垂直統合したIHNなのである。IHNが全米に普及したことを踏まえ、01年に出版された医学用語辞典ではHospitalの定義が「一つの医療施設」から「地域医療圏内に異なる機能を有する医療施設、医療従事者を配置する医療ネットワーク全体」に変化した。医療保険や医療提供体制が公か民かにかかわらずIHNという仕組みが機能することを意味する。実際、医療保険と医療提供体制が共に公中心であるオーストラリア、英国、カナダでも医療公営企業という形でIHNが構築されている。また、米国には公立病院IHNと非営利民間病院IHNの2種類があり患者獲得や医療専門人材獲得を巡ってブランド競争を展開している。 ・・・・