メディア掲載  国際交流  2011.03.23

全国自治体に割り振れ

読売新聞「論点スペシャル」 2011年3月18日掲載

 「水と使い捨てカイロを車に積めるだけ積んで、東京から福島に向かった。県境の手前までしか行けなかったが、物資は茨城県側に渡すことができた」
 これは、私の友人たちが情報交換しているメーリングリストの書き込みの一部である。これと同じようなやり取りが、日本の至る所で行われている。「被災者のために、できる限りのことをしたい」という思いを多くの人が共有している。
 だが、被災地の救援は思うように進んでいない。報道によれば、震災の避難住民は37万人に達している。これだけの人々を周辺地域だけで支えることは不可能である。今回の震災は日本が戦後迎えた最大の難局であり、国全体の問題としてとらえ、全国が協力して対策を講じる必要がある。
 そこで参考になるのが、2008年に死者7万人の被害を出した中国の四川大地震での対応だ。
 中国政府は、被災した市町村の復興支援を北京市、上海市、広東省など中国全土の省や市に責任を持たせ割り当てた。被災地を30程度の地域に分け、北京など被災しなかった省や市が、割り当てられた地域ごとに救援・復興に当たった。
 これを日本の現状にあてはめると、たとえば、被災した岩手県陸前高田市は東京都、宮城県南三陸町は愛知県などといった形で結びつけ、各都道府県が割り当てられた被災地の自治体と協力して、必要な支援策を講じることになる。
 中国では中央政府がこの割り振りを決めたが、各都道府県や政令指定都市などが、それぞれの友好自治体の被災者支援に名乗りを上げる形も考えられる。
 阪神大震災では、被災地周辺に仮設住宅が建てられ、住民は復興を待ちながら避難生活を送った。だが、今回は津波と地盤沈下で水没したり、原発の放射能漏れで避難指示を受けたりした地域もあることから、地域に戻ることができない住民も多いだろう。
 三宅島の噴火では、全島民が避難した。これを、被災地での生活が困難な人を対象に、全国規模で行う形になる。
 支援する側の自治体は、公営住宅や公共施設を開放したり、仮設住宅を建設したりして被災者を受け入れる。被災者のコミュニティーを維持するため、同一地域の被災者はなるべく同じ避難先に移ることが望ましい。
 日本中の多くの人たちが被災者に協力したい思いを抱いている。被災地以外の自治体も、協力の意思を持っていても、それがうまく生かせていない。
 個々の自治体だけでは、広範な地域にまたがる被災者の救援策を的確に行うことは難しい。政府がリーダーシップを発揮し、日本中の自治体が協力して被災地を支える方法を考えることが必要である。支援は国家予算で行うべきだ。
 四川大地震では、胡錦濤国家主席、温家宝首相らが被災地の第一線に交代で泊まり込み、陣頭指揮を続けた。日本でも、与野党を越えて経験豊富なリーダーの力を結集し、迅速・的確な対策を講じる時だ。

【2011年3月18日 読売新聞「論点スペシャル」に掲載】