コラム  財政・社会保障制度  2011.02.28

「タックスアムネスティ」という税徴収のすすめ

 米国では各州で「タックスアムネスティ(Tax Amnesty)」と呼ばれる税徴収のキャンペーンを不定期に突然行い成果を挙げている。タックスアムネスティとは、滞納者や脱税者に対し、一定期間の間(通常2,3か月)、滞納している税金を納めれば、その滞納していた分の罰金や延滞利息については免除もしくは一部免除といった優遇措置を与える制度をいう。いつ行われるかは分からないため、タックスアムネスティを見越して滞納することはできない。
 米国では1982年11月にアリゾナ州が始めて以来、これまで48州で110回行われてきた。ルイジアナ州とニューヨーク州はこれまで5回行っており、2010年も世界同時不況の影響のせいか、1月にニューヨーク州、4月にマサチューセッツ州とペンシルバニア州、6月にニューメキシコ州、7月にフロリダ州とネバダ州、8月にワシントンD.C、9月にルイジアナ州とカンザス州、10月にイリノイ州と毎月のように行われた。2ヶ月の期間で、徴収額はルイジアナ州で3億370万ドル、ペンシルバニア州で2億6100万ドル、ワシントンD.Cで2080万ドルである。
 徴収額は公表データがあるが、経費が出ておらず、費用対効果をみるために、2002年にタックスアムネスティを行っていた6州にインタビューをした。結果は費用対効果が大きいことがわかった(表1)。サウスカロライナ州は、450,000勘定に相当する127,500人に対して行い、徴収額は6620万ドル、経費は180万ドルであった。マサチューセッツ州は1億3400万ドル徴収し、経費は広告費も含め全部で150万ドルであった。メリーランド州は、徴収は4000万ドルで、当時の滞納額2億6000万ドル(対象は30万通)に対し、15.38%の徴収率である。経費は200万ドル、内訳は広告宣伝費に100万ドル、臨時職員の人件費40万ドルである。コネチカット州は9500万ドル徴収し、宣伝費と実行費用に100万ドルかかった。ミズーリ州は7300万ドル徴収した。経費は滞納者への通知郵送代に96,000ドル、プログラミング代に242,000ドルかかった。ケンタッキー州は4,400万ドル徴収した。人件費、技術費、広告費に300万ドル、システムの構築に950,000ドルかかった。


表1 米国州政府タックスアムネスティ費用対効果(2002年当時) (単位:USドル)
サウスカロライナ州 マサチューセッツ州 メリーランド州 コネチカット州 ミズーリ州 ケンタッキー州
徴収額 6620万 1億3400万 4000万 9500万 7300万 4400万
経費 180万 150万 340万 100万 35万 400万
費用対効果 36.8倍 89.3倍 11.8倍 95倍 208.6倍 11倍
出所:各州政府へのメールインタビューにより筆者作成

 このように米国内で盛んに行われているタックスアムネスティだが、これは滞納者や脱税者に自発的に納税することを促す仕組みである。そもそもなぜ行われるようになったのか。それは、締め付けるよりも自主性を養うほうが、効果があるという研究が盛んになったからである。1980年代は主に監査や罰則の強化が進められてきたが、1980年代後半になり、ITの信頼性が増してからは、州政府の仕組みとシステムの変更や国民への納税教育によって税管理の信頼度を上げることがコンプライアンスにつながるという考えが出てきた。近年では自発的コンプライアンスを向上させることが効率的であると言われている。わが国ではタックスコンプライアンス(納税意識)の啓発はあまり重視されてこなかったが、滞納者・脱税者が自主的に税を払うようになれば、徴税費は当然安くすむ。国税専門官や徴税吏員といった徴収職員が不足しているわが国においても、効率的に税の捕捉率を上げるために、自発性を誘導する仕組みがあってもいいのではないか。
 タックスアムネスティの詳細は州によって異なる。対象税目の設定も自由である。多くの州が行うときに挙げている留意点は以下のとおりである。
●アムネスティの成功は広告宣伝にかかっている。テレビ、ラジオや新聞などのメディアを数多く活用し、ウェブページを作成し、一般市民に広く情報を提供し、理解してもらうことが必要である。
●納税者について正確な情報をあらかじめ集めておくこと
●迅速な対応をするために人員確保とトレーニングも重要である。通常業務に加えてアムネスティを行うので臨時の体制を作ることである。質問に対応できるよう、マニュアルを作成し、職員が法律や処理手順など学ぶ機会を作ることである。また、電話対応のため、コールセンターも必要である。
●ITシステムの変更。通知書の印刷やデータの消し込みなどアムネスティに合った迅速に対応できるシステムにすることである。罰則や利息用の新たな計算をするため、そして納税者がアムネスティに参加しているかどうかを反映できるようにプログラムを変える必要がある。ウェブページ上でクレジットカード支払ができるような仕組みも有効である。
●法律専門家や広告代理店など外部の協力者と連携すること
である。

 以上、国内向けのタックスアムネスティを述べてきたが、近年では米国や欧州ではタックスヘイブンなどのオフショア金融取引に対しても導入している。海外に流失した資金を国内に戻せば脱税罪には問わないというもので、イタリアは2009年に800億ユーロも確保した。このようにタックスアムネスティは国内外に有効であることがわかってきた。わが国でも導入を検討する価値はある。


参考文献
Guy Dinmore 'Italy tax amnesty yields record €80bn', Financial Times, 23 December 2009