メディア掲載  国際交流  2010.12.27

万華鏡の中はバラ色か、不透明か

電気新聞「グローバルアイ」2010年12月8日

当然のことだが「グローバル時代」が到来したからといって、世界中の人々の価値観や行動様式、そして言語が同じになるわけではない。かといって、逆に本学の故サミュエル・ハンチントン教授が主張したように世界中の人々が四六時中『文明の衝突』を経験しているわけでもない。好むと好まざるとにかかわらず我々は互いに主張し、そして互いに譲り合って生きてゆかなくてはならないのがグローバル時代だ。

そしてこのグローバル時代に日本が「世渡り上手」であるのか否か、その技量を問われるのが中国との付き合い方だ。言うまでもなく日中両国は地理的にも歴史的にも離れることが出来ない。従って我々は日本の国益をしっかり見据え、しかも中国の国益・価値観・行動様式を正確に理解した上で譲れるところは譲り、譲れないところについては毅然とした態度で臨まなくてはならない。が、この中国自身が実にとらえがたい。本校の中国政治専門家、アンソニー・セイチ教授はかつて興味深いことを筆者に語ってくれた。「私は学生達に次のように語りかけている。中国について何を書いたとしてもそれ自体は正しいと言える。なぜなら広大な土地と巨大な人口を擁し、急速に発展する中国には何が起こったとしても不思議ではないから」、と。

確かに中国では、中央政府と地方政府、国務院と人民解放軍、そして政府関係者と一般庶民、さらには沿海部と内陸部等、どんな分け方をするにしろ実態は大きく違う。換言すれば中国はあたかも万華鏡の中に居る国のようだ。従って断片的な現地報道や特定の組織・地域を対象とした調査資料を鵜呑みにし、中国全体の価値観や行動様式を皮相的に理解すると往々にして大きな「やけど」を被ることになる。かくして中国とのお付き合いで火傷をしないためには直接的・継続的・多元的な知的情報交換を双方向、しかも出来ればフェイス・ツー・フェイスで行うという地道な努力が必要となる。とはいえ誰もがそれを出来るわけではないから、自らの目的に合わせ、できるだけ多くの「中国通」と意見交換することが肝要となってくる。

中国に関し大きな火傷をしそうな国はひとり日本に限らない。今年の第2四半期、中国の風力発電に対する支出が全世界の49%に達したとの最近の新聞報道に接し、欧州諸国は中国の台頭に改めて脅威を感じている。こうしたなかアーンスト・アンド・ヤング社は、再生可能エネルギーに関するレポート(RECAI)の最新(11月)号の中で、中国の風力発電に関する展望は短長期共に世界中で最も有望という判断を下した。また11月29日、欧州ヴェンチャー・キャピタル協会(EVCA)は、低炭素社会に向けた技術開発に関する報告書『深い裂け目に橋を架ける』を発表したが、これを読むと欧州が中国に対しライバル意識をむき出しにしていることが容易に理解出来る。

慧眼な読者はただちにお気付きだと思うが、中国の風力発電業界は既に設備過剰の状況に陥っている。換言すれば現在の中国の風力発電に対する膨大な支出は、中国国内の投資家が、中央政府の政策に対して過大の期待を抱き、楽観的な行動を採った結果とも解釈可能なのだ。かくして中国はまさしく万華鏡の中に存在する。或る見方によれば「バラ色」とも、また別の見方をすれば「不透明」にも映る。こうした「お国柄」の中国と付き合うために筆者は、本学の中国エネルギー研究(本学チャイナ・プロジェクト)に携わる人々の判断を絶えず気にして日々過ごしている。

【2010年12月8日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】