メディア掲載 国際交流 2010.10.06
「グローバル時代」は言い古された言葉である。が、それは未だに捉え難い概念でもある。グローバル時代を迎え、遠く地球の裏側での出来事であってもリーマン・ショックのように我々の運命を突然左右することが多くなった。またテロリストのように我々とは異なる価値観を持つ人々が我々の行動範囲を突然規定するようになった。かくして我々は二十四時間体制で、しかも全方位的に情報を収集・整理し、知識を蓄積しなければならない。わが国のエネルギー戦略も予期出来ない形で変更を余儀なくされる可能性が高い。このためわが国のエネルギー戦略は、絶えざる形でリアリティ・チェックとアップデートを要求されるようになっている。
上記の問題意識に基づき、筆者が所属するハーバードで議論されているエネルギー戦略を伝え、諸兄姉に参考になればと願いつつ筆を進めたい。周知の通りエネルギー問題は多岐にわたる-国際政治の動きや世界経済及び資源価格の動向、更にはエネルギー技術や原発事故を含む危機管理に至るまで広範にわたる。これらに関しリアリティ・チェックとアップデートが常時必要となるが、当然のことながらこれを一人で行うことは不可能だ。また戦略立案における最重要項目の一つに同じ分野の専門家だけで考えてはいけないことが挙げられる。いかなる戦略であれ、異なる分野の専門家が想定外の事態をも念頭に、また相互信頼に基づき本音ベースで議論しなければ、いかに見栄えが良くとも実行性の乏しい、ひ弱な戦略しか出来上がらない。したがって様々な一流の専門家と共に「知恵を借りる(ブレイン・ピッキング)」形で、またギブ・アンド・テイクの精神で戦略を考える必要がある。かくして筆者はハーバードにおける友人、例えば環境経済プログラム(HEEP)をはじめ、話の大半が「ギリシア語」にしか聞こえない工学・応用科学大学院(SEAS)や環境問題研究所(HUCE)、そして環境・エネルギー・ネットワーク(HEEN)に関係する多くの友人から「門前の小僧」よろしく知識を拾い集めている。ちなみにトッド・スターン気候変動問題担当特使は、以前筆者と同じ行政大学院のシニア・フェローだった。そして先の4月、日本から外務省の宮川眞喜雄審議官が、また9月にはEUのコニー・ヘデゴー気候変動担当欧州委員が行政大学院を訪れ意見交換を行っている。
筆者が今注目しているのは中国のエネルギー戦略と危機管理問題だ。世界最大のエネルギー消費国である中国の戦略はその政治的な制度・文化故に専門家ですら捉え難い。このため筆者の同僚で中国エネルギー問題の専門家、エドワード・カニンガム氏は中国が米国の戦略を参考にしつつ安全保障の視点から輸出制限・輸入促進にシフトする過程を研究中だ。またSEASのマイケル・マケロイ教授は米『サイエンス』誌に中国の全電力需要は風力で供給可能という推計を昨年発表した。かくして中国政府は風力発電を重視しているがそのファイナンスに関して問題が多いとカニンガム氏は指摘する。また電力需要の急増を背景に原発の建設ラッシュが続いているが、その危機管理に不安を持つ人は少なくない。ジェット気流の関係で中国で漏出した放射性物質は中国東岸に位置する日本に届く危険性が高い。この意味で危機管理に関するグローバルな形、少なくとも日米中3ヵ国間での情報・知識の共有が必要とされ、この分野の権威であるアーノルド・ホウィット、ハーマン・レオナード両教授と共に意見交換を行っている。
【2010年10月6日 電気新聞「グローバルアイ」に掲載】