コラム 財政・社会保障制度 2010.10.04
9月14日、民主党代表選挙が行われ菅首相の続投が決まった。内政・外交の難問が山積みになっている中で、医療改革が菅首相の唱える"強い経済、強い財政、強い社会保障"実現の鍵になると思われる。財政再建と両立する形で医療保険と医療提供体制の改革を行えば医療を経済成長のエンジンに転換することが可能だからである。そのためには、既存の制度の盲点を突くような発想と実行力が求められる。既存の制度の欠陥を放置したままで公費をつぎ込むことは事態を悪化させるだけである。
民主党は後期高齢者医療制度の廃止を決定、医療における受益と負担のバランスに関する新たな枠組みを模索中である。しかし、制度の名称にかかわらず医療財源確保には世界共通の原則がある。「現役世代の医療費は現役世代が全額負担、高齢者医療費の財源の大部分も現役世代が負担、富裕高齢者は応分の負担」である。図表1のとおり、わが国の場合、国民健康保険、協会けんぽ、健康保険組合のいずれもが巨額の赤字に陥っている。したがって、余裕があるとみなされる保険者から財源を強制移転させる従来の手法はもはや使えない。しかし、医療界が主張する公費追加投入は、勤労者世代の負担増にほかならず財政再建に抵触する。これを解決するには、諸外国で実施されているように公的保険にオプション導入し、医療にもっとお金を使いたい国民に自らの判断で財源拠出してもらう必要がある。
国民健康保険 2008年度見込み |
協会けんぽ 2009年度決算 |
健康保険組合 2009年度決算 | |
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(1)収入 | 124,067 | 75,838 | 61,717 |
(2)支出 | 126,451 | 80,669 | 66,952 |
(1)−(2)収支差 | ▲2,384 | ▲4,830 | ▲5,235 |
期末準備金等残高 | 3,375 | ▲3,200 | 44,997 |
民主党は、新成長戦略の目玉として「メディカル・イノベーション構想」を掲げ、その具体策を2010年末までに策定するとのことである。これは、日本発の医薬品・医療機器の研究開発・臨床適用を促進し医療を経済成長のエンジンに転換することを目指しており、その考え方は支持できる。しかし、当研究所が7月13日に開催したシンポジウム「医療改革と経済成長」(議事録、資料を当研究所ホームページにて公開)でも明らかになったように、わが国の医療産業が国際競争力を失った主因は医療提供体制の欠陥にある。医療サービスで国際競争できる医療事業体を欠いていることが、医薬品・医療機器業界が弱体化した大きな理由なのである。したがって、同構想には世界ブランドの医療事業体を創造することも是非盛り込む必要がある。