コラム 国際交流 2010.09.16
中国での旺盛な国内需要を背景に、現地工場の生産、投資等を大幅に拡大するニュースが毎日のように報道されている。そうした数量面の変化と並行して販売価格面の変化も進んでいる。
これまで中国国内で販売する製品・サービスは一部を除き日本に比べて大幅に価格を下げ なければ拡販が不可能だと考えられてきていた。もちろん今後も中国内陸部の市場で自動車や家電の販売を大きく伸ばそうとすれば、中国地場メーカーに対抗し て1台50万円前後の自動車や1台3万円前後の液晶テレビを投入する必要がある。しかし、そうではない市場が徐々に拡大しつつあるのも事実である。
以前から数十万円以上の高級ブランド品や数百万円を超える高級車の売行きが好調である のはよく知られていた。しかしそれは一握りの超高額所得者層に限られた話だった。最近は主要都市の一般庶民が購入する日常生活用品の分野で、以前であれば 価格が高過ぎると考えられていた日本製の商品等の売れ行きが伸びている。たとえば、1つ数千円の化粧品、1缶(850g)2〜4千円の乳幼児用粉ミルク、 千円弱の日本食レストランのランチ等が販売好調である。また、北京や上海で庶民向けのデパート等で売られている日用衣料品の価格を見ても日本に比べて高く 感じる商品も多い。こうした実態を映じて、日本で留学している学生たちは中国に帰国する際に、日本で多くの日用衣料品を購入することが多いと聞く。また、 日本製以外についても、中国国内の主要都市では、H&M、ザラ、フォーエバー21等の日用衣料品が世界共通価格で販売され売上を伸ばしている。こ れが最近の中国市場の実情である。日本製品の多くは決して高級ブランド品ではないが、消費者から安心・安全・品質面で高い評価を得ているため、中国製品に 比べて高い価格でも販売が伸びるケースが目立ってきている。
こうした価格面の変化が生まれた背景には以下の3つの要因があると考えられる。第1 に、高度成長の持続を背景に平均所得水準が上昇していることである。一般庶民の消費スタイルが贅沢志向型へと変化する所得水準の分岐点は1人当たりGDP が1万ドルに達する時であると言われている。その水準に達すると、衣食住足ればそれで満足という時代から、おしゃれな洋服、おいしい食品、快適な住居な ど、ワンランク上の消費を目指すようになる。2007年には深、 無錫、蘇州、2008年には上海、広州、2009年には北京、大連などの主要都市がその所得水準に達した。現時点で1人当たりGDPが1万ドルに達した地 域は殆どが沿海部である。内陸部は豊かな地下資源に恵まれた内モンゴルの都市以外に1万ドルに達した主要都市はない。しかし、ここ数年、内陸部主要都市の 成長率、平均賃金は沿海部を上回り始め、2008年以降その傾向は顕著化している。武漢、長沙、鄭州等内陸部主要都市の一部は早ければ来年、遅くとも2〜 3年以内に1万ドルに達すると見られる。それとともに内陸部においても日本製品に対するニーズが拡大していくことが予想される。第2に、中国では所得格差 が大きいため、平均的な消費水準は高いとは言えない地域でも、一定レベル以上の所得に達している消費者数は決して少なくないことである。第3に、日本製品 に対する信頼感が広く中国人消費者の間で共有されていることである。日本に旅行で来る中国人が高級ブランド品、高級家電製品等中国国内でも買える商品をわ ざわざ日本で購入して帰国する背景には、日本で買うものには偽物がないという信頼が定着しているためである。こうしたところにも日本企業に対する信頼の高 さが表れている。