コラム  財政・社会保障制度  2010.05.12

国民健康保険料の全国格差は5倍超

 2010年2月24日付けコラムでは、わが国の医療保険制度における保険者間財源調整が限界に達 していることを、医療費の地域差指数と協会けんぽの都道府県別保険料率を用いて説明した。そこで、今回は自営業者、農業従事者等が主たる加入者である国民 健康保険が抱える問題から医療保険制度の抜本改革が急務であることを示すこととしたい。

図表1:国民健康保険の保険料関連データ(2007年度) (金額単位:円)
都道府県別データ 市町村(保険者)別データ
都道府県名 一人当たり平均保険料(1) 一人当たり平均基金等保有額(2) 基金等の保有割合
(2)÷(1)
最高額(3) 最低額(4) 格差倍率
(3)÷(4)
市町村名 一人当たり平均保険料 市町村名 一人当たり平均保険料
栃木 94,240 13,034 0.14 那須塩原市 106,189 那珂川町 64,257 1.65
神奈川 92,349 949 0.01 箱根町 107,075 大磯町 79,559 1.35
愛知 90,443 5,565 0.06 尾張旭市 108,466 豊根村 44,878 2.42
千葉 90,290 5,231 0.06 茂原市 106,313 大多喜町 71,775 1.48
北海道 86,505 5,498 0.06 羅臼町 120,679 滝上町 52,129 2,32
全国平均 84,367 7,995 0.09         1.80
秋田 77,177 12,278 0.16 大潟村 121,439 小坂町 54,267 2.24
岩手 74,834 16,981 0.23 盛岡市 93,922 岩泉町 50,191 1.87
愛媛 72,453 8,065 0.11 八幡浜市 82,712 久万高原町 49,845 1.66
鹿児島 67,426 9,715 0.14 いちき串木野 84,176 天城町 31,691 2.66
沖縄 57,628 1,286 0.02 北谷町 74,446 粟国村 23,633 3.15
(出所)
国民健康保険中央会「国民健康保険の実態(平成20年度版)」より筆者作成

 国民健康保険には市町村が保険者であるものと医師、歯科医、薬剤師など職種別組合が保険 者であるものの2種類がある。このうち職種別組合は被保険者の所得が高いこともありその財政は比較的安定している。しかし、図表1のとおり、市町村が運営 する国民健康保険の場合、一人当たり平均保険料84,367円に対し支払い準備金に相当する基金は平均0.09倍(約1ケ月分)しかない。その結果、多く の市町村で国民健康保険の基金がゼロになるたびに一般会計からの繰り入れを余儀なくされる状況にある。

 市町村が保険者である国民健康保険の数は、市町村合併を反映し1998年の3,249か ら2007年には1,804まで急減した。その内訳は、人口の多い市が保険者である国民健康保険が806(平均被保険者数51,507名)、人口が少ない 町村が保険者である国民健康保険が998(同5,377名)である。町村国保の中には被保険者数が1千名以下のものまで存在する。このように保険が機能し ないほど小規模な保険者に分割されていることもあり、同じ都道府県の中にある市町村間の保険料格差倍率は平均1.80である。千葉県の場合、隣接する茂原 市と大多喜町で1.48倍の格差がある。また、全国で比較した場合、大潟村(121,439円)と粟国村(23,633円)の保険料倍率格差は5倍を超え る。一方、医療機関に支払う診療報酬は全国一律である。したがって、医療改革に向けた国民のコンセンサス創りのためには、現行制度が抱える構造的欠陥を国 民に根気よく説明することが肝要と思われる。