コラム  国際交流  2010.05.12

第4次対中投資ブームの到来と中国ビジネスの新たな課題(1)

 4月19日から28日まで北京と上海を訪問し、今回も中国政府関係者、エコノミスト、金融機関等の方々から多くの貴重な情報を頂いた。中でも大きな収穫だったのは、第4次対中投資ブームの到来を確認できたことである。

 昨年12月以降、大手金融機関の中国担当責任者等から「日本企業の対中投資が再び増加傾向に転じている」との情報を得ていたことから、その点は前回の中国出張報告 (1)の 中で紹介した。しかし、前回の中国出張(1月25日〜2月3日)で第4次対中投資ブームのスタートについて日系金融機関、日系企業等の見方を伺った際に は、まだ変化が始まったばかりだったこともあって、大半の先が確信をもって対中投資ブームの到来を断言できる状況ではなった。このため、出張報告の中で 「第4次対中投資ブーム」という表現を用いることを避けた。今回の出張で改めてこの点について確認したところ、返ってきた答えは大きく変わっていた。殆ど の日系企業・金融機関の幹部は以下のような具体例から、新たな対中投資ブームの到来をはっきりと実感していたのである。

 第1に、本年入り後、金融機関、製造業、サービス業を問わず、日本から北京、上海等へ の出張者が急増している。その代表的なパターンは、本社の役員または部長が社長から直接、「とにかく中国へ行って実際の状況を見て来い」と命じられてとり あえず現地を視察しに来るという形である。金融機関や中国現地の責任者はその対応に追われ、忙しさが増しているという話を多くの方々から伺った。

 第2に、日本の対中直接投資の件数・金額は、2005年をピークに減少傾向が続いていたが、昨年後半、とくに昨冬以降、まず金額が反転上昇に転じた。しかし、件数はまだ減少が続いていた。しかし、本年入り後は件数・金額とも増加傾向が顕著となっているそうである。

 今回の第4次対中投資ブームの中味は、過去3回のブーム (2)とは大きく異なり、以下のような特徴がある。

 第1に、新規進出案件についてはサービス産業のウェイトが圧倒的に高い。製造業についてはすでに多くの企業が進出済みであるため、中国ビジネスの拡大は再投資が中心である。

 第2に、対中投資の主要な目的は加工貿易(中国から海外への輸出)のための生産拠点確保ではなく、中国の国内市場における販売拡大あるいは新規参入である。

 第3に、市場拡大のための主な注目対象となっている市場は沿海部ではなく、内陸部であ る。もっとも、日本企業が内陸部において市場開拓を進めるにはクリアしなければならない新たな課題が存在しており、それが日本企業にとって中国ビジネス拡 大の上で厚い壁となって立ちはだかっている。この点については、次号コラムでやや詳しく述べたい。

(1)「今年の中国経済は9%成長を達成する見通し 〜 投資とともに消費が内需拡大の主役に 〜」(当研究所ホームページ、2010年2月24日掲載分)の「4.日本の対中直接投資の積極化と内陸市場での拡販努力」(p.8)参照。

(2)第1次は1980年代半ば、第2次は1992〜94年、第3次は2001〜05年。いずれも豊富な低賃金労働力を利用した加工組立型の製造業が中心。目的は中国から海外への輸出。
----ちなみに資金需要面の特徴を見ると、サービス産業の設備投資案件は製造業に比べて投資金額が小さい。加えて、製造業については、欧米での投資が低調で あるため、そこから生じる余剰資金を親子ローンや資本金積増しの形で中国に振向けるケースが多い。このため現時点における新たな資金需要は前回 (2001〜2005年)の対中投資ブームの時ほど大きくない。