コラム  財政・社会保障制度  2010.02.03

"医療介護分野で新規雇用280万人"の工程表

 鳩山政権が昨年末に発表した「新成長戦略(基本方針)」の最大の目玉は、「2020年までに医 療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出、新規市場約45兆円、新規雇用280万人」である。鳩山政権は6月までに実現のための 工程表を示すとしているが、世論の反応は厳しい。民主党が総選挙のマニフェストで掲げた約束を税収減を理由に次々と撤回、2010年4月から実施される診 療報酬改定アップ率も0.19%と期待はずれに終わったからである。

 しかし、医療介護分野を経済成長のエンジンに転換し雇用を創出するという方向は正し い。図表1のとおり、医療福祉以外の産業の雇用者数が減少に転じる中で、医療福祉の雇用者数は着実に増加を続けている。また、筆者は、看護学校経営幹部で ある知人から「2010年4月入学希望者が県外からもたくさん来ている。中には3月に大学を卒業予定の者や企業を解雇された者も含まれている。こんなこと は過去に経験したことがない。」との情報を得た。つまり、大学を卒業しても約3割が就職できない受難の時代に医療介護分野で人生の活路を見出したいと考え る人々が増えているのである。したがって、鳩山政権は、新成長戦略を絵に描いた餅に終わらせないために、その実行度合いを途中検証可能な形で工程表を作 成、実行する責任がある。

図表1 日本の雇用者数の推移(万人)
  2004年
期中平均
2008年
期中平均
2009年
11月時点
全産業 5,355 5,524 5,466
  医療福祉 498 565 595
  医療業 277 288 N/A
保健衛生 9 9
社会保険・社会福祉・介護事業 211 267
その他産業 4,857 4,959 4,871
(注)
四捨五入のため合計は必ずしも一致しない。N/A=Not Available
(出所)
厚生労働省・労働力調査より作成。

 そのためには次の2点が重要である。第1に、育成目標とする専門人材の職種を明確にして その教育システムの拡充を図ることである。ちなみに、米国労働省が2年毎にOccupational Outlook Handbook (http://data.bls.gov/cgi-bin/print.pl/oco/home.htm)を発表している。医療介護専門人材に関しては 43職種について教育システム、所得、職場環境、現在の人数と10年後の必要数が解説されており、政策の有効性を定期的に検証するインフラとなっている。 第2に、医療介護分野で免許取得を目指す人の学資を税金で補助することである。少なくとも大学卒業後に就職できず困窮している人が医療介護専門人材に再 チャレンジする場合は、資格取得と就業を条件に学資を全額公費負担とすべきである。これは、看護師確保のために医療機関が公立・民間を問わず既に実施して いる有効な仕組みである。その財源は子供手当や高校無償化の財源の一部を削れば確保可能である。