コラム 国際交流 2009.12.17
9月に天津、唐山(河北省)、秦皇島(同)、瀋陽(遼寧省)、大連(同)、10月には済南(山東 省)を訪問し、渤海湾を囲む天津市、遼寧・河北・山東省の最新の状況について現地の政府関係者等から説明を受けた。少し以前までの環渤海経済圏の状況につ いては、ジェトロ「中国経済」10月号に寄稿した「中国の経済成長モデルの転換と環渤海経済圏が担う役割」(当研究所HPにも転載)において整理したが、 今回改めて各地を訪問し、この地域の産業集積形成が一段と加速していることを確認することができた。
その大きな原動力の1つは高速鉄道および高速道路の建設による交通・物流網の高速化で ある。2012年頃までには幹線鉄道・道路がほぼ完成するが、完成後の主要都市間の時間距離は数年前に比べてほぼ3分の1に短縮する。これほどドラス ティックに時間距離が短縮すると地域内の交通・物流のイメージが一変する。
たとえば、秦皇島は北京、天津と瀋陽、大連のちょうど真ん中に位置する。数年前までは これら4つの大都市のいずれからも一番早い列車で4〜5時間の時間が必要だった。それが2011年には北京、天津までは1時間、大連まで1時間半、瀋陽ま で2時間半で行けるようになる。秦皇島は中国共産党首脳部が毎年夏季に重要会議を開催する避暑地である北戴河のある観光地として有名である。しかし、産業 面では地理的な不便さもあって1984年に経済技術開発区が設置されたにもかかわらず目覚ましい発達は見られていなかった。その秦皇島が最近の急速な交 通・物流網の高速化により、北京、天津、瀋陽、大連のいずれにもアクセスしやすいロケーションに変化しつつある。もちろん周辺の4大都市に比べれば交通の 便はよくないが、不動産価格や賃金水準は4都市に比べて安いことから低コスト重視の中小企業にとっては魅力的な投資環境と言えるようになりつつある。これ はわかりやすい一例であるが、同様の現象が環渤海経済圏全体で起きている。こうした変化により、環渤海経済圏は今後急速に域内主要都市間の時間距離が短縮 し、交通・物流の高速化により企業にとっての立地条件が大幅に改善することから、産業の集積度が高まっていく方向にある。
この間、上海を中心とする長江デルタおよび広州、深を 中心とする珠江デルタでも同様の現象が見られている。上海から南京までの鉄道は、ある程度高速化している現在でも1時間半を要するが、数年以内に1時間弱 に短縮されるほか、上海−武漢の鉄道は6時間から3時間へと短縮する。また、上海との間を長江によって隔てられていたために経済発展が遅れていた江蘇省北 部地域は、長江を渡る蘇通大橋の開通(昨年6月末)により南通と上海との時間距離が3時間強から1時間15分へと大幅に短縮し、急速に活気づいている。こ うした変化を背景に、南通市では将来30万トン級船舶の接岸も可能となる洋口港を中心に重化学工業コンビナートの建設計画も出てきているなど、交通・物流 網の高速化がもたらすインパクトが上海周辺地域の経済発展を加速している。このように長江デルタでも、環渤海経済圏同様、産業集積の集積度の向上と広域化 が顕著に見られている。
広州・深を 中心とする珠江デルタも類似の状況が生じていると推察される。とくに広東省の西側に隣接する広西壮(チワン)族自治区は数年前から中国のアセアンとの交流 窓口として位置付けられ、同自治区の首都である南寧では、2004年以降毎年、中国−アセアンフォーラムが開催されている。来年1月からの中国−アセアン FTAのスタートにより広西壮(チワン)族自治区の経済が一段と活性化することが期待されているが、同時に交通・物流網の高速化により広東省との経済交流 も緊密化することが予想される。
以上のように、環渤海経済圏、長江デルタ、珠江デルタという中国の3大経済圏は、交通・物流インフラの高速化により今後急速に産業集積の集積度向上と広域化が進み、中国経済をさらに力強く牽引することが期待される。