コラム 財政・社会保障制度 2009.11.02
9月のコラム「感染症専門医不足について」において日本の医療現場の欠陥を指摘したが、またもや 信じ難い事例に遭遇した。宮崎県に住む筆者の叔母から「医師からGISTという珍しい癌になっているので明日入院して胃の摘出手術をすると言われた。しか し、高齢であることから胃の摘出という大きな手術を受ければ体力が落ちて逆に死期を早めるのではないか。どうしたらいい?」と電話があった。これまでの経 緯を聞くと以下のとおりであった。
地元で一番大きな病院で毎年人間ドッグを受けており、10年前から胃に小さな腫瘍があ ることがわかっていた。その腫瘍の大きさが1cmを超えてきたので、今回初めて生検(Biopsy:生体から組織の一部を採取し病気の診断を行う方法)を 受けた。その結果、GISTであることが判明したとのことであるが、主治医はGISTという病気を知らなかったらしく、叔母を診察室から出してインター ネットで調べていた。そして、15分くらい経って、「選択肢として外科手術による胃の摘出しかなく内視鏡による腫瘍摘出はできない」と説明されたというの である。
そこで、筆者は「GISTについて調べてから電話する」と叔母に言った後、インター ネットでGIST関連情報収集を開始した。するとすぐにGISTの専門医グループが開設しているGIST研究会のホームページを発見、GISTの診療ガイ ドラインをはじめとする有益な情報に接することができた。そして、叔母の主治医が「内視鏡は使えない」という決定をしたことに疑問を持った。なぜなら、図 表1のとおり、腫瘍の大きさが2cm未満の場合は超低リスクであり、患者に負担をかけない内視鏡手術も可能であることが判明したからである。
腫瘍径 (腫瘍の大きさ) |
腫瘍細胞分裂像数 (顕微鏡などの50倍率視野あたりの細胞分裂数) |
|
---|---|---|
超低リスク | 2cm未満 | 5未満 |
低リスク | 2cm以上~5cm未満 | 5未満 |
中リスク | 5cm未満 | 5以上~10未満 |
5cm以上~10cm未満 | 5未満 | |
高リスク | 5cm以上~10cm未満 | 5以上~10未満 |
10cm以上 | どの値でも | |
どの値でも | 10以上 |
そもそも人間ドッグで胃の腫瘍を発見していながら10年間も生検をせず放置していたこ とが問題である。そこで筆者は、GISTの専門医のいる医療機関で叔母の自宅に最も近い所が何処かをインターネットで探したところ、熊本大学付属病院であ ることがすぐに判明した。その結果、叔母から筆者が電話を受けた2時間後には熊本大学付属病院のGIST専門医に診療予約がとれ、その3週間後には内視鏡 による腫瘍摘出を受けることができた。今回の出来事でインターネット医療情報に感謝すると同時に、それを駆使できない医師が患者にとって危険な判断を安易 に行っている現実に憂いを感じたしだいである。