コラム  国際交流  2009.11.02

中国の消費は力強い拡大を持続

 世界経済が減速する中にあって、中国の消費は力強い拡大を持続している。自動車、エアコン、デジカメ、化粧品、デパート、スーパー、コンビニ等々日本企業の製品・サービスも中国では耳を疑うほど好調な販売実績を上げている。

 ところが日本では中国の消費は弱いと思っている人が意外に多いように感じられる。中国 経済について説明させて頂く機会などに、その点についてよく質問を受ける。消費が弱いと考えられている理由は、GDPに占める消費のウェイトが低いこと (2007年48.7%)、貯蓄率が高いこと(同51.3%)などである。

 中国の消費は本当に弱いのであろうか。否、実際は力強い拡大を続けているのである。そ れはマクロ経済指標を見れば明らかである。本年入り後の社会商品小売総額(名目)の伸びは1〜3月15.0%、4〜6月15.0%、7〜9月15.3%と 安定的に高い伸びを示している。この間のCPIが、1〜3月−0.6%、4〜6月−1.5%、7〜9月−0.8%と前年比マイナスで推移していることを考 慮すれば、実質ベースでの消費はそれ以上に高い伸びを持続していると言える。

 この消費の強さの背景は所得の伸びの高さである。本年1〜9月の都市住民の給与の伸び は前年比9.8%(実質ベース10.5%)、農民の現金収入は8.5%(同9.2%)である。こうした所得の高い伸びに支えられて中国の消費は力強い拡大 を続けている。これに加えて、中国の企業はさまざまな形で正規の給与以外の給与を支給しているほか、名目上は業務上の交際費であるが、実際には従業員が私 的な会食等に流用しているケースが一般的に見られるなど、表面上の給与所得以外の実質的な収入も消費の拡大に寄与している。

 では、GDPに占める消費の比率が低い、或いは貯蓄率が高いのはなぜだろうか。まず、 GDPについては、消費も強いがそれ以上に投資の伸びが高いのである。中国はこれまで長期にわたって輸出・投資主導型の高成長を続けてきたことから、毎年 固定資産投資の伸びが消費の伸びを上回っていた。このためGDPに占める投資のウェイトが年々増加し続けた。今年も固定資産投資(名目)の1〜9月累計は 前年比+33.3%と、消費(社会商品小売総額(名目)同+15.1%)を大きく上回る伸びを示している。

 2005年以降昨年まで、中国の貿易黒字は急拡大を続けたが、それ以前は中国の貿易黒 字はそれほど大きくなく、むしろ国を挙げて輸出競争力の強化に取り組んでいた。珠江デルタや長江デルタでは、外資系を中心とする輸出企業を誘致するために 税制上の優遇措置に加えてインフラ整備に注力した。それが固定資産投資の高い伸びを支えた。こうした政策が奏功して輸出・投資主導型の高度成長が実現し、 それにより所得が増大して消費の拡大をもたらした。昨年来の世界経済減速の逆風下で内需主導の景気拡大に転じても貿易収支が依然黒字を維持しているのは、 こうした輸出競争力の基盤があるからである。

 貯蓄率については、上記の要因から投資に重点を置く企業部門の貯蓄率が高いほか、家計 部門も貯蓄率が高い。家計部門は一般的に社会保障の不備による将来不安に備えて貯蓄をせざるを得ないという要因が指摘されている。さらにもうひとつの大き な要因は所得の伸びの高さである。中国の多くの家計の所得水準は毎年10〜20%の高い伸びを続けている。これだけ所得の伸びが高いと消費の伸びが追いつ かないと考えられる。たとえば、年収600万円の家計収入が毎年100万円ずつ、700万円、800万円、900万円と増加する時、年収が900万円に達 した直後に、従来からの住宅、衣服、食事、自動車などの消費水準を年収900万円を前提とする家計に合わせてすぐに引き上げることは難しいのが普通であ る。したがって、所得の高い伸びが続いている状況下では貯蓄率は高まらざるを得ないのである。

 リーマンショックから1年以上が経過しても停滞を続けるグローバル経済の中にあって、中国経済の高度成長軌道への復帰は際立っている。その高成長に支えられて拡大を続ける中国の消費市場の将来の発展を見据えて、消費関連の日本企業も増産体制の強化、店舗展開の加速など、一段と積極的に動こうとしている。