コラム 財政・社会保障制度 2009.10.01
民主党政権が誕生したことから、わが国の医療界は、小泉政権以降続けられてきた極端な医療費抑制 策が終焉し医療への税金投入が増加することへの期待を高めている。民主党は、その財源をまず中央政府歳出の無駄をなくすことで確保し、すぐに消費税引き上 げに頼ることはしない方針である。筆者も民主党の考え方に賛成である。これまでの中央政府スリム化の努力は不十分であり、肥大化した各省庁の権益にメスを 入れることで相当な財源が捻出可能と考えるからである。
しかしながら、それだけでは医療保険制度改革に対する国民のコンセンサスを 築くには不十分である。なぜなら、無駄を削ることで確保した財源も税金であり、医療への税金投入増加は主たる納税者である現役勤労者の負担増となり、それ による世代間の医療費負担のバランスの変化が多くの国民により支持されるものでなければ、制度として長続きしないからである。
図表1のとおり、わが国の代表的医療保険者である国民健康保険と協会けんぽの準備金は 既に枯渇している。健康保険組合も大幅赤字となり準備金が減少している。そのため2009年度以降の保険料率引き上げは不可避である。その最大の原因が高 齢者医療費のための拠出にあることは周知のとおりである。
国民健康保険 2007年度見込み |
協会けんぽ 2008年度決算 |
健康保険組合 2008年度決算 |
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収入 | 131,164 | 71,357 | 63,717 |
(1)支出 | 130,726 | 73,647 | 66,778 |
収支差 | 439 | ▲2,290 | ▲3,060 |
(2)期末準備金等残高 | 3,322 | 1,539 | 49,360 |
(2)÷(1) | 2.5% | 2.1% | 73.9% |
そこで、民主党が医療保険制度改革を行うにあたっては、国民に分かりやすい判断基準を 提示することを求めたい。その具体例として、改革案によって国民一人あたり医療費負担額が年齢階層別にどのように変化するかを示すことがあげられる。そも そも、医療財源には税金、保険料、患者自己負担の3つしかない。その国がどのような医療保険制度を採用していたとしてもこの3つの財源の組み合わせにすぎ ず、国民のうち誰かが医療費を負担しているのであり、税金による医療だからといって無料ではない。国民一人あたり医療費負担額が年齢階層別に明示されれ ば、その改革案によりもたらされる世代間の医療費負担のバランスの妥当性を国民が判断できるようになると期待するしだいである。