コラム  財政・社会保障制度  2009.07.01

米国企業にとって医療費増加は大問題ではない

GM経営破綻の理由の1つとして従業員及び退職者のための医療費負担があったが故に、医療費増加 が米国企業の国際競争力喪失の元凶のような報道が目立つ。オバマ大統領も医療改革の議論で同様の話法を利用している。しかし、この経済危機下においても医 療産業が毎月新規雇用を生み出していることから明らかなように、医療産業は米国経済成長の最大のエンジンであり続けている。この医療費増加をめぐるパラ ドックスをどのように理解したらよいのであろうか。結論を言えば、医療費増加は極めて重大な財政問題であるが、企業経営の観点からは克服できている問題な のである。GMの医療費負担が過大であったのは、GM経営陣の判断ミスにすぎない。

(表1)米国企業の1時間あたり人件費の増加要因  (単位:ドル)
  2000年
(1)
2009年
(2)
増加額
(2)-(1)
増加額構成比
1時間あたり人件費 19.85 27.46 7.61 100%
  現金支給額 14.49 19.45 4.96 65.2%
企業福祉給付コスト 5.36 8.02 2.66 35.0%
  医療費 1.33 2.32 0.99 13.0%
  団体医療保険 1.09 2.00 0.91 12.0%
メディケア 0.24 0.32 0.08 1.1%
年金等貯蓄 1.56 2.27 0.71 9.3%
失業保険+労災保険 0.46 0.63 0.17 2.2%
その他 2.01 2.80 0.79 10.4%
(注)
各年ともに3月実績。企業福祉給付コストは雇用主負担部分のみで従業員負担は現金支給額に含まれる。
団体医療保険は従業員本人と家族のための医療保障。
メディケアは障害者と65歳以上高齢者の医療財源を現役世代が労使折半で負担する制度。
四捨五入のため合計は必ずしも一致しない。
(出所)
米国労働省 Employee Costs For Employee Compensation


なぜなら、表1のとおり、2000年から2009年の期間における人件費増加要因のうち、医療費が占める割合は13%にすぎない。

また、表2のとおり、医療費全体に占める企業拠出の割合は、2007年時点 で25%にすぎない。わが国の場合、健康保険料は原則労使折半であるが、米国では1980年代前半まで100%雇用主負担というリッチな団体医療保険を従 業員に提供する企業が多かった。しかし、医療費膨張が止まらなかったため、団体医療保険料に占める企業拠出割合を引き下げることについて労使交渉を行い 1987年77.2%⇒2000年74.7%⇒2007年71.3%と低下させることに成功している。この間、医療費全体に占める個人拠出の割合も20年 間で40%から31%に9ポイント低下、その肩代わりを政府が行った結果、政府拠出割合が30%から40%に10ポイントも高まったのである。

(表2)米国企業の医療費負担割合の推移
  1987 2000 2007
医療費全体に占める企業拠出の割合 26% 27% 25%
(参考) 政府拠出の割合 30% 35% 40%
個人拠出の割合 40% 34% 31%
その他民間財源の割合 5% 4% 4%
団体医療保険料に占める企業拠出の割合 77.2% 74.7% 71.3%
(注)
上記医療費は対人医療サービス費用のみであり、医療のための研究・設備投資費用は含めずに計算。
四捨五入のため合計は必ずしも一致しない。
(出所)
米国保健省 Sponsors of Health Care Costs: Businesses, Households, and Government, 1987-2007


このように医療費全体に占める政府拠出の割合が上昇した背景には、公的医療 保険制度の適用対象である医療保険未加入者と高齢者の増加がある。オバマ大統領が財政再建に資する医療改革を行うためには、一人当たり医療費伸び率を引き 下げることが必須要件となる。米国の一人当たり医療費伸び率が高止まりしている理由は、技術進歩で生み出された新しい医療サービスの臨床導入が早いことに 加え、医療関連価格の決定を原則市場に任せていることが必ずしも十分に機能していないことにある。したがって、オバマ大統領は、メディケア(高齢者が対 象)やメディケイド(貧困者が対象)といった公的医療保険制度において診療報酬上昇抑制や過剰診療防止を強化する方針を打ち出している。