コラム 国際交流 2009.06.01
世界経済の減速はまだ先の見えない状態が続いていますが、その中で中国だけが唯一の例外的な存在となってきています。中国経済は2〜3月をボトムとしてすでに景気が回復し始めており、今年全体としても高度成長を維持する見通しです。中国政府高官も「外需は引続き不振のままであるほか、企業収益の低迷や財政収入の減少など不安材料はあるものの、内需は暖かさが回復してきている」と評価しています。
中国経済が第2四半期から回復軌道に乗り始めることは、昨年末の時点において中央政府内でマクロ経済政策の企画運営を担う責任者はすでに予測していました。そうした政策運営の中枢を担う人たちのみならず、中国各地の最前線でビジネスを展開する日本企業のビジネスマンたちも、やはり昨年末の時点で「中国は金融危機から比較的軽い影響しか受けていない」と感じていました。ところがその頃はまだ、彼らが東京に出張してその通り報告すると、「そんなはずがない」と本社の幹部から叱られました。
しかし、年が明けると今度は逆に、東京本社の方から中国経済をどうみているのかと質問をされるようになり、最近では本社でも中国経済の回復をきちんと認識するようになってきたそうです。とくに建設機械・農業機械メーカーでは、中国国内市場における先行きの需要増を見込んで増産計画を提出するよう現地の責任者に対して指示が出されたという話を伺いました。
中国には多くの国々の企業が進出していますが、最近の世界経済減速の逆風の下で、日本企業が優位を示している事例を耳にしました。たとえば、上海において外国企業が中国国内市場向けの製品を展示している上海マートでは、昨秋以降、欧米企業の展示場からの撤退が目立った一方、日本企業は1社も撤退していないそうです。また、浙江省に進出した外国中小企業のうち、台湾・韓国系の撤退が目立つ中で、日本企業が撤退するケースは少ないそうです。その背景には、日本企業の技術力が高いこと、日本円が強いことといった要因があるようです。
撤退する企業が少ないのみならず、中国の国内市場の拡大を狙って、積極的な事業展開が見られているのも中国ならではの特徴です。上海における日系コンビニエンスストアの店舗網拡大、事務機向け消耗品工場(大連)・日用品向け化学品工場(上海)等の増産設備投資、邦銀初の内陸部における支店の開業(武漢)など、各地において様々な分野の企業が積極的なビジネス展開を行っています。
この間、上海で不動産業を営む日系中小企業では、昨年までの6年間、大幅な賃金上昇が収益圧迫要因でしたが、ここへきて賃下げを実施しても従業員が辞めないで残っているほか、これまでは採用したくても採用できなかった優秀な従業員の新規採用も可能になるなど、人材確保のまたとないチャンスであると捉えています。
ただし、楽観的な話ばかりではありません。このような中国経済の早期の景気回復の背景には巨額の財政出動と異常とも言えるほど極端な金融緩和(貸出急増)という財政金融政策の大胆な発動の効果が大きく効いています。こうした景気刺激策による強引な投資拡大はどうしても副作用を伴います。具体的には、必ずしも必要不可欠あるいは効率的であるとは言えないインフラの建設、環境保護・省エネの観点から見て厳格なチェックが行われていない投資の拡大などです。
また、資金投入の対象が国有企業に集中し、相対的に経済効率が高い民間企業は相変わらず資金不足に苦しんでいる先が多いことから、経済構造の国有化、トータルとしての経済効率の低下を招く可能性も高まっています。マクロ経済政策の責任者たちはこうした問題点を認識しており、彼らの心配の種はすでに景気停滞からの脱出方法あるいは「8%成長を達成できるか」ではなく、「景気刺激策の副作用をどうすれば抑制できるか」の方に移ってきているように感じられます。
詳細は下記の現地取材報告をご覧ください。
「中国経済は2~3 月をボトムに回復、一部の日本企業では先行きの需要拡大を 見込んで現地生産体制の拡充、優秀な人材確保等に力を入れている」 ~北京・上海現地取材報告~