著者 山下 一仁 他
出版社 講談社
ISBN 9784062884181
価格 本体800円+税
発行 2017年3月初版
山下 一仁
Kazuhito Yamashita
研究主幹
「もっと大規模化、もっと企業による組織化が進まなければ、日本の農業に未来はありません」。最初、研究会のメンバー――いずれも農業・農政の専門家――が口々にそう主張するのを末席で拝聴しながら、正直な話、私は強い反発を覚えていました。「じゃあ、安い輸入品に押されながらも、なんとか細々と続けている小規模農家はどうするんだ」と。元来、私は疑り深い性格なので、話を聞いているうちに、「経団連のシンクタンクで行われている研究会だから、はじめから企業寄りのスタンスで結論を出そうとしているんじゃないか」と勘ぐったこともありました。しかし、あるメンバーの次の一言が耳に刺さりました。「日本は農業を守ることにこだわりすぎて、結果的に農業を衰退させてしまったんだと思います」。それから、約半年にわたって、メンバーの皆さんの話を聞き続けました。「日本の農産物の中には、海外で人気が出そうなものがたくさんあるのに、制度やシステムの不備によって『農業輸出大国』になりきれずにいる」「これまでの日本の農政が農業を衰退させてきただけでなく、消費者に高い負担を強い続けてきた」「ITや農政改革、国家戦略特区の創設によって、新しい農業のスタイルが少しずつ日本にも誕生しつつある」......。こうした話を聞き、そして実際に自分でも調べてみることで、「なるほど」と思うことが次第に増えていきました。日本の農業の未来について書かれた本は、いくつか存在しますが、「制度」や「構造」といったマクロな視点から、「何が問題で」「どうすればいいのか」をしっかり論じた本は意外とありません。本書は、農政・IT・経済そして農業の専門家が、それぞれの分野から「日本農業の未来」を分析した真面目でかつわかりやすい本です。日本の農業の未来を案じる方、そして以前の私のように「農業の組織化・大規模化」に対してなんとなく警戒心や反発を感じる方にこそぜひ読んでいただけたらと思っています。ちょっと制度や仕組みや考え方が変われば、すぐに日本農業の明るい未来が見えてくるはずです。