著者 山下 一仁
出版社 日本経済新聞出版社
ISBN 9784532356378
価格 本体2,000円+税
発行 2015年4月初版
山下 一仁
Kazuhito Yamashita
研究主幹
日本農業の最大の問題は何か?それは、農家の7割が米を作っているのに、農業生産の2割しか生産していないことだ。これは、米農業が零細で非効率な農家によって行われていることを示している。
日本人の主食と言われ、もっとも保護されてきた米が、もっとも衰退した。農業発展の名の下に、別の意図が農業政策に隠されてきたからである。
農業政策を作ってきた、農協、農林族議員、農林水産省、農学者などの "農政共同体" の人たちにとっては、酪農のように少数の効率的な農家によって生産されるよりも、米農業が多数の農家によって行われる方が、都合がよかった。
しかし、減反政策はなお継続しているが、高米価政策の象徴だった食糧管理法は1995年に廃止された。企業の農業参入を頑なに拒み続けた農地法も、制限付きながらも株式会社の農地取得を認めるようになった。全くメスが入らなかった農協についても、改革案が政治のアジェンダに載るようになった。
いま、70年という長い年月を経て、戦後農政というアンシャン・レジームは崩れつつある。農政の鎖から解き放たれた時、日本農業は、どのように展開していくのだろうか。これまでの著作において、私は、日本の農政の問題点を指摘してきた。本書では、戦後農政解体後の日本農業の姿を論じることとしたい。
日本農業は国際競争力がないというのが定説となっている。農政共同体の人たちは "農業は弱い"という通念を、積極的にアピールして、高い関税など農業保護の維持を訴えてきた。しかし、独自に米を輸出し始めた、若い生産者も出てきている。米の関税は撤廃しても競争できると主張する生産者が出てきた。世界に冠たる品質の米が価格面でも競争力を持つようになると、どうだろうか?
こうすれば必ず勝てるという勝利の方程式のようなものはないにしても、勝つために必要な条件というものは、あるはずだ。そこに、日本農業生き残りのヒントがあるはずである。アンシャン・レジームが解体された後に展開される、創意工夫を発揮し活気にみなぎる日本農業の姿を、読者と共に考えてみたい。