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TPPについては、アメリカが日本を取り込もうとしているという陰謀説、デフレの深刻化、公的医療保険の改変、単純労働の受け入れ、ISDS条項による主権の侵害とか、「TPPおばけ」と呼ばれる根拠のない主張が横行し、通商交渉などについて専門知識のない人が書いたTPP反対の本が書店にあふれた。実際には、日本の参加にアメリカ自動車業界が強く反対したり、アメリカ通商代表部が公的医療保険や単純労働の受け入れはTPP交渉の対象ではないと明確に否定したりするなど、「TPPおばけ」は消えつつある。
しかし、依然としてTPP反対の主張は消えない。国民の中にある反グローバル化、反新自由主義の考え方と共鳴するからだ。学問的な業績を上げたい研究者にとっては、時間と労力の無駄と考えるのかもしれないが、根拠のない主張に対して、専門知識を持った研究者が事実に基づいて反論していくことは、この国を正しい道に導く方策ではないかと考える。この本の第2章から第10章までは、TPPに関する間違った主張への反論と正しい知識の普及を狙いとしたものである。
その一方で、100%近い産品の関税を撤廃するという、自由化レベルの高い協定を目指すというTPPの特徴はなくならない。これは「TPPおばけ」ではなく「TPPのコア」そのものだからである。農産物の関税を維持したいJA農協が、医師会等の団体を巻き込んでTPP反対運動を主導したのは、当然である。
しかし、JA全中主導によるTPP反対運動が高揚するのを見るにつけ、これが果たしてJA全体の意思なのか、疑うようになった。JAは、政治組織である全中、農業事業を行う全農、JA共済、JAバンクからなる。それぞれの組織の思惑は異なる。今日、JAグループの中心的な位置にいる、JAバンク、農林中金なら、TPPをどう考えるのか、むしろ郵貯のあり方に影響を与えるTPPを活用した方が農林中金、JAの発展、さらには地域金融の一大再編につながる可能性がある。JAの中心にいる農林中金の立場に立つとどのような展開が考えられるのか、第1章と第11章は、その意図について考察したフィクションである。
初版誤記に対する正誤表(PDF:63KB)
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