著者 小林 慶一郎、小黒 一正
出版社 日本経済新聞出版社
ISBN 978-4-532-26141-2
価格 935円
発行 2011年11月初版
小林 慶一郎
Keiichiro Kobayashi
研究主幹
急速に進む少子高齢化、膨大な公的債務と経済成長の低下に直面する日本。そこに、
先般の東日本大震災が発生した。震災復興も重要であるが、新しい時代を切り開く成
長戦略と、財政・社会保障の抜本改革が不可欠であることは明らかだ。
このような状況において、政府は2011年8月、「経済財政の中長期試算」を報告した。
この試算によると、2015年までに消費税を10%に引き上げても、2020年の基礎的
財政収支は約18兆円の赤字となる。この結果、毎年1兆円以上のスピードで膨張する
社会保障予算(年金・医療・介護)の削減に限界があるならば、政府が目標とする
2020年の基礎的財政収支の黒字化達成には、現在検討を進めている「社会保障・税の
一体改革」のみでは不十分である。
その際、世代間の公平性を確保しつつ、財政の持続可能性を高めるためには、震災復
興と同時に、社会保障予算のハード化や事前積立等を導入した上で、2050年頃までに
消費税率を最終的に25%までに引上げるといった財政・社会保障の抜本的な再生プラ
ン(正攻法の「プランA」)を推進していくほかはない。
だが、財政再建策を実施するには極めて大きな政治的困難が予想され、長い歳月がか
かる。その間に、財政破綻の発生を遅らせ、また、破綻に至った場合のダメージを緩
和するための「プランB」も必要である。幸い、現在、円高が続いている。この機会
に、対外投資戦略として、日本政府が円建て債務を増やし、対外資産(外貨建て資
産)を大量に購入するのである。これは政府のバランスシート上は円売り外貨買いの
為替介入と同等で、日本の経済成長にプラスの効果がある可能性があると同時に、財
政破綻リスクを低減させる効果をもつ。もし不幸にして財政破綻にいたったら大幅な
円安になるため、政府保有の外貨建て資産は大きな為替差益をもたらすので、政府の
財政悪化は緩和されるはずだ。
いずれにせよ、日本が直面している財政・社会保障の再生という難題に対しては、正
攻法のプランAを進めることが不可欠であるが、それと同時にプランBも必要である。
いまこそ、本書をたたき台として、財政・社会保障の再生と成長戦略の両立に向けた
国民的な議論が望まれる。