著者 山下 一仁
出版社 宝島社
ISBN 978-4-7966-7319-8
価格 680円
発行 2011年5月初版
山下 一仁
Kazuhito Yamashita
研究主幹
農協はTPPに参加すると日本農業は壊滅するとして、大規模なTPP反対運動を展開している。TPPと農業という問題設定のされ方が行われるが、野菜など既に関税が十分低く、TPPによって全く影響を受けない農業セクターは、農業産出額の半分以上を占める。最も影響を受けると農林水産省が試算しているのは、構造改革が最も遅れた米である。しかし、米の減反を廃止すれば、米価が下がるうえ、これまで抑制されてきた単位面積当たりの収量が増加し、コストは下がる。さらに主業農家に直接支払いを行って地代負担能力を向上させれば、規模拡大によりコストは一層低下し、関税ゼロでもやっていけるどころか、大規模な輸出も可能になる。価格が下がっても直接支払いを行えば、農業、農家に影響はない。
しかし、販売手数料収入が農産物価格に応じて決まる農協は、価格低下の影響を受ける。これまで、主業農家も兼業農家も等しい発言権を持つ農協は、農業の競争力を高めるための担い手育成や規模拡大などの構造改革に反対してきた。しかし、高い関税で国内食用農産物市場を守っても、それは高齢化・人口減少で、どんどん縮小していく。日本農業を維持振興していくためには、海外の輸出先市場の関税撤廃などを求め、TPPなどの貿易自由化交渉に積極的に参加していく必要がある。
そのためには、農協が、農業の構造改革に反対しないよう、制度面、組織面で、改革を行う必要がある。本書では、農業が衰退する中で農協が発展するという制御不能なまでに矛盾を拡大させてきた農協の憂鬱、追いつめられてきた農協が繰り出す陰謀と底力について解説したうえで、TPPや農業の構造改革に反対しない、かつ日本経済に貢献できる農協にするための、農協改革策について、検討する。