フューチャー・デザイン

【FDW80】哲学を民主化する-世代間倫理についてのグローバル調査

廣光 俊昭(財務総合政策研究所客員研究員)

日時

2025年6月27日(金)13:3015:00

場所

オンライン

内容

哲学の議論の評価を、我々は哲学者に全面的に委ねてきた。しかしながら、哲学、とりわけ道徳哲学は、究極的には(少なくとも部分的には)一般市民への説得性において評価する必要がある。道徳原理が望ましい行為へ導く力を持つか、このことを知っているのは人々である。哲学を民主化、あるいは大衆化(popularize)する必要がある。

本研究では、アメリカ、フランス、日本、中国、インド、UAE、南アフリカのグローバルな市民を対象にサーベイを実施し、世代間対立の解決における道徳原理の働きについて検討した。検討した12の道徳原理は、西側の哲学的伝統に限らない、広範な道徳的伝統を包含するよう選定した。調査結果は、世代間の利害対立を解決する上で、道徳原理がポジティブな役割を果たしうることを明らかにした。参加者は道徳的原則に対して総じて肯定的な反応を示し、もっとも反応が悪かった日本でも、絶対的な水準としては好意的な反応がみられた。年齢の高い、都市居住で、子どもを持つ者であるほど、道徳原理への反応は良好であった。検討した12の原則のうち、清浄、危害原則、世界の存続などの評価が相対的に高かった。各道徳原理に含まれる感情的要素の程度が、道徳原理のランキングの根拠になっているのではないかと考えられる。本稿では、気候変動、財政、先端技術といった政策への応用の場面での道徳原理の働きも検証した。いずれの課題でも、道徳原理は有効に機能したことを見出した一方、政策手段(税、技術開発の禁止)への否定的意見が道徳原理の否定を促していることを見出した。危害原則のように政策課題を通じて有効な原理がある一方、清浄、比例性のように政策課題によって有効性に差のある原理もあった。本研究は、世代間倫理の理論的理解を深めるための材料を提供している。具体的には、因子分析を通じ、世代間倫理のなかに「連帯・共助」「危害回避・ケア」という二つのグループがあることを見出した。グループの間の境界は、状況(国、年齢層、政策課題)によって移動する。

発表者

廣光 俊昭(財務総合政策研究所客員研究員)