イベント開催報告 エネルギー・環境
2026年9月14日、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長を講師に迎え、エネルギー安全保障をテーマとするセミナーを開催した。
【イントロスピーチ-貞森研究主幹・ファティ・ビロル事務局長】
ビロル事務局長は、エネルギーと地政学は従来から密接に結びついてきたが、現在はエネルギー情勢における地政学の影響が一段と強まっていると指摘した。
世界のエネルギー供給構造は大きく変化している。石油・天然ガスの主要な国際輸送ルートである西シベリアから欧州、ならびに中東からアジアへの供給に相次いで支障が発生し、エネルギー地図が描き直されつつある。原油価格の動きだけではこうした影響を十分に把握できず、特に軽油価格の高騰が示すように、実体経済への影響はより大きいとの見方を示した。
また、エネルギーをめぐる変化は価格面にとどまらない。電気自動車(EV)や太陽光発電(PV)などのクリーンエネルギー技術の導入が進む一方、エネルギー安全保障上の要請などを背景として石炭利用も増加していると説明した。
地政学的リスクの高まりを受け、各国政府はエネルギー政策やエネルギー源の選択を改めて見直している。特定の供給国への依存を低減するため、エネルギー源に加えて供給ルートの多様化を進める動きも強まっている。この結果、再生可能エネルギーや原子力の重要性が高まっている。
さらに、IEAによる4億バレル規模の石油備蓄放出を例に挙げ、エネルギー安全保障の確保には国際協力が不可欠であると強調した。
ホルムズ海峡の封鎖による影響はアジア地域の発展途上国で特に深刻であると指摘。IEAはシンガポールのRegional Cooperation Centerを拠点として、アジア地域との連携を強化していると説明した。
また、アジアのエネルギー安全保障強化に向けた日本の取り組みに触れ、POWERR Asia Initiativeにおける日本のリーダーシップを評価した。
講演の最後にビロル事務局長は、現在のエネルギーをめぐる国際環境において最も重要なものは**「信頼(trust)」**であると述べた。エネルギー供給の安定確保には、各国・各地域が相互に信頼関係を構築し、国際協力を深化させることが重要であるとの認識を示し、講演を締めくくった。
今回の講演を通じ、エネルギー安全保障は、エネルギーの需給や価格のみならず、地政学、技術革新、供給網の多様化、国際協力を含む総合的な課題となっていることが示された。特にアジアにおいては、安定的なエネルギー供給の確保に向け、地域協力をさらに強化していくことが重要である。