イベント開催報告  グローバルエコノミー

「Workshop on Search and Platform」のサマリー|主催 渡辺誠上席研究員

2026年7月23日(木) 開催
会場:京都大学経済研究所

経済理論

7月23日(木)、京都大学経済研究所北館N101・N102にて、キヤノングローバル戦略研究所の「Workshop on Search and Platform」が開催された。本ワークショップは、サーチ理論とプラットフォーム経済学の最新研究を通じ、デジタル市場の制度設計と競争政策を検討する場である。今回は、マッチング・アルゴリズム、ハイブリッド・プラットフォーム、競争的ボトルネック、メタサーチ、企業結合規制、AI安全性を扱う六つの理論研究が報告され、仲介技術が競争構造と政策課題をどう変えるかをめぐり、密度の高い議論が行われた。


Jana Gieselmann(University of Edinburgh)は、“(Mis-)Matchmaker”において、検索が長引くほど広告収入や月額料金を得られるマッチング・プラットフォームの利益相反を分析した。利用者のタイプを観察できるプラットフォームにとって、ランダム・マッチングは一般に最適ではなく、社会的に効率的な正の同類マッチング(positive assortative matchingという)も、タイプ別に十分高い料金を課せない場合や広告収益型の場合には採用されない。代わりに、あえて相性の悪い候補を提示して検索期間を延ばし、非効率な組合せまで成立させる誘因が生じる。利用者データの精緻化が、収益モデルや利用者の過信と結びつくと、むしろ遅延とミスマッチを拡大しうる可能性を指摘した示唆に富んだ理論分析であった。

m.watanabe_event0723_img02.jpg


Haruki Tsuchiya(京都大学)は、“Sherlocking by Market-making Middlemen”において、市場を運営する仲介者が、第三者商品の模倣品を投入するか、メーカーから仕入れて再販売するかを内生的に選ぶモデルを提示した。実際のファーストパーティー販売の大半が卸売であるという事実を念頭に、本報告は両方式の違いを補償のタイミングの差異に求める。模倣では、参入後にメーカーの収益が奪われるため、参入前に取引手数料を下げて補償する必要がある。これに対し卸売では、需要が判明した後に卸売価格を支払えるため、高い手数料を維持しやすい。商品の人気度の不確実性や代替性が、手数料収入の毀損とカニバリゼーションを通じて方式選択を左右する。模倣には価格を下げる利益がある一方、参入・革新を弱めうるため、一律規制の限界があることが示唆された。

m.watanabe_event0723_img03.jpg


Tetsuya Hoshino(京都大学)は、“Winner Takes All in Competitive Bottlenecks”において、競争的ボトルネック・モデルを、強いネットワーク効果により複数均衡が生じる場合に再検討した。各価格のもとでの利用者参加ゲームがbest-response potential gameであることを示し、potential maximizationによって均衡を精緻化すると、従来重視されてきた市場分割型のcompetitive bottleneck均衡はほぼすべて排除され、勝者総取りのBertrand競争が選択される。価格付けの通念も変わり、プラットフォームは必ずしもシングルホーム側を補助してマルチホーム側から回収するのではなく、相互作用便益の弱い側を補助し、強い側を収益源とする。均衡選択の仮定が、価格構造と政策含意を根本から変えうることを示す報告であった。

m.watanabe_event0723_img04.jpg


Yuto Ishihara(神戸大学)は、“How Metasearch Engines Invert Competitive Bottlenecks: Implications for Platform Competition and Welfare”において、メタサーチがプラットフォーム競争をどう変えるかを分析した。メタサーチがない場合、消費者が一つのプラットフォームを選び、売り手が双方に参加する通常の競争的ボトルネックが生じる。導入後は、消費者が複数市場を一括比較して事実上マルチホームするため、売り手は一つの市場だけで全消費者に届き、プラットフォームは同質的な売り手を奪い合うBertrand競争に直面する。すなわち、ボトルネックの向きが反転する。もっとも、独占的メタサーチは紹介料を高く設定し、出店手数料と売り手参加を歪めるため、比較の利便性にもかかわらず消費者余剰と総余剰を低下させうる。紹介料が競争や規制によって十分低下すれば厚生は改善するため、規制の焦点はサービスの存在より料金形成に置くべきだという含意が得られた。

m.watanabe_event0723_img05.jpg


Nicolas Schutz (University of Mannheim)は、“Merger Control in a Changing World”において、将来の産業全体の費用・需要ショックを企業結合審査にどう織り込むべきかを検討した。標準的な不完全パススルーのもとでは、逆風となるショックが市場集中度を高めるにもかかわらず、合併に必要な効率性の基準は緩めるべきだという一見逆説的な結論が得られる。費用上昇が企業のマージンを圧縮し、合併後の市場支配力行使の余地を小さくするからである。したがって、衰退産業で集中度が上昇しているという事実だけから審査を厳格化するのは誤りとなりうる。さらに、最悪状態を重視するmaxmin基準では不確実性は審査を緩める一方、期待消費者余剰を最大化する基準では、需要条件などに応じてより厳しい審査を要請する。集中度だけでなく、マージンと規制当局のリスク評価原理を見る必要性を示した。

m.watanabe_event0723_img06.jpg


Doh-Shin Jeon(Toulouse School of Economics)は、“AI Safety and Competition”において、安全性が不確かなAIの市場投入時期を、ベータテスト、実地投入からの学習、先行者利益、技術リスクの相関を組み込んだ二期間モデルで分析した。独占企業の私的誘因と社会的誘因は、損害賠償責任を適切に設定すれば整合させられる。しかし競争下では、それだけでは不十分である。先行者利益やFOMOにより、共同利潤最大化なら待つべき企業が同時に早期投入する「race to the bottom」が生じる一方、他社の実験結果にただ乗りしようとして投入が少なすぎる場合もある。技術の同質化によって安全性リスクの相関が高まるほど、早期投入競争は起こりやすい。政策としては、責任ルールに加え、先行者利益や技術的同質化を弱める措置、リスク評価に基づく直接規制が必要となる。AI競争政策と安全規制を別々に考えられないことを明確に示した報告であった。

m.watanabe_event0723_img07.jpg


今回のワークショップでは、マッチング、商取引、情報検索、企業結合、AI開発という異なる市場を通じて、仲介者や競争制度が市場の「つながり方」を内生的に変えることが共通して示された。検索技術、利用者データ、活発な競争は、一見すると厚生を高めるように見えるが、収益モデル、均衡選択、先行者利益、将来不確実性を通じて逆の結果をもたらしうる。表面的な集中度やマルチホーミングの有無ではなく、背後のインセンティブと市場構造を見極める必要性が、六つの報告を貫くメッセージであった。