イベント開催報告  グローバルエコノミー

Search and Matching Workshop in Asia-Pacific at Singapore

2024年8月7日~8日 開催
会場:シンガポール国立大学

経済理論

去る8月7日(水)および8日(木)にシンガポール国立大学にて、Asia-Pacific Search and Matching Workshopが開催された。このイベントは、Asia-Pacific Search and Matching Research Networkが主催する二度目の対面ミーテイングとなった。前回のキヤノングローバル戦略研究所での東京開催に引き続き、アジア・パシフィックおよびその他の地域で活躍する大勢の研究者が参加した。

今回の対面ミーテイングでは、招待講演としてマクロ金融や貨幣論の分野で先駆的研究を行っているGuillaume RocheteauUniversity of California, Irvine)をゲストスピーカーとして迎えた。 “When Money Dies: The Dynamics of Speculative Hyperinflations” と題する講演で、ハイパーインフレーションによって貨幣が機能を停止する条件について論じられた。歴史上、貨幣が無価値になり停止された例として、フランス革命期に発行されアッシニア(assignat)や1923年ドイツのパピエルマルク(Papiermark)などがある。最近の例では、2009年のジンバブエドルの流通停止がある。こうした流通していた不換紙幣が流通価値を失う背後には、バブルの発生・崩壊と同じ経済学的メカニズムが働いている。ここで展開された理論は、バブルがどの程度継続するか、について新しい視座を与えている。

プログラムではこの招待講演以外にも、(1)銀行と支払制度、(2)デジタル通貨、(3)消費者サーチとオンライン・プラットフォーム、(4)労働市場におけるサーチと新しい雇用制度、などのトピックについて最新の研究発表があった。二日間で総計12名による発表があり、それぞれの発表論文には専門領域の討論者によるコメント、デイカッションが行われた。

それぞれの報告では以下のような論点が議論された。トピック(1)では、大手のプラットフォーマー(Amazonなど)が提供する消費者クレジットに対する規制問題、また、貸付市場で情報の非対称性が存在している状況での銀行による市場支配力、トピック(2)では、そもそも電子通貨は伝統的な貨幣と本質的にどう違うか、またそれを考慮した金融政策や中央銀行電子通貨に対する最適なデザイン、トピック(3)では、消費者サーチと学習との関係、また、オンライン・プラットフォーム上での消費サーチがプロダクトサイクルにどう影響されるか、トピック(4)では、失業者のサーチ行動が、失業給付のヒストリーや通勤コスト、また、企業のリクルート・ネットワークやスキルミックスとどう関係しているか、などである。

前回と同様、どの論文も、最先端のトピックを扱っており、報告者、討論者、聴衆を巻き込んだ質の高い活発な議論が行われた。この分野で学問的貢献を目指すアジア太平洋地域で活躍する研究者との絶好の意見交換の場になったと評価できる。

Search and Matching Research Networkにおける今後の活動として、2025年の夏に香港での対面ミーテイング、また春にはオンラインミーテイングを予定している。


上席研究員:渡辺誠