イベント開催報告  国際交流

ポール・ゴールドスタイン セミナー 「Soleimani: Did his death violate International Law?」

2020年2月28日(金) 15:45 ~ 17:15 開催
会場:キヤノングローバル戦略研究所 会議室

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(左からゴールドスタイン氏、小手川氏、セミナー会場)

開催概要
題目: "Soleimani: Did his death violate International Law?(ソレイマーニ:米国は国際法を破ったのか?)"
発表者: ポール・ゴールドスタイン (Paul Goldstein, President and Chief Executive Officer of Pacific Tech Bridge(PTB))
モデレーター: 小手川 大助(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

講演内容の概要

 ソレイマーニの暗殺は国際法違反なのか、なぜ暗殺は行われたのか、という2点を中心に説明したい。

 米国とイランとは、1979年に米国大使館が占拠されてから、宣戦布告はないもののテクニカルには戦争状態であった。伝統的な意味での戦争ではないが、「不法な戦争」すなわち、テロリズム、クーデター、反政府活動である。ただレーガン政権からオバマ政権まで、米国は外交手段によって両国間の問題を解決しようとしてきた。

 中東における米国の最大の同盟国はイスラエルであり、トランプになってこの関係は更に親密になった。最近数年間にイスラエルは300を超す秘密活動をイランに対して行っている。クリントン時代にはパレスチナとの問題について2つの国家という解決を米国は模索したが合意には至らなかった。イスラエルにとってイランは最大の敵国である。オバマ政権がイスラム同胞団などのイスラム過激派を支援したことで米国とイスラエルの関係は非常に悪化したが、両国の対立関係はトランプの就任で180度転換した。一方で、イランは常に中東及び湾岸地域で中心的な存在であろうとしている。

 2019年4月にトランプは既にソレイマーニ暗殺計画を承認しており、9月にはゴーサインを出した。ソレイマーニはイラクのシーア派支援を最優先事項としつつ、レバノンではヒズボラを支援して改革を妨げ、シリアではアサドを支援してヒズボラとともにISと戦った。イランは日本のタンカーを攻撃し、米軍のドローンを撃墜し、サウジの石油関連施設を攻撃したが、米国はこれに反撃しなかった。これをみて、イラン側は米国の対応を見誤り油断していた。1月3日の暗殺の3週間前にはインド洋でイラン、中国、ロシアの海軍が共同演習を行った。米国はポンペイオ国務長官、エスパー国防長官、ハスペルCIA長官、オブライエン国家安全保障担当補佐官、ミリー統合参謀本部議長など情報関係筋全員をメンバーとするチームを組織し、1月3日に暗殺を遂行した。中露は米国と戦争をする気はなく、ソレイマーニ暗殺後もイランを説得し、イランは象徴的なミサイル発射にとどめた。

 ソレイマーニはイランで2番目の実力者であった。イランの軍や外交の関係組織の中で台頭してきた人物で闇経済の支配により多額の資産を有し、それを使ってヒズボラやイエメンのフーシ派の支援を行ってきた。これまでレバノンの米国大使館の爆破など680名の米国人の殺害にかかわってきた。彼の目的は米国の影響をイラクや中東から一掃することだった。

 国際法の起源は16世紀の英国のトーマス モア(カソリック)で、敵を殺害することが法に反しないのは戦争の場合であるとし、オランダのグロティウス(プロテスタント)もこの考え方を取った。外敵が社会と国に対し緊張をもたらす場合には宣戦を布告してこれを殺害できるとしたのである。しかしながら米国が最後に宣戦布告したのは第2次世界大戦である。朝鮮戦争は警察活動だったし、ベトナム戦争はトンキン湾事件から発生したもので宣戦布告は行われていない。

 ソレイマーニの暗殺は第二次世界大戦中の山本元帥の暗殺に比較される。米軍は東京空襲、ミッドウエー海戦、ガダルカナルで陽動作戦を続け、山本元帥のラバウルへのアイテナリーを暗号解読してブーゲンビルで暗殺に成功した。この暗殺により日本は重要な軍事上の指導者を失い日本軍の士気は大きく下がり、米軍のその後の飛び石作戦につながっていった。今回もリーダーであったソレイマーニに代わる人物はおらず、中東地域におけるイランの優勢は今後起こることはないだろう。今回の事件は、今後の中東が米国、イスラエル、サウジアラビアという枢軸を中心に回っていくことのスタートである。これにGCCを含めたものが中東のNATOのような安全保障組織になっていくであろう。そして今後、イランの内からの変革を促すことになる。



発表資料
Goldstein発表資料PDF: 850KB

講師紹介
Paul Goldstein(ポール・ゴールドスタイン)
President and Chief Executive Officer of Pacific Tech Bridge (PTB)
1967-1971: Indiana State University, History and Political Science
1974-1982: Journalist and analyst for the Executive Intelligence Review, a political intelligence journal. Studied and held seminars the role of political economy-Called the American System of Political Economy. Lived in Wiesbaden, Germany. Worked in West Germany, France, Italy and Brussels.
1982-present: Political/Economic intelligence consultant. Worked with the United States intelligence community. Specialized in counterintelligence, counter-terrorism, national security strategy and foreign intelligence liaison.