イベント開催報告 グローバルエコノミー
2015年5月11日(月)
14:00
~ 16:00
開催
会場:一橋大学 一橋講堂 学術総合センター2階(東京都千代田区一ッ橋2-1-2)
講演資料:
「TPP交渉の行方と農業」PDF:4841KB
プログラム: ProgramPDF:267KB
講演要旨: Speech SummaryPDF:343KB
テーマ概要
TPPに参加することにより、アジア・太平洋地域で貿易や投資の自由化・円滑化を実現し、発展著しいこの地域の活力を我が国経済に取り込むことは、アベノミクスの第三の矢の重要課題と位置付けられている。TPP交渉については、アメリカ中間選挙の結果、自由貿易推進派の共和党が上下院とも多数を占めるようになったため、民主党に反対意見があるものの、通商交渉の権限が議会から政府に授権される可能性が高まった。順調にいけば、TPP交渉は今年の半ばころに実質合意する可能性が出てきた。
これまでTPP交渉参加国は、ほとんど全ての関税の撤廃を目指すなど、高いレベルの自由貿易協定作りを目指してきた。しかしながら、我が国政府は、関税がなくなれば農業は壊滅するという農業界の主張を受けて、コメや畜産物など日本にとっての重要5品目の関税を撤廃しないことを前提に日米協議が行われ、一部品目についてかなりの関税削減が行われるものの、関税の撤廃はしないという交渉方針に沿って合意がなされるという報道が行われている。コメについては、関税を維持する代わりに、低い税率の特別輸入枠が設定されると報道されている。報道されている合意内容は、日本の農業にとって、また消費者を含む国民全体にとって、望ましいものなのだろうか? ガット・ウルグァイ・ラウンドと同じように、冷静な計算なくして、交渉が行われたのではないだろうか? こうした対処方針で利益を得るのは、誰なのだろうか?
関税以外にも、農業保護の方法はある。関税が撤廃されれば農業は壊滅するという主張には、関税を撤廃しても政府は何らの農業保護政策も講じないという前提がある。しかし、我が国と同じく規模の小さいEUは、政府からの直接支払いという政策で、規模の大きいアメリカや豪州の農業と国際市場で対等に競争している。アメリカやEUをはじめ、世界の農政は、関税の存在を前提とした高い農産物価格で農業を保護するのではなく、直接支払いによって保護するという政策に転換している。なぜ、アメリカやEUでできる農政の転換が我が国ではできないのだろうか? 米価が低下したなかで、減反の見直しはどのような結果をもたらすのだろうか? 60年ぶりと言われる農協改革はどのように評価すべきなのだろうか?
TPP交渉の現状と行方を分析するとともに、農政改革の現状評価とあるべき農政改革の方向について、議論したい。
山下 一仁 略歴
山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所(CIGS) 研究主幹
1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。09年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
著書に「日本農業は世界に勝てる」日本経済新聞出版社15年4月24日発売、「農協解体」宝島社14年、「日本の農業を破壊したものは誰か~『農業立国』に舵を切れ」講談社13年、「TPPおばけ騒動と黒幕~開国の恐怖を煽った農協の遠謀~」オークラ出版12年、「環境と貿易」日本評論社11年、「農業ビッグバンの経済学」日本経済新聞社10年、「企業の知恵が農業革新に挑む!」ダイヤモンド社10年、「亡国農政の終焉」ベスト新書09年、「フードセキュリティ」日本評論社09年、「農協の大罪」宝島社新書09年、「食の安全と貿易」日本評論社08年、「国民と消費者重視の農政改革」東洋経済新報社04年など。