外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年9月8日(火)

デュポン・サークル便り(9月7日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンはようやく残暑が厳しい一週間を抜け、朝は涼しく昼間はカラリとした暑さの気持ちのよいお天気となりました。今朝は、朝早くウォーキングに出たら、風がもう秋の気配。今年もあっという間に夏休みの季節は過ぎ、今は、夏休みの終わりを告げる「レーバー・デー」三連休の真っただ中。全米の屋外プールは今週末で今年の営業期間が終わります。先週の原稿を書いていた時にはネパール・中国国境での大洪水や福井県への史上最大級の大雨警報などが心配でしたが、この原稿を書いている今(9月6日)の心配は、親しい友人が何人か住むハワイに向けて進撃を続ける巨大台風のことです。

議会は相変わらずお休みですが、週明けにはいよいよテキサス州で、中間選挙を前に共和党大会が開かれます。「コアなMAGA支持層を『投票する気』にさせるための大会」と位置付けられているだけあって、9月9~10日の2日間行われるこの大会、「トランプ大統領と余り愉快じゃない仲間たちの祭典」感がすでに満載。演説が予定されている人のリストを見ると、まず、トランプ大統領は期待どおり(?)、両日とも当然、登壇。そのほかバンス副大統領、トランプ・ジュニア、レビット前ホワイトハウス報道官、ケネディ保健衛生福祉長官などが、2日間の登壇者に名を連ねています。11月の中間選挙に向けて絶賛選挙運動中の共和党候補の中では、パクストン共和党上院議員候補(テキサス州)、ロジャース共和党上院議員候補(ミシガン州)、サリバン上院議員候補(アラスカ州)など、超接戦を強いられてMAGAスーパーPACのお金が欲しい候補がいます。彼らはトランプ大統領の歓心を買うことで、同大統領が自身のスーパーPAから資金を振り向けてくれることを期待してか、入れ替わり立ち代わり登場する感じです。一方、今の時点でトランプ大統領に近すぎることが再選に向けてマイナスにしかならないという判断の下、同大会を回避する候補も多数います。ちなみに、トランプ大統領との間で緊張感が高まっているジョン・スーン共和党上院院内総務はこの党大会を欠席するそうです。

また、地元テキサスで党大会が開催されるというのに、ブッシュ元大統領は欠席の方向。理由は、大会終了の翌日にNYで行われる9・11の25周年メモリアル出席のための関連行事を優先させるからだそうです。ところが、逆にトランプ大統領本人は、この9・11メモリアルでスピーチする枠が与えられないことに逆ギレしたのか、現職の大統領なのにメモリアルは欠席する意向なんだそうです・・・・どこまで「オレ様」なんでしょうか・・・。

ちなみに、ルビオ国務長官とヘグセス国防長官のお二方が、どちらも党大会の演壇に上がる予定がないのはとても興味深いところ。これまでもルビオ国務長官は、今後政治的に不利になりそうな状況は静かにスルーしてきているので、「やっぱり~」という感じですが、もはや「トランプお抱えの闘犬」状態になっているヘグセス国防長官の名前がなかったのは少々、意外。ですが!なんとヘグセス国防長官、2028年出馬に色気を出し始めたという阿鼻叫喚もののうわさも流れているのです!

このヘグセス国防長官、実は陸軍との対立が末期的状況に入っています。すでに、陸軍の「新しい戦い方」を掲げていたジョージ参謀総長を何の理由もなく突然解任し、議会との間でハレーションを起こしているヘグセス長官。ここにきて何と、ヘグセス長官と陸軍の間に立ち、陸軍の変革を進めるため軍幹部の信頼を一心に背負ってきた「最後の砦」的存在のドリスコル陸軍長官も8月末で辞任。この陸軍長官、陸軍に任官後に途中で退官して民間でキャリアを積んだというキャリアは一見、ヘグセス戦争長官と似ています。ですが、軍人生活のほとんどを州軍兵として過ごし、イラク、アフガニスタンに展開中の仕事は広報だったヘグセス長官とは違い、ドリスコル長官の陸軍での4年間は、任官中に訓練を始めた陸軍兵の半分が途中で脱落するという厳しいレンジャー訓練課程を修了した「濃い」ものでした。その後のキャリアも、FOXニュースのコメンテーターとしてメディア業界に身を置いていたヘグセス長官とは対照的に、イエール大学法律大学院を修了し、弁護士の資格を取り、上院退役軍人委員会や控訴審で勤務するなど、手堅い仕事をしてきたドリスコル陸軍長官。省内でもヘグセス国防長官が退任した暁には、その次を担う最有力候補と言われていました。

ところが、このドリスコル陸軍長官、実はトランプ大統領筋ではなく、バンス副大統領筋の方だったようです。そんなこともあり、「トランプの闘犬」ヘグセス戦争長官とはハナから反りが合わず、特にトランプ大統領がイラン戦争を突然始めた後は、戦争方針をめぐってヘグセス長官と対立することも多かったと言われています。訳の分からない理由で解任させられるぐらいなら、俺から辞めてやる!・・・といういきさつの退任劇だった模様。

ドリスコル陸軍長官も辞任となり、なんと陸軍では陸軍長官と参謀総長の2トップのポジションが、戦争の真っ最中に代行が立つ・・・という異様な事態に。ここまできて、やはり共和党議員の中に「ヘグセス辞めさせる」コールが出始めました。その先頭を突っ走っているのは、我らが(?)「YOLO共和党議員」の代表格、トム・ティリス上院議員です。ティリス上院議員は、もともとヘグセス戦争長官には批判的コメントを連発していましたが、陸軍の2トップがいなくなる事態となり、ついにヘグセス戦争長官を「これまで見た長官の中で一番無能」と酷評。ヘグセス長官が就任後熱心に取り組んでいる米軍内のDEI撲滅運動についても、「省内の文化闘争にばかりエネルギーを使って、米軍が戦っている肝心の戦争については完全に後回し」「いますぐトランプ大統領はヘグセス長官を更迭すべき」と批判のボルテージを上げています。これに対し表立って賛同する議員は現れないものの、ヘグセス長官を弁護する議員もゼロ。

ただし、イラン戦争の現状、特に「米軍、もしかして弾薬不足?!」事案もあり、トランプ大統領、最近はかなりヘグセス長官にオカンムリ、というのがもっぱらの噂で、中間選挙で共和党が大負けしたら、ヘグセス長官を更迭して詰め腹を切らせるのでは、という見方があることも事実です。このため、ヘグセス長官は、自分が辞めさせられたあと、バンス副大統領シンパが戦争省幹部とならないように、それっぽい幹部を次々と退任に追い込んでいるのでは、というのが最近、まことしやかに出回っている噂です。しかも、ヘグセス長官、陸軍時代に、レンジャー訓練どころか、陸軍人としての戦闘能力を証明する資格を何一つ有していないくせに、「タフガイ」のイメージで売ろうとする「なんちゃってタフガイ」、として「no tab Pete」という裏のニックネームが軍幹部の間で共有されていた、というリーク記事まで浮上しています。なぜヘグセス長官が陸軍に対してだけやたらと敵意をむき出しにしているのかがようやくわかりました。そうか、こういう陰口をたたかれているのを雰囲気で感じてたんだ・・・・

そう考えると、コルビー戦争次官がマニラでトランプ的な「オラオラ」演説をしたのは、ちょうどワシントンでこのドリスコル陸軍長官辞任劇が爆速のスピードで動いていた時期と一致します。当時は「コルビー、ヘグセスの後任になりたいのかしら~」と思っていましたが、もしかしたら、あの不必要に「上から目線」のトランプ調全開の彼のスピーチ、自分を守るための手段だったのかもしれません・・・・・古今東西、権力闘争の闇って深いですね・・・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員