外交・安全保障グループ 公式ブログ

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2026年7月10日(金)

デュポン・サークル便り(7月10日)

[ デュポン・サークル便り ]


この原稿を書いている今日(7月9日)は、午後4時から始まるワールドカップ「フランス対モロッコ」戦を皮切りに、「イングランド対ノルウェー」「スペイン対ベルギー」「ノルウェー対イングランド」「アルゼンチン対スイス」と、週末にかけて好勝負が続きます。ここまでくるとさすがに、少しでもサッカーを観たことのある人なら大抵知っている選手が主力のチームばかり。一方、ネイマールやロナウドといった一時は一世を風靡した有名選手がラウンド16で敗退して引退を表明。今ベスト16に残っているチームでも、アルゼンチンのメッシ選手は「今回が最後のW杯でのプレーになる」とすでに表明しています。サッカーの看板選手のバトンが「サッカー界の大谷」のようなノルウェーのハーランド選手に代表される「新世代」に渡る瞬間を目の当たりにする大会でもあり、サッカー・マムとしては感慨深いです。日本のみなさんも、梅雨が本格化する中、引き続きW杯で盛り上がっていらっしゃるでしょうか。

先週末の最大の話題は、建国250周年を祝う独立記念日の一連の行事。ですが、最大の話題は「猛暑」。先週は「高気温、高湿度」という最悪のコンビネーションでした。この記録的猛暑が東海岸一帯を席巻した結果、独立記念日の数日前から記念日当日まで、連日日中の最高体感気温が一時45度を記録するほどの暑さとなったからです。例えば、フィラデルフィアでは日中予定していた祝賀パレードをキャンセル、夕方からのイベントも開始・開場時間を遅らせました。このように各地方自治体は、イベントに集まる人が「猛暑の中で炎天下に集う」という熱中症リスクMAX状態を何とか回避するため、様々な対応をとったのです。

ワシントンDCも状況は同じ。もともとの予定はトランプ大統領による演説が夜9時から、花火大会が10時から、という予定でした。ところが大統領の演説開始が1時間遅延したため、花火大会も1時間遅れます。さらに午後7時にはワシントンDC近郊全域に落雷の危険性を伴う雷雨警報が出たため、夕方5時の開場に合わせて花火を見るために既にモールに入場した大勢の人が、屋内への退避を余儀なくされるというハプニングも発生。屋外に避難した人たちがもう一度モールへの再入場を認められたのは、雷雨警報が解除された夜9時過ぎのことでした。このため夜9時から予定されていたトランプ大統領の演説も一時は中止が検討されたようです。ところが、トランプ大統領本人の強い意向で、大統領演説は警報が解除された後、夜10時に1時間遅れで行われ、何と、花火が始まったのは大統領の演説も終わった夜11時過ぎでした。暑い中の入場→一時退場→再入場→を繰り返す羽目となり、疲弊した観衆の皆さんには「お疲れ様でした」としか言いようがありません。

しかも、トランプ大統領の演説も、いつもの通り「トランプ大統領あるある」の、アメリカ国民全員に対する演説なのか、選挙集会用の演説なのかよくわからない代物でした。実は私、この独立記念日の週末は息子と一緒に友人一家が住むフロリダにいて、居候していた家の裏庭のプールサイドで音楽聞きながらカクテルを楽しんでいたので、この大統領の演説も、モールの花火も、「リアルタイム」では見ていません。ですが、演説をあとからビデオで見た第一印象は「これって、建国250周年の行事にする演説じゃないよね」でした・・・モールの花火は、ワシントンDCで実際に見ていた友人によれば、建国250周年にふさわしい素晴らしいものだったということなので、それは「せめてもの救い」でしょうか。

しかし、建国250周年のお祝いでアメリカ全体がパッと明るい雰囲気になったのは、当日の花火と同じく、ほんの一瞬でした。というのも、週明け早々にはトランプ大統領が出席するNATO首脳会議がトルコのアンカラで行われている最中に、「米・イラン停戦崩壊?」という再び頭を抱えてしまうような事態が勃発したからです。肝心のNATO首脳会談の方は、これまで「やっぱりグリーンランドほしい!」「欧州は中東で何もしてくれない!」などの爆弾発言を連発していた割には、全体としては明るい雰囲気で終わりました。そればかりか、NATO首脳会談中にウクライナのゼレンスキー大統領と会談したトランプ大統領は、二人で一緒にメディアの前に並び、ウクライナにパトリオット・ミサイルのライセンス生産を認める意思を表明。勿論、いつものようにトランプ大統領は企業や議会には一切根回ししないままの発表だったらしく、細部はこれから政府間で調整ということになるらしい。ですが、パトリオット・ミサイルはウクライナが対空防空のために長らく「移転」を求めてきた装備です。これを「移転」ではなく「ライセンス生産」までさせる、というのは、重要な決定です。これまでウクライナにこのような支援をすることに慎重だったトランプ大統領が突如態度を豹変させた理由は、「ウクライナ支援を誠実に考え始めたから」では必ずしもないでしょう。むしろ、イラン情勢が行き詰まる中、ミサイルやドローン技術などでイランと「持ちつ持たれつ」の関係にあるロシアのプーチン大統領を「当てこすり」たかったのでは・・・。結果オーライなら、まぁいいかもですが・・・

とはいえ、米・イラン停戦の「崩壊」は大問題。すでにガソリン価格は、「停戦崩壊」ニュースの前と比べ「1ガロン当たり5セント上昇」という報道も出ています。事態が流動化すれば、最悪の場合、トランプに求められ渋々攻撃は止めたけど、本音ではイランを深追いしたくてウズウズしているイスラエルのネタニヤフ首相を刺激し、せっかく少し落ち着いた中東情勢が再び緊張する可能性があります。そうなれば、11月に迫った中間選挙を抱える共和党議員にとっては悪夢のシナリオ。NY州やコロラド州の予備選で民主党穏健派のベテランの現職議員が次々と急進左派の新人候補に敗れたことを受け、共和党側は「民主党=共産主義者」というキャッチフレーズで劣勢挽回を考えていたのですから。ガソリン価格が再び上昇を始めれば、元の木阿弥となりかねません。

民主党側の苦悩・混乱もまだまだ落ち着く気配はありません。先週は、民主党が優勢な選挙区での急進左派の躍進について:

「過半数への道は、「赤」の州を「青」に変えられるかで決まる。「青」の州を「コバルト・ブルー」に変えているだけでは、絶対に過半数の座は奪回できないし、トランプの不正の追及もできない」

と評した、ラーム・エマニュエル前駐日大使のコメントをお伝えしましたが、今週はさらに困った事態になっています。中間選挙で民主党が共和党から「もしかしたら」議席を奪えるのでは・・・と期待していたのはメーン州上院選でした。その民主党上院選予備選で穏健・中道派のジャネット・ミルズ同州知事に圧勝し本選候補になったのは牡蠣養殖業者のグラハム・プラトナー氏。その彼が何と7月8日に上院選からの撤退を表明したのです。プラトナー氏は「医療保険の無料化」などを訴え、バーニー・サンダース上院議員をはじめとする急進左派系議員の強い支持を得て選挙を戦ってきました。現職共和党のコリンズ議員が高齢(現在73歳、再選された場合、次の任期が終わるころには80歳)にも関わらず後進に道を譲らず再選を目指し出馬を決めたこと、さらにトランプ大統領の不人気もあり、民主党のプラトナー氏が出馬した当初は選挙戦の流れが民主党に傾いていました。しかし、民主党指導部による「身体検査」を経ておらず、出馬当時から不倫疑惑、酒癖の悪さなど、「たたくとホコリがバフバフと出る」プラトナー候補には、実は民主党指導部側も距離の取り方に苦労していたのです。それだけでもかなり微妙だったのに、先週末ごろからは複数の元カノによる「交際中に性的暴力を受けた」証言が報道され始め、結果的にこれが致命傷となった形です。

万が一、7月13日までにプラトナー氏が撤退しなかったら、民主党にとっては悪夢のシナリオでした。選挙戦本格化前からスキャンダルにまみれた民主党候補が、高齢ではあるがスキャンダルとは無縁で、トランプ大統領の不人気の「とばっちり」を受けただけの共和党現職コリンズ議員と対決するからです。それだけは何とか回避したものの、早く後継候補を決める必要があるという点では、民主党の厳しい状況は変わりません。しかも、民主党には、2024年の大統領選挙でバイデン大統領の「遅すぎる撤退」がハリス候補に大きく不利に働いた苦い経験もあります。民主党も今月は一つのヤマを迎えそうですね。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員