キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年6月8日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
晴天でちょうどいいポカポカ陽気、しかも「蒸さない」という日向ぼっこに最適、かつワシントンでは1年に通算2週間ぐらいしか経験できないような、奇跡的なお天気がここのところずっと続いていたのですが・・・・やはり良いことって長続きしませんね。今週末は一気に気温も湿度もアップ、プールの水も一気にぬるま湯状態・・・というお天気が突然到来しました。日本も梅雨と台風の季節に突入したようですが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
最近のアメリカ内政の最大の話題は、なんといっても6月2日にカリフォルニア、アイオワ、モンタナ、ニュー・ジャージー、ニュー・メキシコ各州で行われた予備選挙です。中でもメディアや内政アナリストの関心を集めたのがカリフォルニア州とアイオワ州の連邦議会と州知事以下地方自治体の首長選に向けた予備選でした。特に、カリフォルニア州で実地されたのは、そうです、5月12日付「デュポン・サークル便り」でもお伝えしていた、あの民主・共和一体の「ジャングル予備選」。どうやら、カリフォルニアでは州知事選だけではなく、州知事以下、地方自治体の選挙はみんな「ジャングル」だそうです。同じ日に行われたロス市長選挙でも、現役市長はかなり不人気らしく、いったいどうなるのか、行方が注目されておりました。
しかも、とてもカリフォルニアらしいのですが・・・最終投票結果が確定するのは下手すると数週間後なのだそう。というのも、カリフォルニア州の登録有権者数は2200万人以上と全米一。この2200万人を超える有権者全員に投票用紙が郵送され、かなりの数の人が郵送で一票を投じます。しかも、アメリカのほとんどの州では郵送された投票用紙の受付を投票日で締め切りますが、カリフォルニアは、投票日の消印がある投票用紙は、投票日から7日間後に受領された分まですべて「有効票」としてカウントするのだそうです。これに加え、郵送投票用紙が多いためか、いわゆる「本人確認」も自筆署名を符号することから始まり、携帯アプリを上回る4段階認証です。しかもカリフォルニア州では選挙当日に投票所で有権者登録することも認められているんです。このため、投票日以降7日間は、有効票総数が増え続けるという、全米でも他に例がないユニークな状態。要は、数えなければいけない投票用紙の数がとても多く、さらに投票結果を記録するまでの手続きも他州に比べて複雑なので、結果確定に時間がかかるというわけです。
とはいいつつ、現時点で出てきている知事予備選の開票結果トレンドを見ると、「共和党候補2人が、「漁夫の利」で決選投票へ」という民主党にとっての悪夢のシナリオはとりあえず回避できそうな感じ。CNN他複数のメディアが報じるところでは、今のところ11月の本選に進む可能性が最も高い候補者上位2名は、共和党のスティーブ・ヒルトン候補(保守系政治評論家)と民主党のハビエル・バセラ前保健福祉長官。ちなみに、この共和党ヒルトン候補の演説を聞いて「なんでこの人、ブリティッシュ・イングリッシュを喋るの?」と思って調べたら、元はイギリス人で、キャメロン元イギリス首相のアドバイザーの経験もある方でした・・・。2021年に帰化したばかりの人が僅か5年後に知事選挙に出られるって、やっぱりアメリカって「移民の国」だなぁと思ってたら、なんと日本では帰化したその日から立候補が可能なんだそうですね・・・ロス市長選も、不人気とは言え、現職の市長(民主党)と共和党の対立候補がそれぞれ予備選の1,2位となりそうな気配です。
今回の予備選で注目されていたもう一つの州がアイオワ州。こちらも州知事選と上院選に向けた予備選の結果に関心が集まりました。中でも大きな話題になったのは、州知事選に向けた共和党予備選で、トランプ大統領が支持を表明したランディ・フィーンストラ下院議員が、ザック・ラーン候補に敗れたこと。なんでアイオワ州が注目されるのかというと、ここは大統領選予備選挙の火ぶたが切って落とされる場所だから。この州は「アイオワ州予備選」ではなく「アイオワ・コーカス」と呼ばれるように、実態は選挙というより、対面の集会で各候補者の話を聞いたあとに投票するという、どちらかというと町内会の選挙に近いユニークなスタイルなのです。この「候補者の話を聞いてから投票」というアイオワ・コーカスで良い成績を出すことは予備選で「勢い」に乗るために必須とも言われています。トランプ大統領も、大統領選共和党予備選では、このアイオワ・コーカスで1位になったことで、その後の選挙戦に大きく弾みを付けました。今回はそのアイオワ州でトランプ大統領が「推し活」した候補が、僅差とは言え、対立候補に敗れたということで、今回の中間選挙で「共和党に突き付けられた現実」(某政治アナリスト)の象徴として大きな注目を集めたのです。
また、国政レベルでは、今週いよいよ来年度政府予算の審議が議会で本格的に始まったことで、5月29日付「デュポン・サークル便り」でお伝えした共和党上院議員の存在が俄然、脚光を浴びています。キャシディ上院議員(ルイジアナ州)、コーニン上院議員(テキサス州)、マコーネル上院議員(ケンタッキー州)、ティリス上院議員(ノースカロライナ州)、コリンズ上院議員(メーン州)、マカウスキー上院議員(アラスカ州)、ポール上院議員(ケンタッキー州)の7人は、それぞれ理由は違いますが、みんな「トランプ大統領なんて怖くない」という点では一致。FOXニュースなどは「一度きりの人生、悔いなく生きよう」という表現でよく使われる英語の「you only live once」という表現の頭文字をとって、彼らを「YOLO Republicans 」と命名していました。この7人の動きのお蔭で、ジョンソン下院議長が青息吐息で下院を通して送った予算案も、上院では審議が委員会レベルで止まったり、本会議で否決されたりするリスクが本年末にかけてグッと増している状態です。
更に下院では、「共和党にとって大逆風」という下馬評が完全に定着してしまい、選挙区に張り付いたまま投票のためにワシントンに戻ってこない(戻ってくる余裕がない)議員が出始めました。このため、ついに6月3日には下院で対イラン軍事行動即時停止を求める「戦争権限法決議」が否決されてしまうという事態に。この決議、上院では、共和党側のポール上院議員が造反して賛成票を投じたものの、民主党側のフェターマン上院議員も、民主党ながら造反して反対票を投じたため、結局、賛成53票、反対47票で否決されました。なんとかトランプ政権の面目は保たれましたが、イランとの交渉が長引き、ホルムズ海峡の実質的封鎖が続けば、上院の方でもYOLO上院議員が賛成し続けるかは不透明。というか、YOLO議員7人のうち、ポール議員は既に前回から造反していますし、今回賛成票を投じたメーン州のコリンズ議員あたりも反対に転じるのは時間の問題かもしれません。というのもコリンズ議員は、タダでさえ73歳という高齢にも関わらず再選活動を続けて批判されていることに加え、今回の賛成投票で民主党に「トランプ追随議員」というレッテルを張られる理由をまた一つ作ってしまったからです。このように連邦議会では、トランプ大統領の「やりたい放題」が難しくなる環境が着実に整いつつあります。
こういった状況への苛立ちもあるのでしょうか。イランとの交渉が重要局面にあるのにレバノンへの攻撃をやめようとしないイスラエルのネタニヤフ首相に対し、トランプ大統領がついにマジギレし、電話で「このクレージー野郎、てめぇ何考えてるんだ!」などと罵声を浴びせた模様。最初は報道で出たレベルだったので、「いくら何でも一国の首相に対してそんな言葉づかいはしないでしょう」と思われていましたが、当の本人がニューヨーク・ポスト紙のポッドキャストでその事実をあっさり認めるに至り、いろいろな意味で関係者を絶句させています。
ワシントンが毎日これでは、シンガポールで毎年行われる「シャングリラ会議」への関心も今一でした。結構重要な会合もあったのに、アメリカで報じられたのは、ヘグセス国防(戦争)長官が、厳しいことは言いつつも、インド太平洋への「アメリカのコミットメントは健在」と基調講演でアピールしたことぐらい・・・。
最後に、日曜日の午後、テレビをつけた私を待っていたのは「イスラエルに向かってイランが弾道ミサイル発射」ニュース。昨日、久しぶりに1ガロン4ドルを切る値段でガソリンを満タンにできて本当に良かった・・・と自分の運の良さに感謝しつつ、今後の展開を考えると暗澹たる気持ちになりました。それでも今晩は、トニー賞授賞式を見て、明日から始まる一週間に向けて必死で気持ちをポジティブに切り替えようとしておりました。
ちなみに、ここ数日最大の「びっくり」は、CNNを見ていたら突如、日本関連ニュースが立て続けに流れてきたことです。といっても、政策ネタでは全くなく、一つは「日本でヒグマが里に下りて人間を襲う事件が増えている」というもの。もう一つは「大学3年生のジェームズ(通称ウエストン)・ヒギンボーサムさんが、家族旅行中に京都で行方不明になった事件で、彼が最後に目撃された地域の住民の皆さんが、ボランティアで情報提供を呼び掛けるチラシを数か国語で作り、駅で配布したり掲示板に張ったりしている」というものでしたが、後者については、残念ながら、ご本人の遺体が発見されてしまいました。ヒギンボーサムさんは、行方不明になる直前に母親とちょっとした口論になっていたそうです。自分が息子と言い争いさえしなければ、息子は「一人になって考えたい」なんて思わなかったのではないか。こうお母さまがご自分を責めていないことを祈りたいです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員