外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年10月2日(金)

デュポン・サークル便り(10月2日)

[ デュポン・サークル便り ]


今年も早いもので、もう10月になりました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。ワシントンは今日から明日にかけて、なぜか再び夏日が舞い戻ってくるようですが、週末以降はようやく秋のお天気になりそうです。

先週に引き続き、今週のワシントンも本当にいろいろありました。なんといっても、朝起きた私を待ち受けていたのは、多数のイスラエル人乗客を乗せてアブダビからイスラエルのテルアビブに向けて飛び立ったフライ・ドバイ便旅客機のコックピット内で、フライトの副操縦士が正操縦士を刺殺しようとするというとんでもない事件。副操縦士に刺されて重傷を負いながらもなんとかコックピットの扉を開けて正操縦士が助けを求めたことにより、乗客複数人が副操縦士を押さえつけることに成功。この便に乗り合わせていた控えのパイロットがフライトを無事にサウジアラビアに緊急着陸させたことで、最悪の事態は免れました。とは言っても、よく言えばミラクルですが、不幸にしてこの便に乗っていた乗客にしてみれば、文字通り「九死に一生を得た」この事件、全米のニュース番組はすべて朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎになっています。

その一方、中間選挙もいよいよ投票日まで残すところあと33日。ここにきて共和党にとっては心配な世論調査の結果が。9月29日にCNNが報じた世論調査によれば、「期日前投票で民主党支持層の投票率が共和党支持層の投票率と比べ大幅にアップしているそうです。更に、選挙前の勝利予想では定評のある「クック・ポリティカル・レポート」も、カンザス州、テキサス州、アイオワ州など、最近共和党が圧倒的に強かった州の多くで選挙結果予測を「共和党勝利の可能性高し(likely Republican )」から「たぶん共和党が勝つ・・・かな(lean Republican)」に修正しました。トランプ大統領不人気という壮大な逆風のためか、これまで「楽勝」だった州で共和党は多額の選挙資金を費やすことを余儀なくされています。そういえば今朝、CNNが実況中継していたのは、私が住んでいるバージニア州北部。民主党支持者と共和党支持者が文字通り混在し、選挙のたびに「紫(←どっちに転んでもおかしくない激戦州)」認定されているこのエリアでも、期日前投票で郵送により一票を投じた民主党支持有権者が、共和党支持有権者を大幅に上回っている、というデータを報じていました。

そうかと思えば、戦争省では、研究者としての私には永遠のテーマである「政軍関係」の未曽有の危機を改めて印象付ける出来事が相次ぎました。9月29日にクワンティコの海兵隊基地で米軍幹部を相手に演説したヘグセス戦争長官は、昨年以上に「兵士は戦闘員でなければならない」と強調。さらに、イランとドンパチやっている最中だというのに、同長官は全軍を通じ将官ポストを年末をめどに20%削減すること、また、全軍の士官学校や幹部学校などの教育機関において終身雇用(tenure)待遇で勤務する教員の採用を停止することなどを相次いで発表したのです。確かに、軍人の本懐は戦闘でどれくらい力を発揮できるかです。が!いわゆる「戦場」が既にサイバー、宇宙、人工知能などに広がってきている今、「体力だけは自信あります」系の軍人ではもう「付いて行けない」ところまで、戦争は進化しています。また「武士のたしなみ」という言葉もあるように、戦闘が本業とは言え、指導者としての素養を身に着けるためには「学問」が欠かせないのも事実です。にも拘わらず、ヘグセス長官の「戦闘員として使えるか」の判断基準は、誤解を恐れずに言えば、「パッと見、喧嘩が強そうかどうか」にしかないようです。

しかも、軍人にはひたすら「タフガイ」イメージを求める割には、「タフガイ」とは対極に位置するエキセントリックな二人の人物に主導させる計画を突然ぶち上げたりしています。一人は「マンハッタン計画」第2弾を狙っているとしか思えない「メリディアン計画」やDOGEなどで全米に敵を作ったイーロン・マスク。もう一人は「日本大好きなゲーマーが起業したら成功しました」の典型例であるアンドリル社創業者のパーマー・ラッキー。こんなヘグセス長官に「オレ様が長官だ!」などと威張られてもねぇ・・・・このところ私の友人の軍人も「やってらんない」とばかり「あれ、少し早くない?」という時期に退官する例が相次いでいますが、彼らの気持ちはよくわかります。小さい時から海兵隊員を目指している息子を持つ母親としても、「こんな長官の指示が絶対」なんてあり得ない、この人がいる間は「軍人にならなくていい」と思ってしまいます。

それにしても、なぜ彼がこの種の演説をするのはいつも「海兵隊の心の故郷」であるクワンティコなのだろう・・・ペンタゴンからだったら、もっと近いところに陸軍基地もあるし、空軍メモリアルだってあるのに・・・・やはりヘグセスには「タフガイ」コンプレックスがあるような気がします・・・。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員