外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年9月18日(金)

デュポン・サークル便り(9月18日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは先週から、残暑がやってきたり、涼しくなったり、ジェットコースターのようなお天気。それでも朝晩はかなり涼しくなりました。

前回の「デュポン・サークル便り」は、9・11連続テロ事件の25周年にフォーカスしたものをお届けしました。が、先週の前半はもう一つ、共和党が史上初の中間選挙前党大会を開催するという一大イベントがありましたので、これについても、やはり一本、書いておきたいと思います。

9月9~10日の2日間、テキサス州ダラスで開催されたこの中間選挙前共和党大会。同大会は「トランプパルーザ」という表現をトランプ大統領本人が使って宣伝していました。このことからもわかるように、本党大会のターゲットは「トランプ大統領に投票したけど、中間選挙に投票する意欲はあまりなさそうな共和党固定支持層」でした。この人たちを念頭において「トランプ大統領」というブランドを前面に押し出して共和党大会という名のイベントを開催することで、「11月に投票所に足を向けよう!という気になってもらうこと」が最大の目的だったと言えます。つまり、無党派層やリベラルに先鋭化した民主党に投票する気がなさそうな民主党支持層などは、はなからターゲットに入っていない訳です。

このため、2日間にわたって続いたこの大会、「トランプパルーザ」という名のとおり「トランプとその仲間たちの祭典」という表現がピッタリ。トランプ大統領自身が大会両日とも登場して演説していたところからも、トランプ大統領のやる気が感じられます。とはいえ、トランプ大統領が突然始めたイラン戦争がなかなか終わらないことで、ガソリンや軽油の値段はダダ上がり。このため物価も上昇傾向が止まりません。しかも軽油の価格上昇は、まさに今、中間選挙で共和党候補に一票を投じてもらう必要がある共和党固定支持層を直撃しています。という訳で、かなり共和党にとって逆風が吹いている中で開催された党大会、トランプ大統領が何を語るのか、ちゃんと共和党候補が「これで戦える」と思えるようなトーンのメッセージが出せるのか、が注目されていました。

ところが、ふたを開けてみれば、まぁ、一言でいうと「トランプらしい」モーメントの連続。第一日目に話題をさらったのは「トランプ配当金」。なんと、「中間選挙で共和党が上下両院、過半数を維持することができたら、成人有権者一人ひとりに5000ドルの配当金を配る!」と議会に全く根回しなしに突然宣言。大会2日目の演説の時には、会場にいた人に右手を挙げて「中間選挙で共和党候補に投票します」という「宣誓」をさせるパフォーマンスも飛び出しました。

ですが、突然「5000ドルの配当金配布」なんて言われても、「財源は?」と当然なります。このため、まさに「晴天の霹靂」でこの発表を聞いたジョンソン下院議長、週末の政治討論番組では、顔を引きつらせながら「すでに財源をどこに求めるかなどについて議論を始めた」などなど、苦しい抗弁を余儀なくされていました。身内からも「そんな金ないだろ、おい」という声がすでに出てきているジョンソン下院議長、ホントは困ってるんだろうなぁ・・・

また、実際にダラスで大会を覗いた知人によると、トランプ大統領の演説の時以外は、正直、中だるみしまくり、盛り上がっている感じが全くない2日間だったそうです。出席者は、テキサス州の人が大多数で、これのためにわざわざ州外から来た人にはほとんど遭遇しなかったとか。しかも、会場に来ている人の中でも「これまでずっと共和党候補に投票してきたけど、もう限界。今回はたぶん、投票しない」とメディアに取材を受けて答えている人もかなりいたそうです。別の共和党員(共和党上院議員の外交アドバイザーも務めていた人です)からは、「え、ダラスの大会?わざわざそれのためにテキサスにいくの、めんどうくさいじゃん」という身も蓋もない答えが返ってきました。さらに今回の共和党大会、こうした大会に出席したり、テレビで見たりしそうな支持層が大好きな「NFLの開幕」、しかも前回のスーパーボウルを争ったニューイングランド・パトリオッツとシアトル・シーホークのリベンジマッチの時間と、共和党大会1日目がガチ被りするという、致命的なスケジューリングのミスを犯しています。第1日目の視聴率は、完全に党大会の「負け」だったようで、さっそく、辛辣な政治風刺をすることで有名なコメディアンのビル・マーハー氏が、これを使ってトランプ大統領をいじる冗談を炸裂させていました。

ちなみに、ここにきてYOLO共和党上院議員だけではなく、いよいよ議員生活が残り3か月を切った下院のトマス・マッシー議員に至っては何と「ヘグセス戦争長官を弾劾する!」という動議を提出。これを絶対に選挙前に審議したくなかったジョンソン下院議長は、なんと、予定より丸2日間も会期を短縮して、昨日(9月16日)を最後に中間選挙に向け休会に入ってしまいました。ですが・・・・・この動議、この会期中は生きています。ということは、中間選挙で共和党が負けて、民主党が過半数をとった場合、マッシー議員のこの動議に民主党の議員が全員乗っかると、なんと「ヘグセス戦争長官弾劾決議」が下院で可決してしまうのです。「将を射んとせばまず馬を射よ」という諺よろしく、将(大統領)を弾劾しようとする前にまず、彼の忠実な闘犬(戦争長官)をターゲットにしよう、というこのアプローチ、まさかこの手があるとは・・・。さすがYOLO議員だからこそ考えられる手だよねぇ、と感心してしまいました。

さらに、現在、普通の有権者は、朝起きるたびにガソリンと軽油の値段が上がっている、という、車なしには生活できないアメリカ人にとってはホラー以外の何物でもない毎日を送っています。加えて今週、連銀がインフレ率抑制のために利上げを決めたことで、住宅ローンや車のローンなどの利率がすべて上がることになり、経済が低迷傾向に向かい続けるのは必至です。こんな状態では、いくら「トランプ配当金」を叫んでみたところで「いや、そうじゃなくてその前に物価なんとかしてください」という感情を有権者が持つのは当たり前。共和党にとっては、選挙の見通しがどんどん厳しくなる中、刻一刻と中間選挙は迫ってきます・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員