キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年6月22日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
夏がいよいよ本格化する中、W杯フィーバーが続くアメリカ。ワシントンでも地元のスポーツバーや一部レストランが、「W杯試合開催中は、ハッピーアワー(アペタイザーやドリンクが割引になる仕組み)」を謳って営業しており、友達とビールやワインを片手にワイワイとサッカー観戦するには最高の状態です。幸い、暑いといえば暑いですが、まだカラッとした暑さで、外のテーブルに座っていても気持ちよく飲めます。日本も、強豪オランダと引き分け、チュニジアを4-0であっさり下して、早くも決勝トーナメント進出ですかね。我が家もオランダ戦は母子揃って「サムライ・ブルー」のタオルを首にかけて自宅でテレビ観戦、89分目の同点ゴールでは、「EQUALIZER~~~~~~~!」と親子で絶叫してハイタッチしておりました・・。予選リーグではスウェーデン戦を残すばかりとなりましたが、こちらもできればオランダ以上の得点差で勝ってもらって、予選リーグ、首位で通過したいですね。日本の皆さんも、もりあがっていらっしゃるのでしょう。
先週の頭にフランスのエビアンで開催されたG7サミットは、米・イラン間の停戦合意が「成立したの?してないの?署名したの?まだなの?」状態がサミット期間中ほぼほぼ続いていたため、サミット自体はアメリカ国内で完全にスルーされた感があります。むしろ今も話題なのは、サミット直後に勃発した「トランプVSメローニ」のSNS上の激突。ことの始まりはトランプ大統領がサミット後にイタリアのテレビ局と行ったインタビューでした。トランプ大統領は「ほんとは、写真とか嫌だったんだけどさ~、(メローニ首相に)どうしても写真一緒に撮ってってお願いされてさ~、まぁ、あそこまで頼まれたらしょうがないよな~」的な発言をしてしまったのです。
美人だけど見るからに気が強そうな「イタリア版サッチャー」のメローニ首相がこれを聞いて黙っているわけはありません。このインタビューがイタリアで放映されたあと、間髪入れずに自撮り動画を公開。その中で「トランプ大統領の発言は完全なでっち上げ」「同盟国に対してあそこまで強気に出るなら、同じレベルの強気で敵国にも接すればいいのに」「私もイタリアも、物乞いなんてしません」と、堂々と反論。さらに、6月21~22日までワシントンを訪問予定だったイタリアの外務大臣も、トランプ大統領の発言は「イタリア全土を侮辱した」として訪米をキャンセル。この強気な対応はイタリア国内で「よくやった」と絶賛され、メローニ政権の支持率も急上昇しているとか。そして、メローニ首相のこの毅然とした態度は、共和党がだらしなさ過ぎて全く議会の行政府へのチェックが機能していない姿を見せられ続けているアメリカの政治コメンテーターの目には「トランプを制御できるのは、骨のある同盟国の指導者だけ」と映っているようです・・・・
しかも、心配されてたことではありましたが、まだ実質的交渉が始まってもいないというのに、すでに和平交渉は停滞、イランは再び、「ホルムズ海峡を閉鎖した」と宣言。これでは、ガソリンは1セントでも安いうちに、とにかく入れておく、というアメリカ人の消費行動に当分変化は見られないでしょう。やっぱり、中間選挙に向けて、共和党はだんだんと、崖っぷちな感じです・・。しかも、今回、交渉に「首席代表」として登場しているバンス副大統領。2028年大統領選の最有力候補に「なれるかどうか」の大一番といっても過言ではありません。そんな重要局面が、交渉が始まってもいないうちから頓挫しているのを横目に、この「進むも地獄、戻るも地獄」な状況とはさりげなく距離を置いているルビオ国務長官・・・・処世術すごいかも・・・・
内政ネタで唯一の明るい話題は、シカゴで「オバマ大統領センター」の完成式典があり、久々にオバマ一家と、お祝いにかけつけたバイデン前大統領夫妻、クリントン元大統領夫妻、ブッシュ元大統領夫妻、と4組の元ファースト・ファミリーが勢ぞろいしたこと。オバマ政権って、よく考えたらもう10年近く前に終わってるのですが、それでもオバマ元大統領って、まだ64歳なんですよね。大統領職を去ったときが、50代半ばだったんだ・・・・これじゃ、民主党が「ポスト・オバマ」に移行できないのも何となくわかるような気が・・・お祝いには、元大統領夫妻3組に加えて、ブルース・スプリングスティーンや、スティービー・ワンダー他、有名歌手も多数かけつけ、完成式典はミニ・コンサート状態に。彼らの音楽を聴いて、ノリノリでリズムをとりながら歌を口ずさむオバマ一家を見て、あぁ、アメリカにもこんなに見ていて気持ちが明るくなる大統領一家がいた時代があった・・とノスタルジアに浸ってしまった自分が少し(かなり)悲しかったです。
政治の世界ではそんな世知辛い話ばかりですが、国内では、とりあえずW杯が明るい話題を提供し続けてくれている。これがせめてもの救いです。すでに6月19日付の「デュポンサークル便り」で、スコットランドから押し寄せたサポーターグループ「タータン・アーミー」が地元パブのビールを飲みつくしたエピソードはご紹介しましたが、スコットランドに負けてられるか!と思ったのかどうかは知りませんが、ノルウェーのサポーターも地元パブのビールを飲みつくした模様。なんでもこれらの国のサポーターの皆さんは、アメリカに来る機内でも、搭乗便が搭載していたビールを全部飲みつくしてしまい、それでもまだ不満たらたらでワインをがぶ飲みしていたそうです。こういう国の皆さんの肝臓って、どういう作りなんでしょうか。
そして、これだけアメリカにスポーツ観戦のために海外から人が押し寄せると、「へぇ、そんなものが珍しいのね!」というものが注目されるのも、W杯のような国際試合ならでは。例えばアメリカ人には当たり前のサラダドレッシングのフレーバーで「ランチ(Ranch)」というタイプがあります。日本でいうと「クリーミーイタリアン」とでもいうのでしょうか、この「ランチ」ドレッシング、サワークリームがベースのドレッシングで、スポーツ観戦のお供、激辛鳥の手羽揚げ(チキン・ウイング)や口直しの添え物でついてくるセロリとの相性が抜群で、スポーツバーには欠かせない存在ですが、このドレッシングがヨーロッパからやってきたサポーターの間で大ヒット。「お土産に」と大きなボトルをそのまま手荷物に突っ込んで飛行機に乗ろうとして、没収される人が続出し、ついに空港の保安検査局(TSA)が、「ランチ・ドレッシングは『液体』ですので、ちゃんとチェックイン荷物にしまってください」と異例の通達を出す羽目に。また、24時間営業のファミレスも新鮮に映るようで、24時間、朝ごはんを提供しているチェーン店「ワッフルハウス」が海外からのサポーターの間で大人気!というのも話題になっていました。
もう一つの例が「バッキーズ」。アメリカでは、長距離トラック運転手をターゲットにしたシャワールームや自動車部品ショップ完備の巨大サービスエリア、ガソリンスタンドのご当地チェーンなどが全米中でしのぎを削っていますが、その中にはコンビニエリアで売っている自社商品に力を入れているチェーンも多いです。例えば、メリーランド州ボルチモアが本拠地の「ロイヤル・ファーム」は自家製フライドチキンが自慢。フィラデルフィアが発祥地のWawaのコンビニエリアのコーヒースタンドでは、コーヒーの種類はもちろん、牛乳からアーモンドミルクまで揃えています。各種クリームや各種甘味料の選択肢の多さでは他の追随を許しません。「バッキーズ」もテキサス州ヒューストンが発祥地のそんなチェーンの一つ。ヘルメットかぶった出っ歯のビーバーをキャラクターにしたこの「バッキーズ」、自慢は自社商品のテキサス風BBQ。私も、テキサスに駐在したことがある日本のビジネスマンの方に「バッキーズのBBQがいかに美味しいか」を熱く語られたことがありますので、地元でもかなり愛されているのだと思います。なんと、このバッキーズが海外からW杯観戦に来たサポーターの間でバズりまくっているとか。日本で東京オリンピックの時に、コンビニごはんがバズったエピソードを思い出しますね。ちなみに、サッカーの国際試合ではすっかり定番になった、日本人サポーターが試合後に、自分たちが観戦していた座席エリアをきれいにゴミ掃除して帰る風景。なんと、今回のW杯では、その日本人サポーターの習慣を「自分たちも見習おう!」という他国のサポーターが続出しているようです。
サッカーの話題ではもう一つ、意外な事実を偶然、CNNのインタビュー番組を見ていて発見!今回のW杯のために、なんと、ホワイトハウスでは一応「タスクフォース」が作られたのですが、その責任者の名前が何と「アンドリュー・ジュリアーニ」。そうです、あのルドルフ・ジュリアーニ元NY市長の息子さん。顔もそうですが、とにかく、話し方や話しているときのちょっとした仕草が、お父さんそっくりで、声まで似ています。そんな彼も、日本人サポーターの試合後の清掃について触れ「サッカーという試合や会場のスタッフに対するリスペクトを感じる」と絶賛していていました。
今回は、最近のアメリカがあまりに殺伐としているので、たまには明るい話題を・・・と思いましてW杯に湧くアメリカの様子をちょっと詳しくお伝えしてみました。こちらの雰囲気を少しでも感じていただければ幸いです。次号からはまた、内政・外交ネタを軸にお届けしたいと思います。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員