キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年12月3日(水)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
2025年もあと1カ月になってしまった。振り返ってみれば今年は例年よりも「疲れる」ことが多かった気がする。何故かな?と考えてみたら、当たり前だった、第二期トランプ政権が始まったからである。1日に「メディアが騒ぐ」ニュースを数本ずつ発信しながら、いずれも整合性がないことを全く意に介さない政権だから、恐れ入る。
ところで、最近は高市首相の「存立危機事態」に関する答弁をめぐる問題ばかり取り上げてきたせいか、他の地域のフォローが疎かになってしまった、と反省している。そこで今回は、久し振りに「ウクライナ戦争」を取り上げたい。それにしても、何故最近筆者はウクライナの話を書かなかったのか?考えてみたら、これも理由は簡単だった。
次の記事を読んで欲しい。12月2日の日経新聞ネット版は「ロシアのプーチン大統領は2日、首都モスクワを訪れた米国のウィットコフ中東担当特使と5時間近く会談した。ロシア政府高官によると、米国が仲介するウクライナ和平案を巡り領土問題で溝が埋まらず進展はなかった。」と報じているが、これに筆者は全く驚かなかった。
驚かなかったどころか、コメントする気にもならない。だって、こんな結末、初めから「分かり切っていた」と思うからだ。決して「後出しジャンケン」ではない。今年夏のアラスカでの米ロ首脳会談の際と同様、トランプ政権の「ウクライナ戦争仲介」の努力には基本的な欠陥があり、恐らく今回もそれが是正されていない、と考えるからだ。
「停戦交渉」成功には、少なくとも当事者の一方に「負けそうだ」と思わせる必要がある。ところが、ロシアは「勝っている」と信じ、当初の戦争目的の遂行に固執している。ウクライナ側も「負けてはいないし、負けられない」と考え、これを欧州諸国は、仮に米国抜きでも、支援せざるを得ないのが実態だ。これでは交渉は進展しない。
このように停戦交渉の基本的「力学」を無視する形で如何に議論を重ねても、進展が見られないのは当然。専門家諸氏は毎日の細かい兆候を解説する必要があるので、どうしても「希望的観測」や「政治的思惑」から、目新しいことを言わざるを得ないのだろう。幸い、専門家でない筆者は「大局」だけを見ているから一喜一憂しないで済む。
筆者の見るところ、汚職問題に直面するウクライナ大統領の内政危機状況を好機と捉え、トランプ政権は「一気に」物事を動かそうとしたのだろう。だが、簡単にロシアが妥協するとは思えないし、欧州諸国も、己の安全保障に直結する大問題だから、黙ってはいられない。まだまだ、「大局が変わる」ゲームチェンジャーは起きていない。
今週もう一つ、気になったのは「サンフランシスコ平和条約」に関する中国側の発言だ。外交部報道官は11月27日の会見で質問に答え、同条約は「不法かつ無効」だとして、次の通り答えている。ちょっと長くなるが、重要なので全文再録する。
【報道官】いわゆる「サンフランシスコ平和条約」は、中国やロシアなど第二次世界大戦の主要当事国を排除した状態で、日本と単独講和を結び、発表した文書だ。この文書は、1942年に中国、米国、英国、ソ連など26ヶ国が署名した「連合国共同宣言」における敵国との単独講和禁止規定に違反し、「国連憲章」及び国際法の基本原則に違反している。台湾の主権の帰属など、非締約国である中国の領土及び主権的権利に関わるいかなる処置も、不法かつ無効である。
高市早苗首相は、十分な国際法上の効力を有し、かつ「中日共同声明」「中日平和友好条約」など二国間文書で明確に強調されている「カイロ宣言」「ポツダム宣言」には触れず、不法かつ無効な「サンフランシスコ平和条約」のみを強調した。これは、高市首相が今日に至るもなお悔い改めようとせず、中日の四つの政治文書の精神によって確立された中日関係の政治的な基礎を損ない続け、国連の権威を無視し、戦後の国際秩序と国際法の基本準則に公然と挑戦し、ひいてはいわゆる「台湾地位未定論」を煽り立てるという思い上がった企てを抱いていることを、改めて示すものだ。これは過ちに過ちを重ねる行為であり、中国側はこれに断固として反対するものであり、国際社会も強く警戒すべきだ。
中国側は改めて日本側に対し、しっかりと反省して過ちを正し、誤った発言を撤回し、中国への約束を実際の行動で表し、国連加盟国として最低限果たすべき義務を実際の行動で履行するよう促す。(人民網より)
うーーん、敢えて細かいコメントはしないが、サンフランシスコが無効なら、カイロ・ポツダムも無効になり得るだろ?「第二次大戦後の国際秩序を否定」しているのは一体どちらなのかなあ?読者の皆さんはどう思われるだろうか・・・。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 12月2日 火曜日 | 米特使ら、ロシア大統領と協議 |
| ウクライナ大統領のアイルランド訪問、アイルランド首相と会談 | |
| 12月3日 水曜日 | 米を除くNATO外相会議(ブラッセル) |
| GCC(湾岸協力機構)年次首脳会議(バハレーン) | |
| エジプトで議会選挙(2日間) | |
| 仏大統領の訪中(3日間) | |
| 12月4日 木曜日 | ロシア大統領の訪印(2日間) |
| 12月5日 金曜日 | 独首相のノルウェー訪問、ノルウェー首相と会談 |
| 12月6日 日曜日 | 独首相のイスラエル訪問、イスラエル首相と会談 |
| 12月7日 月曜日 | 香港で議会選挙 |
最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザで「戦争でも平和でもない」状態が続く中、バチカンが精力的に動いている。ローマ教皇レオ14世は教皇就任後初の外遊先としてトルコとレバノンを訪問、ベイルートでは10万人規模の大規模なミサを開くなど、各地で宗教間の対話と平和共存の重要性を説いた、などと報じられている。日本ではあまり関心がないが、バチカンのカトリック外交は侮れないどころか、潜在的影響力は絶大である。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート48【12月1日版】
<今週以前から続く会議>
11月24日‐12月3日 危険物輸送に関する専門家小委員会第67回会合(ジュネーブ)
11月24日‐12月3日 IMO総会第34回会議(ロンドン)
12月
<12月1日‐12月7日>
1日 インドネシア10月貿易統計発表
1日 インドネシア11月CPI発表
1日‐12月5日 第19回世界水会議 「The World Water Congress」(モロッコ・マラケシュ)
1日‐12月5日 非核兵器地帯問題の包括的研究に関する専門家グループ(ニューヨーク)
1日‐12月5日 UNEP常任代表者オープンエンド委員会第7回会合(ナイロビ)
1日‐12月5日 FAO理事会第179回会議(ローマ)
1日‐12月6日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議第24回会議(デン・ハーグ)
1日‐12月11日 すべての移民労働者とその家族の権利の保護に関する委員会、第41回会議(ジュネーブ)
2日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
2日 南ア第3四半期GDP発表
2日 モーションコントロール、オートメーション、ロボティクス&パワーソリューション 2025(イスラエル・テルアビブ)
3日 韓国の「非常戒厳」宣言から1年
3日 トルコ11月CPI発表
3日‐12月5日 ドイツ連邦共和国大統領の英国公式訪問
3日‐12月6日 「Manufacturing Indonesia 2025」製造業インドネシア2025年(ジャカルタ)
4日 IMO理事会第136回会議(ロンドン)
4日 ブラジル第3四半期GDP発表
4日 米国10月貿易統計発表
4日‐12月6日 「Vietnam Medi-Pharm Expo 2025」ベトナムメディファーマエキスポ2025年 (ベトナム)
5日 ユーロスタット、第3四半期実質GDP成長率発表
5日 米国11月雇用統計
<12月8日‐12月14日>
8日 中国11月貿易統計発表
8日 サウジアラビア第3四半期GDP発表
8日 EU競争力担当理事会(域内市場・産業)
8日‐12月9日 アグロ・マショブ2025(イスラエル・オファキム)
9日 EU競争力担当理事会(研究・宇宙)
9日 メキシコ11月CPI発表
9日‐12月10日 ブラジル中央銀行、Copom
9日‐12月10日 米国FOMC、経済見通し発表
9日‐12月12日 食品展示会「Food Africa」(エジプト・カイロ)
10日 ブラジル11月IPCA発表
10日 カナダ中央銀行政策金利発表
10日 米国11月CPI発表
10日 中国11月CPI発表
10日 ロシア11月CPI発表
10日‐12月13日 国際食品・飲料展示会「Salon international de l'alimentation et des boissons」(モロッコ・カサブランカ)
11日 イスラエル11月財貿易統計発表
11日 トルコ中銀金融政策会議
11日 ブラジル10月月間小売り調査発表
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)
12日 WTOサービス貿易理事会
12日 トルコ11月国際収支統計発表
12日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
12日 フランス11月CPI発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 インド11月CPI発表
<12月15日‐12月21日>
15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 パキスタン中央銀行金融政策決定会合
15日 EU外相理事会
15日‐12月18日 欧州議会本会議
16日 英国労働市場統計(8~10月)
16日 EU一般問題理事会
17日 南ア11月CPI発表
17日 英国11月CPI発表
17日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
17日 米国11月小売統計発表
17日‐12月18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会
18日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
18日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日‐12月19日 欧州理事会(EU首脳会合)
19日 ロシア中央銀行理事会
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
<12月22日‐12月28日>
23日 メキシコ11月貿易統計発表
24日 メキシコ11月雇用統計発表
24日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
24日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
26日 ケニア12月CPI発表
26日 インド11月IIP発表
28日 ミャンマー総選挙
28日 中央アフリカ大統領・国民議会議員選挙
<12月29日‐2026年1月4日>
30日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
31日 トルコ11月貿易統計発表
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 ロシア大統領がインド訪問
12月中 ギニア大統領・国民議会議員選挙
2026年1月
1日 ロシアで改正国税基本法施行(付加価値税引き上げ、賭博税の導入など)
1日 トルクメニスタンがCISの議長国に
1日 カザフスタンがユーラシア経済連合の議長国に
4日‐1月5日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表
6日 2025年第4四半期及び通年のベトナム社会・経済統計発表(GDP、CPI)
7日 ドイツ11月労働市場統計発表
8日 米国11月貿易統計発表
8日 メキシコ2025年12月CPI発表
8日 ブラジル2025年11月鉱工業生産指数発表
9日 メキシコ2025年11月鉱工業生産指数、12月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 ブラジル2025年12月IPCA発表
9日 米国12月雇用統計
9日‐1月12日 プラスチック素材・加工関連展示会「PLASTEX」(カイロ)
12日 インド12月CPI発表
13日 米国12月CPI発表
13日 アルゼンチン2025年12月CPI発表
15日 ブラジル2025年11月月間小売り調査発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
16日 ドイツ12月CPI発表
18日 ポルトガル大統領選挙
19日‐1月22日 欧州議会本会議
19日‐1月23日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
20日 アルゼンチン2025年12月貿易統計発表
20日‐1月22日 国際先進製造業および未来のモビリィティ展示会「World Advanced Manufacturing & Future Mobility(WAM)」(カサブランカ)
21日 英国2025年12月CPI発表
21日 アルゼンチン2025年11月経済活動月間指数発表
21日 メキシコ2025年11月小売・卸売販売指数発表
21日 南ア12月CPI発表
22日 アルゼンチン2025年11月百貨店およびスーパーマーケット消費指数発表
26日 メキシコ2025年12月雇用統計発表
26日‐1月27日 アジア金融フォーラム(香港)
26日‐1月28日 サイバーテック・グローバル・テルアビブ2026(テルアビブ)
26日‐1月30日 Gulfood2026(UAE・ドバイ)
27日 欧州議会本会議
27日 メキシコ2025年12月貿易統計発表
27日‐1月28日 ブラジル中央銀行、Copom
27日‐1月28日 米国FOMC
28日 インド12月IIP発表
29日 米国第4四半期(速報値)および2025年通年GDP発表
30日 ブラジル2025年12月全国家計サンプル調査発表
30日 フランス第4四半期GDP成長率(速報値)発表
31日 ケニア1月CPI発表
1月上旬 中国2026年の主要統計の発表日程公表
1月上旬 中国2025年通年貿易統計発表
1月中旬 中国2025年通年経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
1月下旬 韓国2025年第4四半期および通年GDP(速報値)発表
1月下旬 イラン暦10月CPI発表
1月中 韓国2025年12月および通年貿易統計発表
1月中 韓国2025年12月および通年雇用統計発表
1月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
1月中 WTO2025年第3四半期サービス貿易統計発表
1月中 OECD2025年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問