外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年1月14日(火)

デュポン・サークル便り(1月13日)

[ デュポン・サークル便り ]


明けましておめでとうございます。今年も「デュポン・サークル便り」をよろしくお願い申し上げます。

ワシントンは1月6日の週は2年ぶりの大雪でほぼ機能不全。連邦政府は1月7日には再開したものの、ワシントン近郊の幼稚園~高校は皆、1月8日まで休校、9日も2時間遅れの始業となりました。子供はみんな、冬休みがほぼ1週間延長になったので、家でガッツポーズをしていましたが、親は大変。来週からの学校の通常始業を、各家庭の親御さんたちは切望しています。日本も、北日本、特に日本海側は大雪と共に年明けを迎えたようですが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

さて、ワシントンは、トランプ政権発足まで1週間となりました。11月の大統領選挙以降、我々のような仕事の人間の週末や旧祭日を台無しにしまくってくれたトランプ次期大統領ですが、「トランプ劇場シーズン1.0」の勢いは衰えることを知りません。昨年の暮れには、「連邦政府効率化省(Department of Government Efficiency)」(早くもDOGEという略語で知られるようになりました)を主導する役割を担っているイーロン・マスクとヴィヴェック・ラムスワミー両氏が、高度な専門知識と技術を持つ外国人をアメリカで雇用するための就労ビザ(H1-B)の是非を巡り「アメリカ人労働者の雇用を奪うプログラムだ!撤廃を!」と主張するトランプ次期大統領の岩盤支持層の人々と、オンラインで大激論を交わしました。この件は、トランプ次期大統領本人が「自分もH1Bビザ保持者をたくさん雇っている。あのプログラムは素晴らしいプログラムだし、自分は(継続を)支持する」と発言したことで現時点ではいったん収まっていますが、改めて移民問題がいかにアメリカの世論を二分する問題になっているかが浮き彫りになりました。

また、ピート・ヘグセス国防長官指名や、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官指名が、上院で承認されるかどうかも相変わらず不透明なまま。特に、ヘグセス氏は、指名された当初から大組織の長として経験が皆無なことが問題視されていましたが、その後も、女性の軍における役割についての問題発言や、公衆の面前で朝から酩酊状態であるところを目撃されたことがあるなど、素行に問題があることを窺わせる事実がその後つぎつぎと浮上。そのため、共和党上院議員が6人も、彼の指名を支持しない意思を明らかにしてしまい、そのため、ヘグセス氏は12月以降、この6人の一人一人と面会し、弁明に明け暮れています。

ですが、今でも彼の指名に首を縦に振らないのは3人の女性共和党上院議員。このうちの2人は、リサ・マカウスキー上院議員とスーザン・コリンズ上院議員という、今では絶滅危惧種に近い穏健派共和党上院議員で、もともと、トランプ次期大統領との関係が微妙な二人なので、ある意味、彼女たちの反対は「想定内」。ですが、3人目のジョニ・アーンスト上院議員は、ちょっと事情が違います。彼女は熱烈なトランプ支持者ではありませんが、どちらかといえば保守的な上院議員。ですが、彼女自身は、大学卒業後、2015年に中佐で退官するまで20年以上陸軍予備役に在籍、クウェートやイラクに派遣されたこともあるという立派な軍歴を持つだけではなく、ヘグセス氏の指名承認公聴会を主管する上院軍事委員会の委員も務めています。また、上院共和党政策委員会委員長でもあり、上院共和党議員の中での序列も4番という重要人物なのです。しかもこの彼女は、前夫からDVを受けた経験があることや、軍在籍中にセクハラを受けたことなどを公表しており、超党派で米軍内の性的嫌がらせや性暴力に対してより厳しく対応するための法案も率先して推進しているのです。そんな彼女にとって、ヘグセス氏の素行は、とても看過できない、というわけ。

12月上旬の時点のアーンスト上院議員の立場は「(ヘグセス氏の指名について)まだ支持を表明できる状態ではない」というものでした。その後、少し立場が「反対→反対はしない(でも積極的賛成でもない)」ところまで態度が軟化した可能性が伝えられてはいるものの、公聴会が始まってみるまでは先行き不透明です。

また、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官指名も、ポリオの予防接種を撤廃すべきだ、などの問題発言を続けており、彼についても、年末に共和党上院院内総務は引退したものの重鎮の共和党上院議員の一人であることに変わりはないミッチ・マコーネル議員が「軽率な発言はしないように」と警告を発するなど、こちらも波乱含みの公聴会になることが予想されます。

それだけではありません。年始から、カリフォルニア南部の海沿いの高級住宅街が強風のために急速に広がった山火事で全焼。トランプ次期政権は、政権発足早々、この問題への対応に追われることがほぼ確実で、政権発足後、閣僚・準閣僚人事をやっている最中に、同時並行で危機管理能力も問われることになりそうです。なんともまぁ、波乱の年明けとなりました…。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員