外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年5月26日(火)

デュポン・サークル便り(5月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


この週末(5月23~25日)、アメリカでは建国以来、アメリカが戦ってきた戦争で命を落とした軍人を追悼する「メモリアル・デー」の3連休。この週末以降がアメリカでは「夏シーズン」と認識されるため、各地でプール開きや、夏季のみ営業のアイスクリーム屋さんの店開きなどがあります。ですが、ワシントン近郊のお天気は、週末を通じて、雨、雨、雨。湿度はあるものの、気温はほとんど上がらないため、どこのプールも閑散としています。日本の皆さんは、いかがお過ごしでしょうか。

家族で過ごす、というイメージが強いこのメモリアル・デーの週末。そのため、例年、陸路、空路での移動量が激増します。しかもなんと我が家のティーエイジャーは、その前の日の22日(金)も教員研修のため学校が休校だったので、4連休。本来であれば、せっかくの機会を利用として、木曜の夜ぐらいから母子旅行に出かけるところです。が!閉鎖が続くホルムズ海峡のおかげで、ガソリン価格は全米平均で、1ガロン(約4リットル)あたり、衝撃の$4.56ドル。去年の平均価格$3.19を$1.50ドル以上上回る値上がりです。またガソリンが上がれば当然、航空機が使うジェット燃料も上がるため、空路でどこか行こうにも軒並み運賃が去年と比べると2割、3割増しは当たり前。さらにホテル代も軒並み上がっている現状では、7月の里帰りに向けて母子二人分の航空券を購入してしまった後の今では、とても家計がそれを許しません。というわけで、友達と映画を見に行きたいという息子の要望に応えた以外は、母子ともに家でダラダラ、ゴロゴロ、いわゆる「ステイケーション」で過ごしました。まぁ、これはこれで、久しぶりにのんびりできて良かったですが・・・

ただ、問題は、我が家のような状態が、全米のご家庭でほぼもれなく起きているということです。特に、ガソリン価格の急騰は、インフレ率上昇もこれに加わり、「普通の人々」の家計を直撃。メモリアル・デー直前のニュースでは「孫に会いに行きたいけど、年金暮らしの身ではムリ」という年配のご家庭の声などが頻繁に報じられました。

そんななか、「ウィークエンド・クラッシャー」のトランプ大統領、またやってくれました。週末に「イランとの合意は間近」と突如「トゥルース・ソーシャル」で発信。この発信があった直後にはホワイトハウスのすぐ横で発砲騒動もあり、せっかくの3連休がニュースのフォローで忙殺される結果となってしまいました。とは言え、強気の発信から数日が経過した今も、交渉は依然として継続中。しかも、いわゆる「了解覚書」の内容が、オバマ政権が署名、トランプ大統領が第1次政権時に、さんざんこき下ろした挙句、アメリカを脱退されたイラン核合意(JCPOA)の内容と「大して変わらないじゃないか!」という批判も噴出。何が起きているのかよくわからない中、ホルムズ海峡がイランにより閉鎖された状態は変わらず、なのでガソリン価格も上昇傾向が沈静化する気配は微塵も見えないのでした・・・

さらに、内政でもトランプ政権、というよりトランプ大統領が何を目指しているのかわからない動きが加速。最もわかりやすい例が、5月18日に、突然司法省が発表した、その名も「反(司法の)兵器化基金(Anti-Weaponization Fund)」。要は、保守系の団体や個人で、バイデン政権時に司法省の捜査の対象になった人に対する救済措置なのですが、一般の国民の家計を物価高が直撃する中で、議会への根回しもなく突然発表された、総額180億ドル近い規模のこの基金。しかも、これを発表した司法省のトッド・ブランチ長官代行は、この基金が2021年の連邦議事堂襲撃事件の際に議会警察官を襲撃した人にも適用されるのかどうかについて、「彼らは救済措置の対象外」とはっきり言おうとしません。

この発表を受けて、どう見ても生活になんか困ってないアメリカ版「ネトウヨ」の若者が、オンラインインタビューで「僕、さっそく申請した!金額?3500万ドルぐらいかな~。あの事件後にはネットで批判されて結構迷惑したし、まぁ、このくらいが妥当でしょ」といったお気楽発言が映像で流れるなどしたことで、さすがの議会共和党も堪忍袋の緒が切れた模様。同基金について共和党上院議員に説明するために非公式昼食会に出たブランチ司法長官代行は、議員から怒声、罵声の集中砲火を受けました。その結果上院共和党は、トランプ大統領がなんとしてもメモリアル・デーの3連休前に可決してほしかった国土安全保障省の予算法案に投票しないまま、休会に突入。「ようやく、議会がトランプに反抗したみたいよ」と、メディアでも話題になりました。特に、トム・ティリス上院議員の、「この提案は政治的にも政策的にも、ステロイドで増強された馬鹿さ加減(stupidity on steroid)」というフレーズは、あっというまにSNSをはじめとするメディアで「最高のキャッチコピー」として拡散していました。

また、先週は、ケンタッキー州やルイジアナ州で、同僚議員に支持されていたキャシディ上院議員(ケンタッキー州)、マッシー下院議員(ルイジアナ州)などの現職議員が、トランプ大統領の支持表明を受けた対立候補に次々と敗退。このお二人、投票行動の95%以上はトランプ大統領のアジェンダを支持していたのに、エプスタイン疑惑などでトランプ大統領に批判的な立場をとったことで大統領の不興を買い、予備選で敗退してしまいました。この戦績(?)に気をよくしたのか、トランプ大統領はさらに、テキサス州で5月27日(火)の決選投票に向け泥沼の選挙戦が続くテキサス州の上院議員選挙でも、現職のコーニン上院議員ではなく、対立候補のパクストン・テキサス州検事総長への支持を表明しました。

ですが・・・この一連の動き、どれも結果的に民主党、あるいは共和党内の反トランプ勢力に「塩を送る」結果になってしまう可能性が大。まず、予備選で負けたことで今季限りでの失職が確定したキャシディ上院議員とマッシー下院議員の二人。このお二人、どちらも議員歴が長いので、上院、下院それぞれで重要な委員会の委員に名前を連ね、小委員会の委員長職を務めているケースも。また、失職決定とは言え、まだ議員としての任期は半年以上残っています。既にマッシー下院議員は敗退後のインタビューで「しょんぼり」するどころか「まだ残っている任期中自分が間違っていると思ったものには、流れに逆らって反対の声を上げ続ける時間はたくさんある」と、トランプ大統領に堂々と「宣戦布告」。米連邦銀行総裁人事で、今季限りでの議員引退を表明しているティリス上院議員もジェローム・パウエル前議長に対する刑事捜査を司法省が中止するまでは、トランプ大統領に指名されたケビン・ウォーシュ議長候補の指名人事を絶対に認めないと徹底抗戦の構えを見せるなど、司法省がパウエル前議長への捜査を取り止めざるを得ない状況になるという前例を作っています。上院ではキャシディ議員が「トランプ憎し」の手伝いでティリス議員と行動を共にする可能性は十分にあります。また下院も共和党が過半数を首の皮一枚でなんとか維持できている状況なので、マッシー議員が「ノー」と言えば法案を可決しようにも票が足りない、というジョンソン下院議長にとっては困った事態になる可能性大です。しかも、そんな中で、まだまだ、議会には来年度の政府予算案成立という大仕事がまるっと残っているのですから、ジョンソン下院議長とスーン上院共和党院内総務の悩みの深さは、察するに余りあります。

さらに現在、共和党の議会指導部の懸念がMAXなのが、テキサス州上院選。トランプ大統領が支持を表明したパクストン州検事総長は、実はスキャンダルまみれ。さらに現在、現妻との泥沼離婚劇が進行中で、本選の選挙中に離婚裁判が始まります。つまり、すでに出てきているスキャンダルに加えて、離婚裁判が進むにつれて、もっと「ほこり」が出るのは、ほぼ確実。そんな彼を民主党側で迎え撃つのは・・・そうです、「聖職者の資格を持つ敬虔なキリスト教信者」「聖書を引用しながらトランプ政権批判を展開し寛容を説く」という、民主党候補らしくないジェームズ・タラリコ候補。彼からスキャンダルが出そうな気配はほぼ皆無で、すでに彼の選挙区には相変わらず民主党のコアな支持者に大人気のオバマ元大統領が入り、タラリコ候補と一緒に選挙区を回るなど活発な動きを見せています。一部には「タラリコ、これで上院議員になったら、オバマみたいに、上院議員1年目の任期半ばで大統領選に出るんじゃね?」という仰天シナリオを囁く気の早い人も。

支離滅裂な大統領に毎日振り回され、中間選挙での「一番の負け組」が決定しそうな議会共和党なのでした・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員