外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年12月9日(火)

外交・安保カレンダー (12月8日-14日)

[ 2025年外交・安保カレンダー ]


先週、第二期トランプ政権の「国家安全保障戦略」が漸く発表された。日本や韓国のメディア報道は、案の定、次のような見出しばかり。「がっかり」というか、「情けない」というか、「もっと広い視野で見てくださいな」と言いたくなるところだが・・・・、そこは我慢して、まずは次のような日本メディアの典型的なヘッドラインから見てほしい。

  • 米、台湾・南シナ海での衝突回避に同盟国に負担増要請 安保戦略
  • 台湾紛争抑止で日本・韓国に防衛費増額求める 戦略全体では「アメリカ第一」鮮明に
  • 木原官房長官、米安保戦略を評価
  • [沖縄タイムズ社説]沖縄の負担増はノーだ:同盟国に対しては手厳しく、軍事大国のロシアや中国に対しては批判を抑え、北朝鮮への言及はなし。

一方、韓国メディアも似たようなものだった。

  • 韓・日・欧に「自ら防衛の責任を負うべき」…3年間で一変した米国の安保戦略
  • 韓国に中国けん制への参加を露骨に求めた米国の新国家安保戦略

記事を執筆した記者たちは、本当にこのNational Security Strategy 2025を全文しっかりと読んだ上で書いたのかねぇ?もし読んでいたら、こんなヘッドラインにはならないと思うのだが・・・。なお、筆者は前回(3年前)のバイデン政権版「National Security Strategy 2022」も全文読み返し、新旧の文章を比較した上で書いている。

上記記事のヘッドライン、いずれも間違いではないのだが、決して第二期トランプ政権の「国家安全保障戦略」の本質を突くものではない。おいおい、お前、偉そうなことを言うな、などとお叱りを受けそうだが、そう思うのだから仕方がない。では、筆者が記事を書くとしたら、どんな「見出し」にするか?恐らく、こんな具合だろう。

  • 「建前」から「本音」へ、様変わりした?米「国家安全保障戦略」
  • 文体は、学者的・官僚的抽象表現から、高校生レベルの平易な具体論へ
  • 内容も、「あれもこれも」の「総花的」記述から、優先順位を示した率直表現へ
  • 消えたキーワード:北朝鮮、ロシア、民主主義・権威主義、テロ、パンデミック
  • 良く言えば「分かり易い」が、悪く言えば「独りよがり」の民主党批判ばかり
  • さすがはトランプ政権、以前なら「部外秘」に近い「注釈」を敢えて公言している
  • だが、内容と文体こそ一変したものの、米戦略の「本音」は変わっていない

日本語で書かれた記事の中に一つ、「21世紀版モンロー主義」 「トランプ・コロラリー」に言及したものがあった。また、BBCは「ロシア政府、米国家安全保障戦略を前向き評価、自分たちの見方に沿うものだ」と報じていた。こちらの方がよっぽど今回の文書の本質を突いていると思うのだが・・・

筆者の言う「本質」とは、米国が、最も重視する中国との競争に勝つため、同盟国の負担増だけでなく、「西半球の守り」を確実なものとし、米国内製造業を再建する必要があるという、「本音」を隠さなくなったということだ。以上の点については今週のJapan Timesに寄稿する予定だが、ここでは筆者が特に重要だと思う点を書いておく。

  • 地域で見れば、トランプ政権の戦略的優先順位は、まず①西半球(南北米大陸)、次いで②アジアであり、③が欧州、④が中東で、最後が⑤アフリカとなっている
  • これに対し、バイデン政権版の優先順位は、①インド太平洋、②欧州、③西半球、④中東、⑤がアフリカで、ご丁寧に⑥北極海、⑦海洋、上空、宇宙まで加えていた
  • 文量面でも、バイデン政権は「総花的」だったから、各地域をほぼ平等に取り扱い、文量としてはA4で約1ページ半弱ずつ、ほぼ同程度の字数で説明を行っている。
  • これに対し、トランプ政権は、①まず西半球に3ページ半、②アジアにほぼ6ページ費やす一方、 ③欧州には2ページ半、④中東は2ページ弱、⑤アフリカは半ページしか割いていない。要するに、優先順位が最も高いのは西半球とアジアなのだ。
  • アフリカは仕方ないとしても、欧州や中東の住人・専門家が読んだら、薄々気付いていたとはいえ、やはり、少なからぬショックを受けるのではないか。これが今回発表された戦略の本質だと筆者は見る。

詳しくはJapan Timesのご一読を願い申し上げる。

もうひとつ、今週日本のメディアで大きく報じられたのは「中国軍機によるレーダー照射」事件である。これについての筆者のコメントは次の通りだ。

  • 中国側の偶発的な操作ミスや勘違いである可能性は限りなく低い
  • 操縦士の独断か、末端司令部の判断かは不明、党中央指示の可能性は低い?
  • 高市答弁に怒っている指導部に対する「人民解放軍」からの忖度の可能性高い
  • ただし、高市答弁がなくても、この事件が起きていた可能性は高い
  • 日米等で新しい政権が発足すると、人民解放軍は必ず新政権を「テスト」してきた
  • 日本側がこうした事態を予測していなかった筈はなく、対応は冷静だった・・・

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

12月9日 火曜日  ウクライナ大統領訪伊、イタリア首相と会談
ルーマニア大統領訪仏、フランス大統領と会談
欧州理事会議長アイルランド訪問、同国首相と会談
アルメニア首相訪独、ドイツ首相と会談
12月10日 水曜日  クロアチア首相訪独、ドイツ首相と会談
セルビア大統領ブラッセル訪問、欧州理事会議長・欧州委員会委員長と会談
12月11日 木曜日  NATO事務総長訪独、ドイツ首相と会談
12月12日 金曜日  ベルギー首相訪英、イギリス首相と会談
パレスチナ自治政府大統領訪伊、イタリア首相と会談
12月14日 日曜日  チリで大統領選挙



最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザで「戦争でも平和でもない」状態が続く中、12月8日はシリアのアサド政権が崩壊してから一周年に当たる。その間、シリア暫定政府のアッシャラ大統領が訪米し対米関係の改善が見られるなど、シリアをめぐる情勢は大きく変わりつつある。勿論、シリアがこのまま安定していくという保証はない。国内では今も断続的に戦闘が続いているようであり、特に、アサド親子をはじめ旧政権で権勢を振るった「アラウィ派」の住民に対する迫害や攻撃が続いているとも報じられる。シリアの安定は「まだまだ」だが、シリアが安定しなければレバントの安定もあり得ない・・・。今週はこのくらいにしておこう。

2025年重要日程レポート49【12月8日版】

<今週以前から続く会議>

12月1日‐12月11日 すべての移民労働者とその家族の権利の保護に関する委員会、第41回会議(ジュネーブ)

12月

<12月8日‐12月14日>

8日 中国11月貿易統計発表
8日 サウジアラビア第3四半期GDP発表
8日 EU競争力担当理事会(域内市場・産業)
8日‐12月9日 アグロ・マショブ2025(イスラエル・オファキム)
8日‐12月12日 UNEP、国連環境総会、第7回会議(ナイロビ)
8日‐12月12日 UNCITRAL、第5作業部会(倒産法)、第67回会合(ウイーン)
8日‐12月12日 IFAD執行理事会第146回会議(ローマ)
9日 EU競争力担当理事会(研究・宇宙)
9日 メキシコ11月CPI発表
9日‐12月10日 ブラジル中央銀行、Copom
9日‐12月10日 米国FOMC、経済見通し発表
9日‐12月12日 食品展示会「Food Africa」(エジプト・カイロ)
10日 ブラジル11月IPCA発表
10日 カナダ中央銀行政策金利発表
10日 米国11月CPI発表
10日 中国11月CPI発表
10日 ロシア11月CPI発表
10日‐12月13日 国際食品・飲料展示会「Salon international de l'alimentation et des boissons」(モロッコ・カサブランカ)
11日 イスラエル11月財貿易統計発表
11日 トルコ中銀金融政策会議
11日 ブラジル10月月間小売り調査発表
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)
12日 WTOサービス貿易理事会
12日 トルコ11月国際収支統計発表
12日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
12日 フランス11月CPI発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 インド11月CPI発表

<12月15日‐12月21日>

15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 パキスタン中央銀行金融政策決定会合
15日 EU外相理事会
15日‐12月17日 細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約締約国会議、年次会議(ジュネーブ)
15日‐12月18日 欧州議会本会議
15日‐12月19日 UNCITRAL、第6作業部会(流通貨物書類)、第47回会合(ウイーン)
15日‐12月19日 国連腐敗防止条約締約国会議第11回会議(ドーハ)
16日 英国労働市場統計(8~10月)
16日  EU一般問題理事会
17日 南ア11月CPI発表
17日 英国11月CPI発表
17日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
17日 米国11月小売統計発表
17日‐12月18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会
18日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
18日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日‐12月19日 欧州理事会(EU首脳会合)
18日‐12月19日 日銀金融政策決定会合
19日 ロシア中央銀行理事会
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表

<12月22日‐12月28日>

23日-12月24日 メキシコ11月貿易統計発表
24日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
24日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
26日 ケニア12月CPI発表
26日 インド11月IIP発表
28日 ミャンマー総選挙
28日 中央アフリカ大統領・国民議会議員選挙

<12月29日‐2026年1月4日>

30日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
31日 トルコ11月貿易統計発表
31日 米FOMC議事要旨
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 ロシア大統領がインド訪問
12月中 ギニア大統領・国民議会議員選挙

2026年1月

1日 ロシアで改正国税基本法施行(付加価値税引き上げ、賭博税の導入など)
1日 トルクメニスタンがCISの議長国に
1日 カザフスタンがユーラシア経済連合の議長国に
4日‐1月5日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表
6日 2025年第4四半期及び通年のベトナム社会・経済統計発表(GDP、CPI)
7日 ドイツ11月労働市場統計発表
8日 米国11月貿易統計発表
8日 メキシコ2025年12月CPI発表
8日 ブラジル2025年11月鉱工業生産指数発表
9日 メキシコ2025年11月鉱工業生産指数、12月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 ブラジル2025年12月IPCA発表
9日 米国12月雇用統計
9日‐1月12日 プラスチック素材・加工関連展示会「PLASTEX」(カイロ)
12日 インド12月CPI発表
13日 米国12月CPI発表
13日 アルゼンチン2025年12月CPI発表
15日 ブラジル2025年11月月間小売り調査発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
16日 ドイツ12月CPI発表
18日 ポルトガル大統領選挙
19日‐1月22日 欧州議会本会議
19日‐1月23日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
20日 アルゼンチン2025年12月貿易統計発表
20日‐1月22日 国際先進製造業および未来のモビリィティ展示会「World Advanced Manufacturing & Future Mobility(WAM)」(カサブランカ)
21日 英国2025年12月CPI発表
21日 アルゼンチン2025年11月経済活動月間指数発表
21日 メキシコ2025年11月小売・卸売販売指数発表
21日 南ア12月CPI発表
22日 アルゼンチン2025年11月百貨店およびスーパーマーケット消費指数発表
26日 メキシコ2025年12月雇用統計発表
26日‐1月27日 アジア金融フォーラム(香港)
26日‐1月28日 サイバーテック・グローバル・テルアビブ2026(テルアビブ)
26日‐1月30日 Gulfood2026(UAE・ドバイ)
27日 欧州議会本会議
27日 メキシコ2025年12月貿易統計発表
27日‐1月28日 ブラジル中央銀行、Copom
27日‐1月28日 米国FOMC
28日 インド12月IIP発表
29日 米国第4四半期(速報値)および2025年通年GDP発表
30日 ブラジル2025年12月全国家計サンプル調査発表
30日 フランス第4四半期GDP成長率(速報値)発表
31日 ケニア1月CPI発表
1月上旬 中国2026年の主要統計の発表日程公表
1月上旬 中国2025年通年貿易統計発表
1月中旬 中国2025年通年経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
1月下旬 韓国2025年第4四半期および通年GDP(速報値)発表
1月下旬 イラン暦10月CPI発表
1月中 韓国2025年12月および通年貿易統計発表
1月中 韓国2025年12月および通年雇用統計発表
1月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
1月中 WTO2025年第3四半期サービス貿易統計発表
1月中 OECD2025年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問