外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2026年10月16日(金)

デュポン・サークル便り(10月16日)

[ デュポン・サークル便り ]


「コロンブス・デー(10月12日)」の3連休明けの今週は、とにかく寒暖の差が激しい1週間でした。週の前半は真夏みたいなお天気だったのに、この原稿を書いている今日(10月15日)は、明け方の気温が一番高く、夜にかけてどんどん気温が落ちる、という変な天気。でも、明日(10月16日)はもう一回、生暖かくなり、その直後に気温がドーンと落ちるんだそうです。当然、私のまわりではこの寒暖の差に付いていけずに体調を崩す友人が続出。インフルエンザも既に流行り始めています。いや~、さっさと予防接種しておいてよかったです。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

いよいよ、中間選挙まで待ったなしの期間に突入したアメリカ。テレビをつけると毎日のようにミシガン、テキサス、ニューハンプシャーなど、特に上院選がどっちに転んでもおかしくない接戦になっている州のニュースばかりです。そんな中、10月12日にテレビ局各局がトップニュースで報じた、再選を目指して選挙活動を続ける現職のソマリア系アメリカ人のイリハナ・オマール民主党下院議員に対する移民法違反疑惑も、燻っています。先日ニュースになった家宅捜索の際は本人のパスポートなども捜査員が没収してしまい、同議員の家族・親族10数名に対し召喚状まで出たことが判明。さすがにここにきて民主党議員はもちろん、普通なら民主党議員の弁護になんか絶対に回らないマジョリー・テイラー・グリーン前下院議員すら自身の「X」でトランプ政権批判を始めました。曰く「イリハナ・オマールと私は、政策ではこれ以上ないぐらい立場が違う。でも、トランプ政権が、彼女を強制送還するふりをすることで物価が下がるわけでも、ガソリンが安くなるわけでも、勝手に中東で始めた戦争に行かされてる米軍兵士が戻ってくるわけじゃない。こんな出鱈目はもうこりごり!」だそうです。トランプ大統領と喧嘩別れして下院議員を辞めただけに、もう遠慮のかけらもないですね。。。。

ただ、彼女の言い分も尤もです。というのもFOXニュースが先週10月9~12日に実施した世論調査の結果を今日様々なメディアが報じているのですが、それによるとトランプ大統領の支持率はわずか36%。調査したのがFOXニュースですから、調査対象の有権者は最初から共和党よりのはずなのに、この結果なのです。しかも「今回の選挙であなたにとって最も大事なイシューは何ですか」という答えに60%の有権者が「経済」を挙げています。中間選挙の投票日まで2週間半だというのに、「トランプ大統領のインフレ政策」に対する支持率はわずか22%、さらに、74%の人が現在の経済状態を「悪い」と感じている、という結果も。まぁ、ガソリン入れるたびに値段が上がっている今の現状ではそうなりますよね・・。先週末に連邦政府の労働統計局が発表したデータによると、物価上昇率は3.7%と大幅にアップしていることが昨日報じられました。この数字が投票日の迫る共和党にとっていかに「逆風度」を高めるか、が喧々諤々議論されていたばかり。そこに来て、FOXニュースが実施した世論調査でさえトランプ大統領の支持率が40%に届かないという数字。鈍感力抜群のトランプ大統領はともかく、このニュースを「来年以降、議員になれるのか、それともただの人になってしまうのか」がかかっている全米の共和党候補はどのような気持ちで受け止めたでしょうか。候補者本人もそうですが、候補者を支えるスタッフの士気への影響も気になるところです。

そんな中、昨日(10月14日)の夜にちょっと面白い企画があったので、珍しくCNNの夜の政治番組を、途中でチャンネルを変えずに、最初から最後まで見る機会がありました。中身は、この「デュポン・サークル便り」で何度もご紹介している、「テキサス州でロイド・ベンツェン元財務長官以来初の民主党上院議員になれるか?」と話題の、聖職者の資格も持つジェームズ・タラリコ上院議員候補が登場し有権者と1時間、集会方式で対話をする企画でした。さらに、CNNはこの番組でこれまで似たような番組ではなかった「あなたの考えを変えます」なる時間枠を設定。会場の中から無作為に選ばれた出席者(テキサス州内の本物の有権者)が、会場のステージに設定された対面式のテーブルで、タラリコ候補に1対1で自分が一番気になる質問をしつつ対話をする、という企画。当たり前ですが、生放送なので、ぶっつけ本番です。

興味本位で深く考えずにこの番組を見始めたのですが、見終わった感想は・・・「タラリコ、立派じゃん」が素直な感想でした。その理由は二つ。一つは、どんな質問についても彼の答えが「鋭い質問をありがとう」「とても重要な問題ですね、ありがとう」と必ず、質問者に感謝することから始まっていたこと。中には、かなり攻撃的なトーンで質問を早口にまくしたてる人もいて、普通の神経の人間だったらつい、そのまま口論に発展してしまうようなシチュエーションも何度かあったのに、彼が、この一言で答え始めたことで、それまでの緊張した空気がすっと柔らかくなりました。

さらに、彼は、一度も質問者の問題意識を全否定しないのです。「この問題については私とあなたは、お互いの倫理観やロジックで、違う結論に達しているようですね」と、相手の主張が自分とは平行線であることを受け入れた上で、「でも私もあなたも、●●という結果を求めている、という点では共通しているのではありませんか?だったら、むしろ、共通の目的に向かって一緒に努力しよう、と考えることはできませんか?」と話を進めていました。自分の意見を全否定されなかった有権者は、切り返しのトーンが鈍ります。結果、なんとなく、彼のペースで議論が進むのです。

さらにいうと、タラリコ候補自身は、最初から最後まで、どんな厳しい質問を投げかけられても、一度も笑顔を絶やすことも、口調を荒げることもなく、淡々と語り続けました。これで会場全体が最近のアメリカではめったに見かけなくなった「まぁ、とにかく座って、話し合いましょうよ」という雰囲気に。これにはびっくりしました。

この番組の直後に放送された民主党系、共和党系それぞれの政治評論家が登場する番組では、この番組を最初から最後まで見ていたと思われる、クリントン政権時代に大活躍したクリントン大統領の側近の一人のポール・ベガラが「こいつ、すごい!」と大興奮。2004年民主党大会で、当時はイリノイ州上院議員で、州外ではほとんど無名だったオバマ大統領が一気に知名度が全国区になり、あれよあれよという間にその4年後には大統領になった時を例に出して「2004年民主党大会で、一人のやせっぽちの青年が初めて大舞台で演説した。今日のタラリコはあの時の彼(←オバマ)を思い出させる」と大絶賛していました。このベガラ氏、これまでオバマ以外の民主党大統領候補のこの種の大舞台での演説にはほぼまんべんなく辛口だった人なのですが、そんな彼がここまで褒めちぎったことにも、かなりびっくりしました。

 

「へぇ、タラリコって、意外と面白いなぁ」と思いながら迎えた今朝、もうひとつ面白いニュースがありました。先週はヘグセス戦争長官が「朝のワークアウトで海兵隊についていけなかった」という間抜けな話題を提供したり、すでに死刑判決が軍法会議の結果出ている、数年前に発生したテキサス州フッド陸軍基地で起きた銃乱射事件の犯人の銃殺刑執行を生放送すると発表したりで全米を驚愕させた話をお伝えしました。そのヘグセス長官が上司のトランプ大統領にあっさりと「はしご」を外されてしまったようです。共和党内からも猛バッシングが起きたからか、はたまた「そんなことすると、テロリストに格好の人材募集映像を提供するだけ」という説得が功を奏したのか、トランプ大統領は今朝唐突に「処刑の映像は犠牲者の家族にだけ視聴する機会がオファーされる」と発表したからです。

実は、今のヘグセス長官は、おそらくトランプ大統領目線でいえば、「弾薬足りません」事案で1アウト、今回の「処刑を生放送する・しないを勝手に決めた」事案で2アウト。あと一回、何かやらかすと、3アウトで退場になるのではないか、という気がして仕方がないのですが・・・・、さて、その3アウトになる「ダメ押し」とはどんな事案なのでしょうか。

                                                                                                                                                          (了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員