キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年12月17日(水)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
早いもので、今年も残りあと二週間しかない。今週月曜日には、筆者の所属するキヤノングローバル戦略研究所が「年末だよ、全員集合」なるイベントを開催した。昨年に続く開催だったが、我らが研究所・外交安保ユニットの5人の精鋭研究員が勢揃いして2025年を振り返るという趣向であり、それなりに盛り上がったと思う。
米韓中露から中東、開発援助まで、(それを言っちゃ終わりだが)これだけの研究者が揃うチームは決して多くないはず。彼らが夫々独自の視点で今年の国際情勢を回顧するのだから、モデレーターの筆者自身大いに勉強になった。参加者の方々も官学メディアなど、その道の専門家ばかり、恐縮するほどレベルが高かったと思う。
冒頭筆者は各人に「2025年に最も驚いたこと」を挙げてもらい、それぞれについて驚いた理由とその歴史的意味や今後の見通しについて語ってもらった。詳細はオフレコ、チャタムハウスルールなので書けないが、概要だけは今週の産経新聞WorldWatchで触れている。できれば御一読願いたいが、ここでサワリだけ言うと、研究員たちが「驚いた」のは、韓国の「原潜」建造計画、国際秩序の維持に関心を失う米国、USAID(米国際開発局)の廃止、中国の軍事パレード、米国のウクライナ和平案、米軍のイラン核施設攻撃などだった。それでも、筆者が最も驚いたのは「米国の国家安保戦略2025」である。理由はこの文書に「戦略」が殆どないからだ。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 12月16日 火曜日 | 英独国防相がウクライナ防衛コンタクトグループ会合を主宰 |
| 12月17日 水曜日 | EU・西部バルカン諸国の年次首脳会合開催(ブラッセル) |
| エジプト、議会選挙(2日間) | |
| 12月18日 木曜日 | インド首相、ヨルダン、エチオピア、オマーン歴訪から帰国 |
| 欧州理事会、指導者会合開催(2日間)、欧州農民の大規模抗議運動も予定 | |
| 12月20日 土曜日 | EUとメルコスール諸国が貿易協定に署名(ブラジル) |
| 12月21日 日曜日 | ロシア大統領、CIS(独立国家共同体)・ユーラシア経済連合の会合を主宰 |
最後は、ガザ・中東情勢だが、あまり動きがないので、今回は珍しく中国の動きを取り上げる。中東訪問中の中国外相が、サウジアラビア、UAE、ヨルダン3か国の外相らとそれぞれ会談し、高市首相の台湾有事をめぐる発言について、各国が「断固反対を表明した」と主張したそうだ。これらの国々が中国を重視することは仕方ないとしても、「断固反対」なんかする国々では決してない。この見苦しい「共産党トップに対する忖度」しかニュースにならないくらい、今中東情勢は動いていないということだ。
他方、筆者が最も心を痛めたのは、オーストラリアでの「反ユダヤ主義」の凶悪化だ。オーストラリアのビーチで「ハヌカ」を祝っていたユダヤ教徒たちに対し無差別銃乱射事件が発生し、欧米諸国では「あのオーストラリアでも反ユダヤ主義が拡大しているのか?」などと大きなニュースになっている。
ところが、日本のメディアはこれを殆ど報じていない。ネット上でざっと調べたら、この問題を「ユダヤ教関連のニュース」として報じたのは以下の記事だけだった。
15人亡くなる 現地でユダヤ教の行事
オーストラリア最大都市、シドニーのボンダイビーチで12月14日、銃撃事件が起こりました。警察はこれまでに15人が死亡、42人がけがをしたと明らかにしました。今のところ容疑者は、シドニー郊外に住む50歳と24歳の親子で、父親は警察官との銃撃戦で死亡し、息子は重体で入院しているといいます。事件が起きたボンダイビーチはシドニーの中心部から約7キロ東にある観光名所です。当時は、ユダヤ教の祭り「ハヌカ」の行事が行われていて、1千人以上が集まっていました。現時点で、日本人が事件に巻きこまれた情報はないということです。
(朝日小学生新聞 2025年12月16日付)
お分かりか?何とこの記事は朝日新聞の「小学生新聞」である。逆に言えば、オールドメディアは殆ど関心がないということ。日本語のインターネットニュースでも詳しく報じた記事は見当たらなかった。この日本ジャーナリズムの「鈍感さ」「感度の低さ」を理解しない限り、中東のことは分からないと思うのだが・・・。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート50【12月15日版】
<今週以前から続く会議>
12月
<12月15日‐12月21日>
15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 パキスタン中央銀行金融政策決定会合
15日 EU外相理事会
15日‐12月17日 細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約締約国会議、年次会議(ジュネーブ)
15日‐12月18日 欧州議会本会議
15日‐12月19日 UNCITRAL、第6作業部会(流通貨物書類)、第47回会合(ウイーン)
15日‐12月19日 国連腐敗防止条約締約国会議第11回会議(ドーハ)
16日 英国労働市場統計(8~10月)
16日 EU一般問題理事会
17日 南ア11月CPI発表
17日 英国11月CPI発表
17日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
17日 米国11月小売統計発表
17日‐12月18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会
17日‐12月18日 科学外交会議(コペンハーゲン、デンマーク)
18日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
18日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日‐12月19日 欧州理事会(EU首脳会合)
18日‐12月19日 日銀金融政策決定会合
19日 ロシア中央銀行理事会
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
<12月22日‐12月28日>
23日 メキシコ11月貿易統計発表
24日 メキシコ11月雇用統計発表
24日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
24日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
26日 ケニア12月CPI発表
26日 インド11月IIP発表
28日 ミャンマー総選挙
28日 中央アフリカ大統領・国民議会議員選挙
<12月29日‐2026年1月4日>
30日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
31日 トルコ11月貿易統計発表
31日 米FOMC議事要旨
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 ロシア大統領がインド訪問
12月中 ギニア大統領・国民議会議員選挙
2026年1月
1日 ロシアで改正国税基本法施行(付加価値税引き上げ、賭博税の導入など)
1日 トルクメニスタンがCISの議長国に
1日 カザフスタンがユーラシア経済連合の議長国に
4日‐1月5日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表
6日 2025年第4四半期及び通年のベトナム社会・経済統計発表(GDP、CPI)
7日 ドイツ11月労働市場統計発表
8日 米国11月貿易統計発表
8日 メキシコ2025年12月CPI発表
8日 ブラジル2025年11月鉱工業生産指数発表
9日 メキシコ2025年11月鉱工業生産指数、12月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 ブラジル2025年12月IPCA発表
9日 米国12月雇用統計
9日‐1月12日 プラスチック素材・加工関連展示会「PLASTEX」(カイロ)
12日 インド12月CPI発表
12日‐1月15日 英国文化外交フォーラム2026年(ロンドン)
13日 米国12月CPI発表
13日 アルゼンチン2025年12月CPI発表
15日 ブラジル2025年11月月間小売り調査発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
16日 ドイツ12月CPI発表
18日 ポルトガル大統領選挙
19日‐1月22日 欧州議会本会議
19日‐1月22日 DIMDEX、2026年 (カタール、ドーハ)
19日‐1月23日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
19日‐1月23日 アフリカ深海外交アカデミー(カメルーン、ヤウンデ)
20日 アルゼンチン2025年12月貿易統計発表
20日‐1月22日 国際先進製造業および未来のモビリィティ展示会「World Advanced Manufacturing & Future Mobility(WAM)」(カサブランカ)
21日 英国2025年12月CPI発表
21日 アルゼンチン2025年11月経済活動月間指数発表
21日 メキシコ2025年11月小売・卸売販売指数発表
21日 南ア12月CPI発表
22日 アルゼンチン2025年11月百貨店およびスーパーマーケット消費指数発表
22日‐1月23日 「帰還移民への対応:次に何が起こるのか?外交、インフラ、そしてその先の道筋」会議(アンタルヤ、トルコ)
26日 メキシコ2025年12月雇用統計発表
26日‐1月27日 アジア金融フォーラム(香港)
26日‐1月28日 サイバーテック・グローバル・テルアビブ2026(テルアビブ)
26日‐1月30日 Gulfood2026(UAE・ドバイ)
27日 欧州議会本会議
27日 メキシコ2025年12月貿易統計発表
27日‐1月28日 ブラジル中央銀行、Copom
27日‐1月28日 米国FOMC
28日 インド12月IIP発表
29日 米国第4四半期(速報値)および2025年通年GDP発表
29日 メリディアンスポーツ外交フォーラム(ワシントンD.C.)
29日‐1月30日 2026年ジミー・カーター米中関係フォーラム(アトランタ、ジョージア州)
30日 ブラジル2025年12月全国家計サンプル調査発表
30日 フランス第4四半期GDP成長率(速報値)発表
31日 ケニア1月CPI発表
1月上旬 中国2026年の主要統計の発表日程公表
1月上旬 中国2025年通年貿易統計発表
1月中旬 中国2025年通年経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
1月下旬 韓国2025年第4四半期および通年GDP(速報値)発表
1月下旬 イラン暦10月CPI発表
1月中 韓国2025年12月および通年貿易統計発表
1月中 韓国2025年12月および通年雇用統計発表
1月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
1月中 WTO2025年第3四半期サービス貿易統計発表
1月中 OECD2025年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問