メディア掲載  外交・安全保障  2026.11.06

米国版「文明主義」とは何か

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年10月29日付)に掲載

米州

読者各位は米国の「文明主義」なる歴史観をご存じか。提唱するのは「新右派」と呼ばれる知識人で、第2期トランプ外交の思想的支柱となる考え方だという。来週火曜日には中間選挙がある。内外の多くの識者は民主・共和両党の獲得議席数やトランプ政権の「レームダック」化の可能性ばかり注目するが、へそ曲がりの筆者は「議席数」よりも、この種の「政治思想」の変化に注目している。

◆米外交の「三大派閥」

従来、内外の米外交専門家たちは次の通り説明してきた。いわく、今の米外交思想は、(1)「優位主義」(米国の覇権を維持する)(2)「自由国際主義」(同盟と国際協力を重視する)(3)「自制主義」(対外軍事介入を最小化する)-という3つの派閥間の綱引きに依存してきた。
この説明、筆者にはいまひとつ「ピン」とこない。これだけでは第2期トランプ外交を説明できないと思うからだが、最近米国メディアや外交専門誌の興味深い論評をいくつか読んで、遅ればせながら、筆者にも見えてきたことがある。それは、今のトランプ外交の思想的背景が「文明主義」であることと、その内容には保守系識者間で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論があることの2つ。となれば、中間選挙後のトランプ外交を占う上でも、外交思想をめぐる米国内議論をご紹介する価値はありそうだ。

◆古代文明の「勢力圏」

簡潔に言えば、文明主義とは、世界を共通の古代文明に根ざした「勢力圏」に分割し、米中露などの覇権国に自国の勢力圏の支配を認めつつ、覇権国同士は相互に干渉せず多極的共存を図るという新国際秩序モデルを指すようだ。
これに基づき「ニュー・ライト」派は、民主主義や人権などに基づく「教条的・普遍的な西洋」なる概念を否定する。一方で、「自制」派とは異なり、西半球での米国の軍事覇権を強く主張するとともに、「西洋」を理念ではなく、血統・キリスト教・言語・土地に基づき排他的に捉え、自由主義を西洋文明をむしばむ「ガン」と見なしている。
つまり「文明主義」とは、西半球を異文化から守り、欧州の反自由主義勢力を支援しつつ、他の覇権国の勢力圏には干渉しない立場らしい。
なるほど、言われてみれば今のトランプ外交の実態にかなり近いようだが、この「文明主義」には他の米保守派論客からも強い批判がある。
ある保守系コラムニストは「西洋文明」が順守すべき3つの原則として、(1)真実の探求と知的謙虚さ(2)個人の尊厳と価値(3)法の支配-を挙げつつ、ニュー・ライト型の「文明主義」を厳しく論破する。
どうやら米国内保守系識者の中でも、「西洋」の本質や米外交の理念などにつき意見が大きく割れているようだ。

◆非覇権国どう対応?

今次中間選挙や2028年の大統領選挙の結果がどうなるにせよ、今後も米国内で「文明主義」的世界観を抱く勢力が一定の影響力を持ち続ける可能性は十分あると筆者は見る。
では日本のごときミドルパワー・非覇権国はこれにどう対応すべきか。筆者の答えはこうだ。

  • 非覇権国は自由国際主義の下で国益を最大化できる。
  • されば、非覇権諸国は連携して覇権国を牽制すべきだ。
  • 他方、非覇権諸国の団結は所詮「弱者同盟」にすぎず、覇権国の代替はできない。
  • 結局、非覇権諸国は覇権国の中で最も親和性の高い米国に対し、「文明主義」が米国の国益に資さないことを忍耐強く説いていくしかない…。

以上、悲しい結論ではあるが、現時点ではこれ以上に効果的な方法は思い付かない。